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山形スペイン友好協会

地中海に臨むメトロポリタン

2022.12.14 10:28

  おしゃれな街バルセローナ −−この街に20年暮らして−− 

     スペイン語通訳・翻訳家:大場紀子

【サグラダ・ファミリア ガウディ通りから生誕の門を見る】


 20年近くスペイン、カタルーニア地方の町バルセローナ(スペイン語で発音するとバルセロナよりバルセローナに近いので、ここではこう表記)に住んで、町の生活、感じたことなど街の案内とともに紹介したいと思う。

スペイン、ポルトガルのあるイベリア半島北東部に位置するバルセローナ。この、地中海に臨む街バルセローナと言えばサグラダ・ファミリア(聖家族教会)、サグラダ・ファミリアと言えばガウディと、街の代名詞のように言われガウディ抜きでバルセローナは語れない。

とは言え、バルセローナの魅力はもちろんガウディの作品だけではなく、街は旧市街、アシャンプラ(都市拡張計画地区)、新市街と大きく3つに分けられそのどれもが味わい深く、ただブラブラと街歩きするだけで異文化に触れられ観光気分に浸ることができる。

それぞれの地区をざっと紹介してみる。旧市街はゴシック地区と呼ばれる地区が代表的。その中心にはゴシック様式のカテドラル(大聖堂)がある。カテドラルの周囲は中世の重厚な佇まいをみせ、石畳の小路に誘われ入り込むとローマ時代の遺跡に遭遇したり、小さな教会があったりとまるで時代映画のセットの中に迷い込んだような錯覚に陥る。

私のお気に入りは市庁舎のあるサン・ジャウマ広場から港に向かって広がる地域。小さな工房やアトリエ、バル(カフェとバーが一緒になったようなお店)が何世紀も前の建物をそのままに今風に営業している。バルはちょっと入りづらい雰囲気もあるが“¡Hola(オラ)!(英語でいうところのハーイ)”といっていけば大丈夫。怖がらずに気楽にいったほうがいい。そして“Una caña, por favor(ウナカニャ、ポルファボール−−生ビール一杯お願いします)”とか、“Un café soló, por favor(ウンカフェソロ−−コーヒーをブラックでお願いします)”とかスペイン語で注文すればその場の雰囲気に溶け込めるというもの。

実際のところバルセローナ県を含むカタルーニャ地方はスペイン語とカタルーニャ語のバイリンガル地方だ。地元の人はカタルーニャ語に特別な感情を持っている人が多く、スペイン語を快く思わない人もいるが、そこは外国人ということで大目に見てもらうほかない。

そしてどこの、どんなところに入るときでも挨拶の“¡Hola(オラ)!”はとても大事。ともすると日本人は目で合図したり会釈する程度で、黙ってヌゥーっと入っていきがちだ。話してコミュニケーションを取るのが当たり前のスペイン人にとって、日本人の無言の挨拶はちょっと不気味な感じに受け取られかねない。例えばエレベーターに乗り合わせた時、軽く“オラ!”と挨拶すればその場の空気が和らぐこと受け合いだ。

【旧市街のシウタデリャ公園、左側に見えるのが凱旋門】

【旧市街の路地にあるローマ時代の遺跡】

【旧市街にある由緒ある社交クラブの図書室  祝祭日に一般公開される】

【旧市街にある現代美術館】


旧市街とアシャンプラを分けるのがカタルーニャ広場。この広場から南、バルセローナ港に向かってのびる道がプラタナス並木のランブラス通りと呼ばれる目抜き通り。両側を車道で挟まれた内側は歩行者専用で道の両側には花屋、キオスク、ペットショップが立ち並ぶ。そこには大道芸人やストリート・ミュージシャンがいて通りに彩りを添え、一年を通して賑わいをみせる。友人同士で特に行き先の決まらないときなど『ランブラスに散歩に行こうか!』と出かけることもよくあることだ。

