事例研究(審査請求の対象) 2022/12/14
【「健保除外通知」は処分に該当 不服審査対象、最高裁が初判断】~東京新聞
<記事抜粋>
個人事業を始めた妻の収入が扶養認定の基準を上回ったとして、妻を被扶養者から外すとした健康保険組合の通知が審査機関に不服申し立てができる処分に当たるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は13日、通知は処分に該当し、被保険者と同様に審査機関の審査対象になるとの初判断を示した。
夫は通知を不服として審査請求したが、近畿厚生局社会保険審査官は、通知は処分ではないとして却下していた。
判決は、通知の取り消しを求めた夫の訴えは却下した。
<争点>
審査請求とは何か
審査請求の対象
<所感>
健康保険組合が組合員に対して行った、妻を被扶養者から除外する旨の通知(以下「被扶養者除外通知」という。)の処分性を認めた最高裁判決
審査請求とは、行政処分に不服がある者が審査庁(行政処分の適法性等を審査する行政庁)に対して行う行政不服申立制度である。
審査請求は、行政処分及びこれに準ずる行政作用(公権力行使作用)を対象として行政不服審査を行うものであるから、行政処分その他の公権力行使作用以外の行政作用には適用されない。
これを「処分性」の審査請求要件という。
なお、処分性は、取消訴訟(行政処分その他の公権力行使作用を争って裁判所に取り消してもらう訴訟)の訴訟要件でもある。
本件の審査庁である社会保険審査官は、被扶養者除外通知の処分性を認めず、審査請求を門前払いする判断を下した。この判断のことを「却下裁決」という。
しかし、被扶養者除外通知の処分性をめぐって、上記組合員は取消訴訟を提起して争い、その結果最高裁が上記の判断を下したというものである。
最高裁は、被扶養者除外通知に処分性を認めた。
行政庁による法的見解の表示に処分性が認められるかについては、数多くの判例があり、たとえば交通反則金納付の通告について処分性を認めない旨の最高裁判決や、輸入禁制品に該当する旨の税関長の通知に処分性を認めた最高裁判決などがある。
一般的な傾向として、最高裁は、広く処分性を認める方向で解釈する傾向にあり、本件の最高裁判決もその傾向に沿ったものといえる。
まだ判決文を確認できていないから確定的なことは言えないが、記事によると最高裁が判決で組合員の訴えを却下したとあるから、最高裁は処分性要件以外の訴訟要件の欠缺を理由として原審判決を破棄自判して訴え却下判決を下したものと思われる。
あるいは記事の記載が法的に不正確で、実は請求棄却の自判の可能性もある。
というのも、最高裁が被扶養者除外通知の違法性は認められない旨の判断を示した可能性は否定できないからである。
いずれにせよ、行政法を学習・研究する人にとっては、本判決は重要判例となるものであるから、争点を正確に把握しておきたい。