【連載】(タイトル未定)#3
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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すっかり陽も昇り、雲も流れて空が青く見え始めた頃。
フレイはルークを伴って、再び浜辺を歩いていた。
風は随分と静かになったが、波頭は白く、時に高く打ち寄せてくる。戯れるように砂浜を跳ね回っていたルークが、不意に話しかけてきた。
「どこに向かってるんですか?」
「あぁ、この先に、ちょっとな。見慣れんものが流れ着いてるから、様子を見てきてほしいんだと」
さっきの話し声のことだろう。だが、フレイのその物言いに引っかかるものがあった。
「どうして、フレイさんが?」
「フレイでいいって。どうしてって言われても、なぁ」
「便利屋、だから?」
「……まぁ、そんなところだ」
連れてこない方がよかったか、などと一瞬考えてしまったのは、説明が面倒だったからだ。
ルークは、服の着方も食事の仕方も知っていた。自分のことは名前以外、何も覚えていなかったが、生活の一通りのことは当たり前にできるようだった。
彼は、この世界の何を、どこまで知っているのだろう。この状況を説明して、理解できるだけの知識の素地を、果たして持ち合わせているのだろうか。
「……なぁ、ル」
「あっ、あれなんですか?」
足を止めたフレイの背後に目をやって、ルークが驚いたような声をあげた。つられて目をやれば、目的らしきものが見えた。近づいて、フレイが感嘆のような息を吐く。
「……船、か」
「え……?」
浜辺に打ち上げられた、フレイの小屋ほどもあるそれは、朽ちかけているように見えるが、確かに海を渡る船の形をしていた。
もっとよく見ようと近づきかけて、二人はどちらからともなく足を止めた。何かの、気配がする。
「フレイ、さん」
「あぁ、気のせいじゃなさそうだな」
口端を歪め、前方を見据えるフレイの目が鋭さを増した。動くなと仕草で制される。
素早く周囲に視線を走らせたフレイが一歩踏み出した、その時だった。
「シャァアアッ!」
浜に乗り上げた船の縁から、黒い影がいくつも飛び出してきて、フレイに襲いかかる。
「チッ、やっぱそういうことかよ!」
盛大に舌打ちし、悪態をついて、フレイは右手を横殴りに一閃させた。見えない何かが、突進してくる影を弾き飛ばす。「下がってろ!」と怒鳴られて、ルークは側の岩陰に身を隠した。
不自然な風の奔流が巻き起こったような気がした。生き物のものとも思えない耳障りな響きが一度大きく鳴り、徐々に鎮まっていく。
それが完全に聞こえなくなって、ルークは岩陰から顔を出した。
「フレイ、さん」
呼びかけに振り返ったフレイの瞳は、赤みを増して、深い輝きを宿していた。自然のものとも思えなかった風に煽られて背で踊る長い髪は、まるで――
「……あとで、説明する。先にあれの始末をつけないとな」
陽炎のような空気を纏ったまま、フレイは船に近づく。焦げた影の成れの果てに向けて片手を降ると、影は灰になって風に流されていった。