城田実さんコラム 第27回「 麻薬から見る世相」 (メルマガvol.51より転載)
ジョグジャカルタの大学に留学していた頃、ある学生からガンジャ(大麻の一種)をやらないかと誘われたことがある。下宿からキャンパスまでベチャに乗って75ルピアか100ルピアだったころである。幸いなことに何の幻覚作用も感じず、ガンジャ体験はそれきりで終わった。
スマトラのアチェでは地方料理の味付けにガンジャは欠かせないから、麻薬撲滅は住民の反対で進まないだろう、と彼は言っていた。当時でもガンジャは禁止薬物だったし、アチェ分離独立運動のグループによるガンジャ栽培も問題になっていた。今の大統領の母校でもある名門大学のキャンパスで、知り合ったばかりの外国人に気軽にガンジャを勧める態度が、それほどの違和感を与えないという雰囲気自体が不思議だった。世の中全体がのんびりしていたのかも知れない。
近年、摘発される麻薬事犯の規模の大きさには驚かされる。トン単位で密輸麻薬が発見され、麻薬取引による資金の洗浄が摘発されたという記事では6.4兆ルピアという膨大な数字が報じられている。大統領も、国内の麻薬常用者は420万人、麻薬で死亡する人が毎日37人、経済的損失は72兆ルピアに達すると深刻な事態を改めて明らかにして、これは麻薬戦争だとその撲滅に強い決意を示している。流通している麻薬も圧倒的に外国から流入している。今やインドネシアは国際的な麻薬シンジケートの国際流通網に組み入れられているだけでなく、この国自体が大きなターゲットになっていると当局は危機感を募らせている。
この麻薬戦争の最中に、ガンジャは香辛料ですかなどと聞いたらほとんど正気扱いされないだろう。当時、伝統のバティックの多くは輸入の化学染料を使っていると聞いても信用しない人がまだ少なからずいた。ガンジャとバティックを同列に論じたら怒られるかもしれないが、インドネシアを取り巻く国際環境はこんなところでも様変わりだ。違いは、インドネシア側が国際環境の方に働きかけられる立場になってきたことではないだろうか。その変化を前に進めるためにも次の選挙は本当に大事なのだろう。 (了)