散歩はPaseo(パセオ)と言われるが、間違いなくスペイン文化の一つだと思う。日本でも“ちょっと散歩に”と言ってそこら辺を歩いたりするが、スペイン人は桁違いに街のそぞろ歩きが好き。ゆったりと夫婦で、カップルで、もちろん友達同士で話しながら歩き、知り合いに出逢えばそこで話が弾み“じゃ、そこでお茶でも(¿Tomamos algo, por aquí?トマモスアルゴ ポルアキ)”ということになる。特に商店が閉まる日曜日はこうした光景がいたるところに見られる。スペイン人の人生を愉しむ、という姿勢が見られる習慣の一つだろうと思う。本当に話すことが大好きな人達だ。身振り手振り、時にはツバを飛ばしながら話に夢中になる。こんな様子を傍で見ているだけでこちらまで愉快になってくる。ただしスペイン人の話し好き、楽しいことばかりではない。例えば、急いでいるときに誰か知人にあって話し始めると話を切り上げるタイミングが難しい。それから話し声がかなり大きいこと。近くで話されたとき耳が痛くなるぐらいの大声で話す。しかしすべてのスペイン人がそうかというと、当然そんなこともないが……

さて、バルセローナの街紹介に戻って、カタルーニャ広場の北西に位置するのがアシャンプラ。碁盤の目に整えられた地区にサグラダ・ファミリアを始めとするモデルニスモ建築(曲線や植物をモチーフにした装飾性の高い芸術様式)が立ち並ぶ地区だ。バルセローナに住み始めて間もなくまだ街に不慣れなころ、碁盤の目の角に当たる両端には銀行がある場合が多く、いくら歩いても“あれっ、また同じ銀行?”とまた同じ所を歩いているような気がしたものだった。今思えば通りの名前が碁盤の目の両端に掲示してあり、各々の戸口には番号が打ち付けられてあって、もしかすると日本の街より住所を確認しやすいようにも思う。ちなみに通りの番号表示は奇数と偶数が通りの両側で分かれている。

そして三番目の地区が新市街。街を斜めに走るディアゴナル大通りがアシャンプラと新市街を分けている。ペドラルベスやサリアといった一戸建ても多く見られる高級住宅街で道幅も広く、ピソ(マンション、アパート)、トーレ(一戸建ての屋敷)が趣きのある坂道に優雅に建ち並ぶ。ガウディのグエル公園やサンタ・テレサ学園がこの地区にある。住宅だけでなくブティックやレストランもどことなく上品で高級感のある店が多い。有名ブランドのブティックはどちらかと言うとアシャンプラ地区のPasseig de Gràcia(パサッチ・ダ・グラシア)通りに多く集まっているが、新市街にある店は“こんなところにこんな店が…”と意外性もあって派手さは抑えめでもどこか格調高い。

新市街に隣接してグラシア地区と呼ばれる特徴ある地区がある。ここは以前独立した村のように存在した地区で、ピソも商店も小ぢんまりとしていて親しみやすい。若者や外国人に人気の地区でもある。8月には通りごとに飾りつけをし、各町内で出し物を出して賑わうFesta Major de Gràcia(フェスタ・マジョール・ダ・グラシア)お祭りがある。また地区内には小規模の映画館が複数あって、マニアックな映画ファンが喜びそうな映画を上映したりしている。アニメ作品を含む日本映画などもよく上映されていた。

映画といえばスペイン人の第一の娯楽は映画だった。だったというのも、今やレンタルビデオや映像配信サービスに押され廃業に追い込まれる映画館も少なくないのではと思うから。週のうち入場料が割引される日があり、そんな日に、封切りされて間もない人気映画を上映する館は長い列ができるのが常だった。日本で上映される外国映画は字幕スーパーで観るのが普通だがスペインでは80%ぐらいが吹き替え。多くはアートシアター系やリバイバル専門映画館が字幕スーパー上映する状況で、字幕に慣れた私たち日本人にとって見慣れたアメリカの俳優がスペイン語で話しているのを聞くと妙な感じのするものだ。現在の映画入館料は都市によっても違いがあるがバルセローナで6.1〜9.5ユーロ(日本円では約870〜1,370円)。水曜日、館によっては月曜が割引日で40%オフになる。今は円が安いので換算するとあまり安く感じないが、私が住んでいたころ娯楽といえば映画を観に行くか、あるいはバルをはしごしてワインを飲み歩くぐらいしかなかったけれど、映画の入館料は大体3,4百円程度の感覚だった。あの当時の安さがなんとも懐かしい!

