EPISODE3 -若林-
【PROFILE】
・若林 智大 (わかばやし ともひろ)
・8月3日生まれ
・16-17歳 (高校2年生)
・174cm / 67kg / A型
【DATA】
・心の弟弟子
道場に入ったのはほぼ同時期で、1ヶ月程度の違いである。
高校生にして世界で活躍する日本代表選手で、心とはどちらもお互い以外には負け知らずの空手界の精鋭。
・心の事をとても尊敬している
いつも何かと世話を焼いてくれたり優しいのでこの世界で一番尊敬する人間らしい。
それが災いして高校一年生の頃、自分のこの気持ちが憧れなのか恋なのか分からなくなり、一度確かめようと強引な行動に出て思いっきり殴られた事がある。
とは言ってもちゃんと心の幸せを願っているので有紗との関係は応援しているし協力している。
・後輩の有紗と麻莉香とよく一緒にいる
麻莉香の何かが気になるのか、よく謎の絡み方をしている。そしてウザがられている。
・連絡機器を持っていない
なので若林への連絡手段はいつも直談判である。そのせいでいつ家を訪れても部屋には数人の女の子たちが険悪なムードで居座っている事が多い。
・絵が上手い
将来は彫師になりたいようで、よく美術室に常駐して絵を描いている。職人肌の変な奴だと言う人とミステリアスで格好いいと言う人とで分かれる。
【EPISODE3 -若林-】
心とは小学生の頃からの付き合いだった。
遊びの帰り、今日はいつもと違う道から帰ろうと。そうしてたまたま通りかかった道で古い造りの建物が目についた。
その中で長身の白髪の男と少年が日本舞踊のうような、何かよくわからないが何かを練習している。
興味を引かれて近付いてみると、目の合ったその少年は「おまえも強くなりたいのか!」とキラキラした瞳で手を引いて来たという。
少年の名は心と言い、自分の二つ上だった。そして師範を名乗る白髪の男は源次朗と言い、彼は「弟子が増えた」と何やら喜んでいるようだった。
そのままされるがまま、自分が何を教えてもらってるのかわからないまま、流れされるまま時間は過ぎた。でも、とても楽しかったのでまたここに来たいと思ったのだそうだ。
その建物を出た時、やっと看板を目をやると、そこは鷲連館と言う空手道場だった。
それが若林と心を繋いだ空手道という武道との出会いだった。
その後も鷲連館道場に通い、心は一番の友達で同時に良きライバルとなった。
練習試合では勝ったり負けたり、どちらも引けを取らなかった。
そして、心が大学一年生、若林は高校二年生の頃に二人は空手の日本代表選手として選ばれるほどの成長を遂げる事となる。
丁度その頃、同じ高校に通っている一年生の女の子に声を掛けられた。
彼女は有紗と言い、何やら心の事を必死に探しているようだった。自分の兄弟子が目の前の女の子の命を救ったんだと知り、誇らしかった。
有紗の後ろにはどこか浮かない顔をしている女の子がいた。彼女は有紗の双子の妹で、麻莉香と言った。心配になりどうかしたのかと聞くと一瞬とても驚いた目をして、何もないと笑ったが、やはりどこか瞳の奥が暗くて心配になったという。
それから有紗は無事に心と再会を果たし、二人は仲睦まじくなっていった。
後に心と有紗は結婚し、二人の子宝にも恵まれた。
若林はその頃、彫師になっていた。とは言ってもまだそんなに有名ではない。
しかし25歳になった頃、空手の世界大会で知り合った海外の選手からの紹介で、ロンドンの世界的に有名なタトゥーアーティストの元で技術を学べる機会が訪れたのだ。
若林は元から自分の事に至ってはマメに連絡するタイプではなかったので、周りに特に何も伝えず「海外に留学して来ます」の置き手紙だけを残して渡英してしまうのだが、後にこれを痛いほど後悔する事となる。
ロンドンに着いて約3年が経過した頃、日本にいる心と有紗が事故で亡くなってしまったのだ。
しかし連絡機器を持たない上に自分の留学先を誰にも伝えていなかった若林に、周りがそれを伝える術はなく、尊敬していた兄弟子と、その妻の葬式に顔を出す事すらできなかったという。
帰国したのは心と有紗が亡くなってから半年が経過した頃だった。
久しぶりに鷲連館道場を訪れると、源次朗には思い切り一発殴られた。そして心と有紗が死んだと、真実を知った。
最初は冗談だと思ったが、頬の痛みと悔しそうに涙を流す源次朗を見てそれが現実なのだと実感し、しばらくは己の心臓の音しか聴こえなかったという。
