桜の花咲きて
【詳細】
比率:性別不問1
現代・ファンタジー
時間:約5分
【あらすじ】
夜。
都会の喧騒から離れた高台にある小さな公園。
桜の咲くこの時期にだけ賑わうその場所。
己の身体である桜の木の下で桜花は思う。
【登場人物】
桜花:(おうか)
桜の木の精。
こういう時にだけ己らを見に来る人の子をよく思っていない。
●公園・満開の桜の木の下・夜
桜花:
春の夜
都会の喧騒から離れた高台にある小さな公園
いつもなら夜になると人の子なんて立ち寄らない
いつもの夜なら気にも留められない薄暗くて寂しい場所
普段なら見向きもしないクセに、この季節になると他人の子はよってたかって私たちの身体をいじめだす
月明かりが美しい敷地内に、野暮ったい人工の灯りを増やし、無駄にその灯りを私たちに当てる
いい迷惑だ
一族の中には、こんな時しか見てもらえなくても、見てもらえるのだからありがたいと言う者もいる
どんな理由であっても見てもらえるうちが華だと
我は誰が見ようと見まいと興味はない
現世(うつしよ)の人の子は、『我らが華』を見たいわけではない
ただ、『我らが華』にかこつけて騒ぎたいだけなのだ
誰も花なぞ見ようとはせぬ
人の子がほしいのは、酒を飲む理由
人の子がほしいのは、 騒いでも咎められぬ免罪符
時代は変わったものだ
古き人は我らを見て季節を感じ歌を詠み
また違う古人は我らを見て故人に想いを馳せた
我らが我らとして在る意味がそこにはあった
この時代にはそんな人の子なぞおらぬ
我らの存在はこのまま忘れられ……
おや?
これはこれは……珍しいお客さまだ
(少し意地悪く笑い)……面白い
久方ぶりに人の子にでも見える姿を作るか
こんばんは
あぁ、急に声を掛けてすみません
こんな時間にここにいらっしゃるなんて、道に迷われたのですか?
違う?
え?
……桜を見に来た……
……お花見でしたら、あちらの下の方が明るくていいと思いますよ? ここら辺は灯りも少ないし危険です
それがいい?
え? 月明かり?
月明かりの中に咲く桜の花がとても絵になると思ったからここの桜を見に来た、と?
お一人で?
……驚いた
まだ今の世にも我を、我自身を見てくれる人の子がいるのか
我らを己らの騒ぐ理由にするのではなく、我らを、我ら自身を見ることを目的としてくれる者が
……まだまだ捨てたものでもないらしい
(微笑んで)あぁ、すみません
つい嬉しくて
いえ、なんでもありません
そうだ
この桜の木にはいろいろな歴史があるのです
あなたさえよければ語らせていただけませんか?
大きな瞳を輝かせてこちらを見る人の子
思った通りだ……
そなたなら、その瞳を向けてくれると思った
(微笑みながら)では、何からお話しましょうか……
我らを見てくれた者に
我ら自身を見てくれた者に
我らの歴史を
生き様を
伝えよう
―幕―
2022.04.14 ボイコネにて投稿
2022.12.07 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)