凸と凹「登録先の志」No.19:古澤由加里さん(NPO法人ひだまり創 理事長)
体の自由が奪われてしまうと、心の自由も奪われてしまう
幼少期に姉が小児がんで長期入院していて、おばあちゃんに育てられたこともあり、おばあちゃん孝行したいという思いがありました。
介護福祉士として働いていた時に「家族や人様に迷惑をかけて、長く生きて申し訳ない」といった声をよく耳にしました。体の自由が奪われてしまうと、心の自由も奪われてしまうんだなと思いました。お世話される側も負担なんだなと気がつきました。
レクリエ―ションの一環で、利用者さんにポーチや編み物を作ってもらったりしました。最初は「作れてよかったね」となっても、数が増えてくると家族が困惑する問題にぶつかりました。一生懸命作っても喜んでもらえなかったら、作る気も消え失せてしまいます。
そこで「チャレンジ市」という多世代が交流できるイベントをママ友とつくりました。店番をしてくれたおばあちゃんの作品を50円ぐらいで小学生の女の子が買ってくれた時に、おばあちゃんも女の子も喜んでくれました。その姿を見て、誰かの喜びが自分の喜びにもなることを実感しました。おじいちゃん、おばちゃんたちが主人公になる取り組みができたらいいなと思いました。
その人それぞれの人生の主人公になってもらいたい
高齢というのは、人生でいうと最後のフィナーレを迎える時です。一番盛り上がってほしいけど、介護を使い始めると「私の人生ももうすぐ終わり…」という感じになってしまいます。健康寿命は女性だと現在75歳ぐらいなので、寿命とのかい離が約10年あります。介護が始まって「人生終わりだ…」と思うか、「フィナーレが始まった!」と思うかではまったく違うと思うのです。
高齢者になると、地域との接点が失われがちです。高齢者を地域で見かけなくなるのは、人に迷惑をかけたくない、こんな姿を見せたくないという思いから、家族や介護事業者のつながりだけに閉じこめてしまったり、高齢者自身も閉じこもりがちになるからだと思います。高齢者には「高齢者」というくくりではなく、「○○さん」という一人の人格が当然あります。だからこそ、その人それぞれの人生の主人公になってもらいたい。そのような思いを持った介護事業者はまだまだ少ないと感じていますが、仲間の手を借りながら、高齢者がやりたいことを実現できる社会にしていきたいです。
ただ、どうしてもご高齢の方ほど新しいことへ挑戦することに苦手意識があります。小さくてもいいので、チャレンジして自分も周りも喜んでもらえる循環をつくりたいと考えています。まずは利用者さんや家族のみなさんから始め、利用者さんや家族が変わり、自分たちの周りが変わってくると、もっと大きな市町村単位も変わっていくのではないかと考えています。
高齢者介護は、自分の未来を変える選択になる
団塊の世代が75歳以上となり、雇用や医療、福祉など、さまざまな分野に影響を与えることが懸念されることを「2025年問題」と言われてきましたが、その時が近づいてきて、いつの間にか「2050年問題」と言われるようになりました。問題を先送りしたい意識の表れではないかと感じています。
「人生100年時代」と言われていますが、早い人では40歳から介護を使う場合もあり、自分がいつ介護を使い始めるかは誰にもわかりません。介護に対する一人ひとりの意識や行動を変えていかないと、安心して2050年を迎えられません。
高齢者介護にかかわることは、自分の未来をつくることだと思っています。自分が高齢になって介護が必要となった時にどんな生き方をしたいか、今ならつくることができます。「こんな介護があったらいいな」と思うことを今から実現しておけば、自分が高齢になった時にそのサービスを受けられます。これからの日本では、外国人やロボットによる介護を受けることも予想されています。介護が必要になっても地域や社会とかかわりながら生きていく道をつくることは、自分らしく生きられる人生の選択肢をつくることになります。まだ少し先の話だけれど、今から始めるからこそつくることができる未来があることが、高齢者支援のおもしろさだと感じています。
取材者の感想
このインタビューでは毎回、「セルフ(自分の活動の背景)」「アス(他者と共有する価値観)」「ナウ(今行動する理由)」という3つの物語をお訊きしていますが、ほとんどの方が「アス」と「ナウ」をどう話すかに苦労する中、古澤さんはこの3つをしっかり整理して話してくださったことが印象的でした。真摯に向き合い考えて、インタビューに臨んでくださったことがよく伝わってきました。
私の祖父母はすでに他界していますが、晩年、自分のやりたいことを実現できていたのかな…と考えると、両親にはやりたいことをあきらめないで最期まで過ごしてもらいたいなと感じました。
一方、古澤さんと話す中で、介護業界では「家族」という概念が破綻しかけているというお話もありました。「最期に周りにいる人」として、介護チームが家族の代わりをしていることも増えているそうです。ひだまり創のようなところだったら、私も安心して両親を預けることができそうです。(長谷川)
古澤由加里さん:プロフィール
NPO法人ひだまり創 理事長
結婚を機にヘルパーの資格を取り、デイサービスに勤務。子どもも生まれ、子育てしながらパートで働く中で、身だしなみを整えることや触れる大切さを知る。また、高齢者の知恵や手仕事に感銘を受け、高齢者のできることを活かせない現状に疑問に感じる。
2015年介護福祉士の資格を取得して、「介護エステ」という造語と技術と理論を開発。有償ボランティアで訪問開始。「もっと会いに来てほしい」という声を受け、介護エステケア協会を設立。同年、多世代交流マルシェ「チャレンジ市」を自宅で開催。モノづくりや好きなものの前では、介護される側もする側も関係なくなると実感。これ以降、モノづくりを応援できる仕組みづくりはできないかと考え、チャレンジ市は年に1回、規模を拡大して開催。
法人格がある方が活躍の幅が広がると考え、17年に自力でNPO法人の設立手続きを行う。18年介護保険内事業をスタートし、居宅介護支援事業所を設立。21年訪問介護事業をスタート。介護保険内サービスと介護保険外サービスを合わせて提供する体制づくりや、他団体と協力して障害者や高齢者のモノづくり支援を行っている。
NPO法人ひだまり創は、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。