雨とドレイク
2022.12.11 14:43
幼い頃、雨の日が大好きだった。
みなが家に籠もり、
町から人の気が無くなる薄暗い日。
誰もいない小道を
母といっしょに散歩できる
唯一の日だった。
あの頃、僕にとって外の世界は
雨の世界が全てだった。
いつもは潜めている声も
雨の音が全て消してくれる。
僕をジロジロ見てくる人々も
雨が家の中へと封じ込めてくれる。
誰も見てくる人がいないから、
いつもは隠している眼で
空を見上げることもできた。
雨が
僕にわずかな自由を与えてくれた。
そのせいだろうか。
いつからか
僕がふと願うと
雨が降るようになった。
庭先の花が枯れそうになった時も。
隣の山で火事が起こった時も。
母さんと離れ離れになったあの日も。
僕を不安から守るかのように
雨が降った。
兄のもとで暮らすようになって
すっかり背丈も伸びきった頃
雨は、ほとんど降らなくなっていた。
もうお守りはいらないのだと
弱い子供ではなくなったのだと
そう思っていたのに
最近また
雨が、よく降る。
おまえは雨みたいな男だな
そう言うと
むかしから雨男なんだよ
と返ってきた
そういう意味で言ったつもりではなかったが
うまく説明する言葉が見つからなかったので
そのまま言い流すことにした
確かに よく雨が降る
私が出かけようと思った時には、特に。
その度に奴は、
遣らずの雨だねぇ
と、うれしそうにぬかすので
こちらもすっかり
毒気を抜かれるのだ
本当に
雨みたいな男だった
今でも忘れることはない
雲ひとつない快晴の日
わずかに震えていた父の手と
まるで幻のように降った
あの雨を
渇きを癒して すぐ止んだ
私の愛しい通り雨