2017年12月26日(火)『国立劇場の、吉右衛門の梅の吉兵衛』
12時開演の、国立劇場の、吉右衛門の梅の吉兵衛を観に行く。隅田春技女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)が正式な演題である。その前に、雀右衛門の今様三番叟がでた。
今様三番叟は、何故、今、この舞踊を見ないといけないのか分からなかったが、雀右衛門に風情があり、美しきもあり、踊りは、悲壮感もありなんだろうが、両手に、長い布を持ち、舞台に付けないように、手を振って、布を波打たせ、絡ませることもなく踊る姿は、曲芸めいて、幸せな気持ちになれた。
隅田春技女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)、梅の吉兵衛を見た。梅の吉兵衛ものという、歌舞伎がある事は初めて知った。先代吉右衛門、初代の白鴎が、演じた事が有るそうだが、歌舞伎座では昭和35年、幸四郎、初代白鷗が演じたのが最後だから、私は、初めて見る梅の吉兵衛ものだった。
梅の吉兵衛は、下総千葉家の重臣三島隼人に仕えていた元侍で、三島家には恩義を感じている。妻は元芸者の小梅で、吉兵衛は、現在は侠客をしている。元の主人隼人から、盗まれた重宝を詮索し、同じ家中の金谷金五郎と、駆け落ちして、今は芸者になった隼人の娘小三を受けだそうと、金策に走り回る。重宝を持つ悪役の源兵衛に、上手く騙されてしまう吉兵衛。主筋の危機を助けようと、金欲しさに女房の弟長吉を、大川端で、殺し、百両を奪ってしまう。最後は、源兵衛と対決し、重宝を金谷金五郎に渡したところで、大団円。今日は、これ切り、で終わった。
見終わって、軽く疲れが出た。期待したほど、吉右衛門の、梅の吉兵衛が、金策に困るばかりで、全体として颯爽としておらず、残念であった。颯爽とした吉右衛門も、各所で見え、それはそれで格好が良かったが、世話物で、内面で、苦闘するキャラクターが前面に出ていて、いやそれが中心で、元武士で、侠客をしている割には、余りに頭が悪すぎるのと、時代物役者の吉右衛門が、世話物の中で、金策に困り果てる所を見せられても、生活感に乏しく、内面の苦しさが出てこないし、女房の、菊之助演じる小梅とのドラマも、小梅が堅気の妻のように見え、芸者上りの仇っぽさに乏しく、武士を捨ててまでも、結婚した夫婦愛もあまり感じられなかった。
ドラマとしてみても、いくら主筋、元主人の娘とは言え、芸者を受けだすのに何でそんなに必死になるのか分からない。男伊達のシンボルにしている宗十郎頭巾を肩に金を借り、半金を約束した日までに作る事も出来ず、苦しんでいる処に、大川端で、100両の金を持っている男を助け、その金に目を付け、金が欲しいが、無い、貸してくれと言いながら、結局殺して金を奪ってしまう。さらに、なんとその殺した相手が女房の弟、長吉という設定は、さすがに無理あり、ドラマとしては、実は実はで、面白くなかった。梅野吉兵衛のキャラクター設定が、今の時点では、面白く見えない、ということか。金欲しさに、人を殺してしまって、悩むと言うのも、あまりに安易で、芝居に、乗って行くことが出来なかった。
歌舞伎座での、55年振りの再演も、詰まるところは、話が面白くないので、再演されなかったと言う事だろう。先代吉右衛門が、当たり役にした梅の吉兵衛を、二代吉右衛門としては、一度やっておきたかっただけではないか、さほど吉右衛門に、熱が入った芝居をしているようには見えなかった。
敵役の源兵衛は歌六で、手ごわい。菊之助は、美しいが、芸者上がりのの艶っぽい嫁のイメージがない、早変わりをした直吉と二役だが、直吉は誠実そうで、綺麗だった。