ガウディの建造物やモデルニスモの作家たちが街をアートの街に仕上げている感のあるバルセローナ。一度は入ってみたい美術館や音楽堂、博物館が数多くある。ここでは羅列するだけになってしまうが、先ずピカソ美術館、ミロ美術館、タピエス美術館、カタルーニア美術館、海洋博物館、市歴史博物館等など、絵画や彫刻、宗教美術など専門的な美術館もある。

数ある観光スポットの中でもお薦めしたいのがカタルーニャ音楽堂だろうか。ガウディと同世代のモデルニスモの作家、Lluís Domènech i Montaner(リゥイス・ドメネック・イ・モンタネール)作の音楽堂でモザイクタイルを施した支柱や壁面、ステンドグラスの美しさが際立っている。ステージのある壁面はレリーフのように上半身が浮かび上がった人物の彫刻が印象的で、縁取るように配置された馬の彫刻とともに目に焼き付いて忘れ得ないような強烈なインパクトがある。もう一つ紹介するとすれば、新市街にあるペドラルベス修道院かもしれない。あまり観光客は訪れない穴場的な場所だ。修道院の回廊はゆったりとしていて、静かな午後のひとときを中世に引き戻されるような感覚で過ごすことのできる空間だ。

【シウタデリャ公園内の噴水 動物の彫刻は若き日のガウディ作】

【デザインの街を象徴するような建物 Torre de Agbar】

【グラシア通りのモデルニスモ建築】

【グラシア地区の広場 少しぐらい寒くても外の席が一杯になる】

【グラシア通りにあるおしゃれなカフェバル】

【カタルーニャ音楽堂】


ここまで簡単に街の紹介をしてきたが、この辺でスペインの食について書いてみたい。

カタルーニャ地方で真冬に食べられるネギ料理calçots(カルソッツ)について。一つの季節の行事のような、山形で言えば芋煮にも匹敵する食べ物である。食材はネギ、名前が“カルソッツ”。カルソッツを食べることをカルソターダという。ネギで有名な産地ではカルソターダのツアーも企画されるほどの年中行事。土のついた、掘り出したままのネギを直火で焼き表面がこげて中まで火が通りねっとりとなったものを食べる。もちろん表面の焦げた皮部分は思いきりよく剥ぎ取り、本当の芯のところだけを食べるもの。

食べ方は少し行儀が悪い:先ず片手で葉の緑のところをグッと掴み、もう一方で焦げた皮を下方に向きながら剥ぎ取る。思いっきり手が汚れるが気にしない。もしくは手袋を用意すれば汚れを気にしないですむ。そして、やはり片手でネギ一本長いまま、下の方からsalsa de romesco(ロメスコソース)にたっぷりつけて取り出し、そのまま口に入れる。イメージとしては蛇口の水を口に受けて直接飲むような感じ。ソースは市販されているがたっぷりつけるとおいしいので、数人の仲間で食べるときなどは手作りする。ただ作り方はかなり面倒くさい。アーモンドベースで数種類の焼き野菜が入り、オリーブオイルを加えながら丁寧にすりつぶしていく。濃厚かつ味わい深くどこか味噌のような風味がして、カルソッツ以外にもジャガイモやパン、パスタにかけて食べてもとてもおいしい。当然ながら食べたあとのネギ臭はかなり強烈。ということで、その日の誰かとの約束はオススメしない。

スペイン生活の楽しみの一つに市場での買い物がある。市場はMercado(メルカード)。常設している公設の街の市場に加え、地方の都市などでは土曜日だけ開くものもある。それぞれの売り場は特化していて、肉、魚、臓物、野菜、果物、乾物・干物、豆類、きのこ類、たまご、チーズ、ハムなどの加工品、漬物それに生活雑貨や衣類まで揃えている市場もある。ほとんどの場合価格はキロ単位で表記され、買うときは“その玉ねぎ1キロ半ちょうだい”とか、“ひよこ豆四分の一キロね”とかいう調子だ。スペイン人は毎日市場に買い物に行くというより一度にまとめ買いをする人が多く、人気の店は混みあう。どうしてもその店で買いたいとなると根気が必要で、先ず最初に何をしなければいけないかというと“Quién es la última(キエン エス ラ ウルティマ)”。この列の最後はどなたですかという問いだ。『割り込み禁止−−割り込む者許さず』の法則。もし自分が列の最後尾にいてきかれたら“Soy yo(ソイ ジョ−−私です)”あるいは“Servidor/a(セルビドール/ラ)”と応える。Servidor/aは今あまり使われないかもしれない。私の経験ではどちらかと言うと、高齢の女性がこう答えていたように思う。訳すると『私でございます』程度に丁寧な言い方になる。

