【後編】インタビュー企画
タテ 作品を縫っている間は一気に集中していると思いますが、息抜きをするために普段はどのように気分転換をされていますか?
瀬川 自宅の一部屋をアトリエにして作業してます。生活スペースと制作スペースの境界が曖昧で、集中するとずっと作品の事ばかりを考えてしまうので、息抜きはとにかくその場から離れる事ですね。
iPhoneを持って、夜に誰もいないことを確認して曲を聴きながら声に出して歌ってみたり、踊ったりしながら散歩するのが好きで す。本と映画も好きですが、主人公の気持ちになっちゃうタイプなので息抜きにならないですね。悲しい映画とかを見て、共感して引きずってしまったり。だから音楽がいいです。
〈作品作りと個展〉
タテ 個展『Ordinary』の時に「前回の磐田のときからずっと追いかけているのよ」って僕に声をかけてくれたお客さんがいらっしゃいました。リピートで来られている方も増えているなぁって思います。磐田の個展はメディアに取り上げられたという事もありましたが、一つのポイントとして重要な個展になった感じがありますね。
瀬川 磐田の時から知ってくれた方が多く、続けてまた作品を見たいって思ってくれているだけで「がんばらなきゃ」って思います。トークコーナーでもお話ししましたが、初めての企画展だったので、自分が主催ではなく、長期間の開催でお客さんに見てもらったり選んでもらえたりするっていうのは自分の中でも大きな自信になりました。
※磐田市新造形想像館 個展会場
タテ 自分が主催する個展と、企画展とではけっこう気持ちが違うものですか。
瀬川 モチベーション的も同じですし、作品作りも変わっていません。でも、自分と一緒に同じ方向を向いて並走したいって思ってくれた人(磐田市新造形想像館のスタッフの皆さん)がいたっていうことがすごく嬉しかったんですよね。
磐田の結果が嬉しかったのではなく、声をかけてくれて個展が決まったことが嬉しかったです。 あとやっぱり一人でできる事なんて本当に限られているんだなって事を磐田をやってわかりました。私が作って、私がプロデュースしてって、結局限界があるのでこうやって記事を書いてもらったり、カメラマンさんに入ってもらったりとか、自分だけじゃない人が協力してくれるから、活動の輪の直径が広がるんだと思いました。
タテ 夏帆さんにとって、個展とはどのような場なのでしょうか。
瀬川 最初の個展は作ることが楽しくて「作品いっぱい出来たからみんな見てー!」というただ素直な気持ちでした。見てもらうまでが目標だったので、その後のことは考えていませんでした。
最初の個展が終わった後、人に見てもらうってことは、みんながそれぞれの感想を持つっていう事だと初めて気付きました。 私の表現を受け取ってくれる人がいるならそれに対するメッセージが何かしらこちらに無いとキャッチボールにならないという事を学びました。
制作は私が作りたいものを制作しているのですが、一つ一つの作品という視点ではなく、作品を並べた時の個展という視点で考えると、個展を来場した人に一つの企画として楽しんでもらいたいと考えています。 制作と展示は、自分のなかで微妙に違っていて、、、制作は作りたいものを作る。展示はそれをどうやって発表したり、イベントとしてどのようにエンターテイメントにするかっていう事も考えることを、2回目から少しづつ意識するようになりました。
タテ その視点は夏帆さんの特徴の一つだなぁという気がします。
瀬川 そうですね。他の作家さんは制作の方に比重が寄っている方が多い気がしますね。私にもそういうところはありますが、個展については他の方よりもイベントとして意識をしている感覚が強いかもしれません2021年 『キオクとリンカク』と2022年『Ordinary』では詩を全面に出して発表していましたが、詩を書きたいというよりも展示をエンターテイメントとして作品を楽しみやすくするための布石になればと思っているんです。
詩を作品と思っているというよりは、刺繍の作品をより噛み砕きやすく受け取ってほしいと願って作りました。
タテ アーティストとしての夏帆さんと、それをプロデュースする夏帆さんという2つの側面があるなぁ〜とは感じていましたが、割と意識的に行っていたんですね。
『Ordinary』の期間中にも2日間ほどお邪魔させていただき、夏帆さんやお客さんを見ていましたが、来場いただくお客さん、常連さんから初めての方まで皆さんに積極的に声をかけていくのが印象的でした。作品を知ってもらおうと個展を運営する仕事がとても丁寧で好感を持ちますね。
瀬川 丁寧に見えていますかね(笑)
タテ 見えていますよ(笑)もちろん大手の代理店が入っているわけじゃなく個人単位なので、できる範囲のなかで丁寧に「作品を知ってもらおう」という意志を感じます。例えば、夏帆さんはSNSでの発信をよくされているのが印象的です。個展の前には積極的にストーリーズをアップしたりLIVE配信をされていたりします。そのような発信は意図的に行っているのでしょうか。
瀬川 そうですね。この時代に生まれてなかったら、多くの方に作品の制作風景を届ける方法ってないと思うんです。録画してDVDやビデオにして届けるとかの方法はあるかもしれませんが。
タテ 在庫がいっぱい溜まっちゃいますね。
瀬川 そうそう(笑)今の時代にSNSがあるなら使わない手はないっていう、本当にその一点です。
タテ 作品の隣にQRコードが貼ってあって、動画への誘導もされていますよね。やっぱりその作品を楽しむという事に抜け目がないというか。その作品をできる限り楽しんでもらおうという気持ちが強いんだろうなぁと思いました。
瀬川 サービス精神のようなものがあるのかもしれません。
「これはどうしよう? これはどうする? 」って来場する方をもっと楽しませたいって考えるのもとても好きです。
〈これからの夢〉
