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紫藤会

12/10「経営学と持続可能な社会」『ArayZ』2022年12月号

2022.12.14 14:44

生物の遺伝子は、自己の遺伝子を残すためにあらゆる手段を駆使して生き残りを図ります。コロナウイルスも同様に次々と寄生先を変えていき、爆発的に増殖しながら、遂には宿主の命さえも奪ってしまいます。そう聞くとなんとも恐ろしいことのようですが、ふと考えてみると、私たち人間も地球という宿主に寄生をしながら爆発的に人口を増殖させ、これまでにない速度で資源を消費し地球環境を破壊してきました。

今から半世紀以上も前の1970年に世界の有識者が集まり設立されたローマクラブは、72年に『成長の限界』というレポートを提出し、「人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と指摘しました。この成長の限界に関する警告はよく知られているのですが、実は、同組織はリーマンショック後にも報告書を出しており、そのなかで「地球上の人々が現在の米国と同じ水準で生活をしたとするならば、地球は5つ必要である」と指摘しました。

近年の地球環境問題や世界情勢を鑑みると、こうした半世紀以上も前の警告を改めて受け止める時がきていることが分かります。資本はウイルスとは異なりますが、放っておくと自己増殖をしていきます。しかも、資本効率が悪くなると他の宿主に寄生先を移しながら増殖をしていきます。ウイルスが宿主が死滅する前に次の宿主に移っていくように、資本もより効率的な企業や資本家に次々と乗り換えていくのです。こうした資本の自己増殖性は、私たちに豊かさをもたらすと同時に、貧富の格差などさまざまな問題を顕在化させることにもなります。

世界の富裕層上位8名が世界の下から半分と同額の資産を有しているといわれ、世界の上位1%の富裕層が世界の個人資産の4割近くを占めているそうです。資本はコロナ禍や世界情勢の悪化などの危機に便乗することでも利潤を得ようとします。こうした状態を、カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインは、「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」と呼びました。本来は、「目的達成のため」の手段であったはずの資本の魔力は凄まじく、その魔力によっていまや人間が資本の奴隷となってしまっているようにもみえます。

ウイルスは、動物や植物の細胞といった宿主(ホスト)に寄生することなくして存在し続けることはできないため、あまりにも強毒なウイルスは、やがて自らの宿主を死に追い込み消滅する運命にあります。同じように、人間は地球というホストなくして生きていくことはできません。経営においても、物質的効率性のみの追求ではなく、宿主である地球に配慮した持続可能な社会の構築へ向けた取り組みが急務となっています。