また、スペインの漬物屋と聞くとちょっと意外な感じかもしれない。主にはオリーブの漬物でほかにはごく小さい玉ねぎやキュウリ、それにカリフラワーやニンジンを合わせたピクルス風の酢漬け。日本では珍しいオリーブの漬物に一時ハマったことがある。ニンニクを利かせたもの、唐辛子の入ったピリ辛、黒オリーブと種類は豊富で漬け方もさまざま。オリーブ本体の種類も色いろだ。塩気がきいているので食べれば何か飲み物が欲しくなる→飲み物といえばビール。こんな感じでほぼオリーブ中毒に陥り、食べ続けた。その結果は悩ましい体重の増加。自分でも見るからにふっくらして、その後はグッとこらえて我慢の子に。オリーブ以外でも日本ではあまり一般的でない食べ物、たとえば生ハム、チョリソ、羊や山羊のチーズ等など美味しいものを挙げればキリがない。ぜひ現地で体験していただきたい、できれば景色のいい屋外のテラス席で地元のビールやワインをお供に。

【カルソッツ】

【気に入った魚や魚介を注文して、その場で食べられる】

【土曜市のオリーブ専門店】

【地方都市の土曜市】


ここまでバルセローナの明るく楽しい面ばかり書き連ねてきたが、悲しいかなそんな平和な日常ばかりではないことを付け加えておくことにする。

スリや置き引き、暴力を伴った泥棒など危険な事故が多いことも事実だ。混みあったメトロやバスに乗車する場合、バックは抱えるようにして決して無防備に脇や後ろに回さないこと。これは人混みを歩くときも同様に注意する。できればお金や大事なものはバックに入れずにファスナーの付いたポケットに入れるなど、隙のない身支度をして欲しい。要するに狙われにくい格好でいることが第一。細々とアドバイスは省くけれどバルセローナもほかのスペインの都市も日本とは違う、ということを頭に入れておくことが必要だ。スペインを訪れるときは油断せず、かといってあまり固くならずに楽しんでほしいと思う。

【カタルーニャ美術館 大きな噴水があって曜日によってイルミネーションされた噴水ショーが見られる】

【グラシア通り 左手に見えるのがガウディ作カサ・ミラ】

【通りに設置された衣類のリサイクルボックス】

【レストラン内部のワイン棚】

【ペドラルベス修道院の回廊】

【花の祝祭日の飾り付け】

【花の祝祭日の飾り付け 噴水の上に卵が踊っている 復活祭のお祭りの一つ】

【バルセローナの地図 旧市街、アシャンプラ、新市街の街の作りの違いがわかる】


最後にちょっと残念なお知らせ。

2026年、ガウディ没後百年を記念してサグラダ・ファミリア完成!の予定だった。

2021年12月8日、中央の塔部分に聖母マリアの塔、138メートルが完成し先端の星に光が入った。完成まであと一歩の所まで来ている。1882年に着工され約140年間続けられてきた工事は今ここに来て、コロナ禍の入場者減少による収入不足やその他の事情で工事は一時中断するなどし、2026年の完成は見送られることになった。80歳に手の届きそうな長姉とともに、姉妹三人で完成時のバルセローナを再訪するという計画を以前から立てているが、果たして実現できるものかどうか不安。 夢はコロナの収束に委ねられるのか、それとも職人たちの腕にかかっているものなのか、はたまたここまで長引いているのだから後10年ぐらいどうってことないと腹をくくるべきなのか…… 

完成時のキリストの塔が172メートルになるというが、一番恐れるのはその高い塔を地上からではなく、もしかしたら天国から見下ろすことになるかもしれないという事態?! 


『何とかならないでしょうかねぇ。ガウディさん?』

                              大場紀子

              

【ご存じ、サグラダ・ファミリアの螺旋階段 残念ながら現在ここを登ることはできない】

【サグラダ・ファミリア内部】