しかも心は自分の運転ミスで、見ず知らずの子供一人を犠牲にして、有紗を巻き込み死んだのだと。
息子二人は無事ならしいが、源次朗は二人に会う事も出来ず、二人はすでに義父母の元に送還が決まっており、その義父母が誰なのかも教えてもらえないという。
そして心の母の元には事件を聞きつけた人間からの悪戯が絶えないらしい。
若林は、こんな地獄のような状況で今まで何も知らずに生きていた自分を責めた。
しかし源次朗に諭され、今自分に出来る事をやろうと何とか前を向いた。泣く暇も無かった。正直言うと死んだ姿を見た訳ではないから、心と有紗はまだどこかで生きているんじゃないかという気持ちもあった。
心の実家を訪れるとそこには「人殺し」等の張り紙。母親は今回の件で誰かと面会する事すら適わないほどに衰弱していた。
有紗の両親は最愛の娘を巻き込んだ心を、おそらく恨んでいるのだろう。連絡はつかない。
そしてこの悪戯だけはとりあえず止めさせそうと張り紙や落書きの処理をしてる時だった。
見知らぬ二人の人物がそれに協力してくれたのだ。
その一人は事故当時、その事故現場付近を歩いていた男性。
もう一人は、犠牲となった子供と手を繋いでいた母親である女性なのだという。
その女性によると、自分の子供は心が乗っていた車に轢かれたのではないと言う。
もう一人の男性は、信号待ちをしていた心たちの車に、対向車が猛スピードでぶつかり、その最中に子供がはねられたのだと言う。
そして、その車には、名の通ったこの国のとある権力者が乗っていたとの共通の証言。
つまり、心はその人物に自分と嫁の命を奪われ、さらにはその罪を被せられたのである。
証言をしてくれたその女性は前からこの事件について声を上げてくれており、もう一人の目撃者である男性と共に心の母に話をしに来たのだという。
それを聞いた若林や源次朗はもちろん憤りを顕にし、この事件についてその二人の協力者と共に真相を追う事となる。
しかし、いくらこちらが声を上げても警察も裁判所も聞く耳を持たなかった。
証言だけでは決定的な証拠がないの一点張りである。
それから半年経った頃だった。
協力してくれた男性は音信不通となり、どこかに失踪した。
もう一人の女性は、無惨にも自宅で何者かに殺害されてしまう事となる。銃殺だったという。
そしてこの二人の件に至っても警察はだんまりを決め込んでいた。
つまりはこの事件の裏ではすでに警察絡みで入念に包囲網が敷かれており、自分たちが何をしようと無駄だったのだ。
そして、女性がいとも簡単に殺された事を見ても、何かしらの反社会的勢力が加担しているのは明らかだった。
その頃に若林は自分自身にも刺青を刺した。
汚れた世界でも正しく生きるという意味を持つ蓮、生命力の象徴である鯉。それは罪を被せられ不毛な死を遂げた心と、若くして共に亡くなった有紗への弔いと、二人の分まで抗って生きようと決めた己の覚悟だった。
それ以降、若林は彫師という自身の職業を利用し、その道の人間が訪れるとそれとなく聞き出し、時には施術を行う事を理由に目星のついた元へ潜り込んだり、同業者になりすましてして情報を漁ったりもした。
そして事件に絡んでる組織もおおよそ判明し、源次朗とこの先どうするか計画を立てている時だった。
鷲連館道場の電話が鳴った。
源次朗が電話を出ると、それは心と有紗の息子である、紗一からだった。
紗一は昔から賢い子だったので、道場の連絡先を覚えていたのだという。
しかしどういう理由か、紗一は公衆電話から連絡していた。
今誰と一緒にいるのかという質問には答えなかった。しきりに「ハルはどこ?」とこちらに聞くばかりだったという。
その時、紗一とハルは今一緒にはおらず、公衆電話からしか連絡できないような状況下にいる事がわかり、芳しくない現状に焦りが募った。
それから毎日、決まった時間に紗一は道場に電話をして来た。おそらく学校帰りなのだろう。
ある日、若林が電話に出た時、若林は紗一に義父母の特徴を聞いた。
すると「金髪の女の人」「母さんと顔が一緒」と言ったのだった。
若林の脳裏に一人の女の子が浮かんだ。
有紗の双子の妹、麻莉香である。
有紗の妹なら安心なのでは。一瞬はそう思った。
しかし数年前に気になった、あのどこか暗い瞳を思い出したのだった。
麻莉香が持つ闇は、一見何でも出来る彼女の唯一の隙だったように思う。
そこを何者かに付け込まれ、彼女もまたこの事件に巻き込まれてしまったのだろう。
若林はそう思った。
→【EPISODE4-麻莉香-】