モノの見方
下記の記事の大前研一氏はご夫婦ともに良く存じ上げています。元マッキンゼーの日本支社長で私よりレフト。ただ、経営や起業をしていた人はマッキンゼーやボストンは信用していません。基本的に「違う側の人達」とみて、「違う側からはどのように見えるのか」ということを見るだけです。私はテスラが嫌いです(笑)。車が好きで運転が好きなのでEVに魅力は1ミリも感じないのです。逆に、スペースXは魅力的です。今年は2度、流れ星を見ました。あんなに遠くを流れているのに瞬きする間に消えるほどのスピードで移動しているような宇宙には、地球上に無い可能性があります。地上で私の車が200キロ出した、250キロ出したと言っても「時速200㎞」でしかない話ですが、我々の地球は『時速10万8千㎞』で太陽の周りを回り、その太陽系は『時速72万㎞』で銀河系を移動しています。地球上の出来事、火山の噴火や地震、台風や熱波など『些細な話』でしかないのです。話が逸れましたが、コンサルの言うことなど天才には関係ありませんということです。
天才起業家・イーロン・マスク氏に問われる経営者の資質 必要なのは有能な“伴侶”か
12/10(土) 7:15配信
希代の起業家として注目を集めるイーロン・マスク氏だが、急ピッチで進むツイッター社の企業改革は賛否両論を呼んでいる。国内外で数々の起業家を見てきた経営コンサルタントの大前研一氏は、マスク氏をどう見るか。
* * * 日本の防衛費に相当する約6兆円でツイッターを買収してCEO(最高経営責任者)に就任したイーロン・マスク氏が、約7500人いた従業員の半数を即時解雇した上、残った従業員に「長時間猛烈に働くか退職か」と二択を迫り、さらに少なくとも1200人が退職したという。この強権的なリストラは大きな物議を醸している。
また、2021年1月に起きたアメリカ議会襲撃事件を受けて「暴力行為を扇動する恐れがある」という理由でツイッターが利用できなくなっていたドナルド・トランプ前大統領のアカウントを、ユーザーの投票結果に基づき「民の声は天の声」と言って復活させた。この見え見えの復活劇で、アメリカ人の半数はアンチ・マスクになった。
マスク氏は発明家・起業家としては天才だ。これまでに電子決済サービスのペイパル、宇宙開発企業のスペースX、EV(電気自動車)メーカーのテスラを設立して軌道に乗せた手腕は素晴らしいと思う。だから、私は本連載や著書『経済参謀』(小学館)などで、誰もチャレンジしていない分野において独創的なやり方で「0から1」を生み出してきたマスク氏の発想力・構想力を高く評価している。
しかし、その一方では思慮に欠けた言動が多い。
たとえば、2018年のエイプリルフールには、株価が大幅に下落していたテスラが「経営破綻した」とツイッターに投稿した。あるいは、同年6~7月にタイで少年たちが洞窟に閉じ込められた遭難事故の際は、救出用のミニ潜水艦を建造したが使われず、それについて「宣伝のためのスタンドプレー」と批判した洞窟探検家を侮辱的な単語を使って罵った。いずれも無意味で不要なことである。
そもそも「言論の自由」を擁護するためにツイッターを買収したというマスク氏の主張も疑問である。無責任なヘイトツイートやネガティブツイートを野放しにして(マスク氏は「目につきづらくする」としているが)、権力者や差別主義者などが自分の言いたいことを──たとえ法律の範囲内であっても―好き勝手に投稿できるようにするのは、決して言論の自由・表現の自由ではない。権力に対する言論の自由・表現の自由は保証されねばならないが、個人に対する誹謗中傷や差別表現は厳格に制限されるべきである。
マスク氏は真空チューブ(トンネル)の中に超高速鉄道を走らせる全く新しい交通システム「ハイパーループ」を開発しているが、カリフォルニア州に建造したテスト用チューブがなくなっていることが明らかになり、計画が頓挫した可能性も取り沙汰されている。もしかすると、マスク氏の“迷走”が始まっているのかもしれない。
創業者には“伴侶”が必要?
マスク氏が天才的な発明家・起業家であることは間違いないが、ヒューマンスキルを兼ね備えた偉大な経営者とは言いがたい。目立ちたがり屋で喧嘩っ早い性格や、人を“道具”としてしか考えない癖は、複数の大企業を持続的に運営していくには問題が多いと思う。
天才的な発明家で大企業の創業者、という人物は数多い。たとえば、GE(ゼネラル・エレクトリック)のトーマス・エジソン、フォード・モーターのヘンリー・フォード、ソニーの盛田昭夫と井深大、松下電器産業(現パナソニック)の松下幸之助、本田技研工業の本田宗一郎といった面々である。彼らには自分の後継者となる優秀な人材が存在した。また、松下幸之助には高橋荒太郎、本田宗一郎には藤沢武夫という経営の“伴侶”がいた。
マスク氏自身、テスラについてはすでに後継者の候補を見つけ、ツイッターも「最終的には新たなトップを見つける」ことを明らかにしたというが、独善的な彼の性格からすると、そう簡単にはいかないだろう。経営のパートナーもいない。
私に言わせれば、そもそもマスク氏がツイッターを所有する必然性は何もない。すでにある会社を改革するのは、発明家・起業家の任ではないからだ。
したがって、改革の地ならしを終えたら、ツイッターの創業者でCEOを二度務めて追い出された盟友のジャック・ドーシー氏(決済サービス企業ブロックのCEO)に経営を引き継ぐ可能性が高いのではないかと思う。
ただし、マスク氏の前途は多難である。EVの分野ではテスラをBYDなどの中国勢やドイツ勢が猛追しているし、スペースXも先行きは不透明だ。それらの経営判断を1人で正しくこなしていくことは、いくらマスク氏が天才であっても至難の業だろう。
さらに迷走して“地獄”に向かう前に、真摯に経営者としての研鑽を積んで人を中心に考えるようになるか、もしくは有能な“伴侶”を見つけないと、いずれは経営から身を引かざるを得なくなり、特許料で稼ぐ財団などを創設するしかなくなるのではないか。
ちなみに「本能寺の変」の9年前、毛利氏の外交僧・安国寺恵瓊は織田信長について「高ころびに、あおのけに転ばれ候ずると見え申候」と予言していた。いくら力があっても恐怖政治で他人を支配する驕り高ぶった者はいずれ失脚する、という意味だ。希代の起業家マスク氏が、そういう運命を辿らないことを祈りたい。
【プロフィール】 大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。