タテ 今後、叶えたい目標はありますか。
瀬川 野心はいっぱいありますよ(笑)
大きなことで言えばスカイツリーとか、そんな大きな場所で作品を発表したいですね。東京の街を私の絵が描かれたラッピングカーが走るとか。
あと、ずっとやってみたいのは小説などの本の装丁ですね。お菓子のパッケージや紙袋、テレビ番組のオープニングに使ってもらって、今よりももっと多くの人に見てもらえたら嬉しいですね。 すごく遠い目標に思えるけど、3〜4年前の私が言うよりも今の自分が言ってる方が確実に夢に近づけているから、それでいいと思います。果てしない夢であっても言葉にして続けていく事が大事だと信じてます。
タテ せっかくなのでこの流れでお伺いしたいのですが、様々なグッズ展開をされていますよね。服や小物など縫うという表現とマッチしていてとても素敵です。アーティストの作り出したものが生活のなかに溶け込んでいくという感覚がとていいですね。今後、こんなグッズを作ってみたいという希望はありますか。
夏帆 着物の帯なんて作れたらいいなぁって思います。 母がお茶を始めて着物を着るようになったんです。60を過ぎてめっちゃ楽しそうで。やっぱり「好き」の力ってすごいって思います。 先日、補助金事業の事業者同志の懇親会というのがあって、ある染色作家さんから遠州織物の端材のプロジェクトのお話を聞き、今まではあまり目を向けてませんでしたが、遠州地域にはそういう伝統工芸があるので、そういった和風や地元に根ざした素材もこれから挑戦してみたいと思っています。
タテ 確かに、、、和というテーマを想像していませんでしたが、今の手法を使って表現することで、世界観がまた広がる感じがします。
瀬川 楽しいですよね。今後挑戦してみたいなって思っています。
〈はままつKeeo on Lovingプロジェクト〉
タテ 今回『はままつKeeo on Lovingプロジェクト』という事業を立ち上げましたが、今までの個人的なアーティスト活動と違い、 トークイベントやワークショップといった夏帆さん自身から外に向かって「好き」っていう事をみんなで広げていこうよという文化的な事業に近いですよね。そういうことをやろうと思ったキッカケというか、推進力は何なのか教えていただけますか。
瀬川 キッカケは浜松市の補助金の推進事業を行っている浜松アーツアンドクリエイションの担当の方が私の個展に来場してくださり、補助金の説明を受けて「私にできる事があるなら」って思い興味を持ちました。
補助金は作家以外の活動が対象になるので、何をやろうかと考えた時に「好き」の背中を押せるプロジェクトを企画しました。
よくお客さんから「私も好きなこと出来たらいいのに」という言葉を聞きます。そのたびに「やれるよ 〜、全然やっちゃいなよ〜」って思うんです。作るだけで楽しいんだもの。発表するなんてもっと楽しいんだからって。
そういう時、自分がやりたいと感じる事に対して、誰かに応援してもらったりとか、誰かに認められているっていうだけでモチベーションが全然変わってくるだろうなって思いました。
今回のワークショップは子供を対象にしましたが、子供に限らず好きな事を表現する事で心が楽になったり、「好き」を他者と認め合うという事で生きやすくなったりすると思います。そこをメッセージテーマにお話するトークコーナーと、小学生向けのワークショップを事業のメインに企画しました。
今回のワークショップも”好きなことを大切にする気持ち"こそが大事で、それが刺繍であっても絵を描く事であっても何でも良くって。大事なのは「好き」を大切に思う気持ちと、誰かの「好き」を大事に思える気持ちなんです。 大人に対しては子どもたちの作品を来場した方が見ることで、「何か私も帰りに手芸屋さんに寄って帰ろうかしら」とか、「やろうと思っていたけどやらずにいた事を初めてみようかしら」というキッカケになったらいいなって願っています。
タテ 『ハママツKeep on Lovingプロジェクト』の今後の展開は考えられていますか。
瀬川 先ほどの話とも被りますが、私一人ができることは限りがあるので、私が主催したトークコーナー、ワークショップに参加してくれた皆さん、ご家族。そして子どもたちの作品をみてくれた方。それとその先に広がる人たちにメッセージが届けばと意識しています。
メディアに出たり、プロジェクトの規模を大きくしたりとか、広げ方はいろいろあると思いますが、小さい単位でも丁寧に盛り上げて、それを積み重ねることで大きな波を作っていく方が私らしくていいかなと思っています。
今回のワークショップでは、保護者のみなさんから感想のメールをいっぱい頂きました。子供の「好き」に対するアプローチを目的にしていたのが、子供たちに対する保護者の方の見方も変わるんだという事をメールから感じました。「これからうちの子の好きなことをもっとこうしてあげたい」って、そういうキッカケになった事が嬉しかったです。
タテ 2018年に初めて作品を見させていただき、様々な悩みを抱えながら作品作りを続けた2019年の『Where I am.』。そして現在「好き」というテーマを手に入れて次のステップに飛び立とうとする2022年の夏帆さん。 近いうちに新しいターニングポイントが出来て「今の私はこんな成長をしたんだよ」ってお話を聞ける日は近い気がします。 今日は長い間、インタビューのお時間をいただきありがとうございました。
ライティング / タテイシヒロシ
グラフィックデザイナーの傍ら、街で起こることを観察し文章にすることをライフワークとしている。
その他にアングラ芝居の誘致、町ブラ観光イベントの開催などを企画・制作。
ウェブサイトJimottomall管理人(https://www.jimottomall.com/)
https://www.instagram.com/tateishihiroshi/