Vol.21〜23テーマ【ミャンマー・ダウンタウン①】
黄金に輝く仏塔、スーレーパゴダ
早朝から読経の声が町中に響き渡り、道を歩けば必ずと言っていいほど僧侶に出会う。
タクシーに乗れば、フロントガラスの前には小さなブッダの置物が鎮座し、横にはお供えもののジャスミンの花が揺れている。
ここミャンマーに来て、まだ一ヶ月も経っていないのに、そんな日常にすっかり慣れてしまった。
国民の約9割が上座部仏教を信仰しているこの国では、神々しい仏塔パゴダがいたるところに点在している。
だが、一方でその隙間を縫うようにひっそりとキリスト教会やイスラム教のモスクが存在しているのも事実である。
ダウンタウンにあるヒンドゥー教のお寺
ミャンマーの第二の都市として知られるヤンゴン市内のダウンタウンと呼ばれるエリアでは仏教徒、ムスリム、キリスト教徒、ヒンドゥー教…それぞれ異なる宗教を信仰する人々がともに肩を寄せ合って生活している。
彼らはお互いについてどう感じ、考えを巡らせるのか、そして今世界中を賑わしているロヒンギャ問題に対してどのようなことを思うのか、話を聞いた。
トップバッターは、有名な仏塔スーレーパゴダの向かい側にある大きなモスク、BENGAKLI JAMEH MOSQUEの入り口近くでサングラス店を営むムスリムの男性だ。
このモスクには1日5回ある礼拝時間になると、1回につき約25人もの人が出入りし、イスラムの祝日である金曜日にはさらに多くの人が礼拝にやってくるという。
仏教徒が大多数の国で生活することについて、どう感じているのか。
「特に気にしていないよ。この地区には教会もモスクも、パゴダもあるからね。
異なる宗教を信じる人がうまく共存できているんじゃないかな。」そうにこやかに微笑みながら話す。
話を聞き終えてさらに入り組んだ通りを進むと、店の奥で何やら熱心に札束を数える男性と目があう。すかさず話がしたいと言うと、穏やかな声で応じてくれた。
靴屋を営むこの男性は、自身はバマームスリムであると教えてくれた。
仏教徒が国民の大多数を占めるミャンマーでは、バマー(ビルマ人)=仏教徒と認識をしている人が多いが、バマームスリムの方々は、ムスリムだがバマー(ビルマ人)であり、昔からの土着の人間であることを主張している。
気になっていたことを恐る恐る聞いてみた。
バマームスリムの彼は、現在進行形で迫害を受けているロヒンギャムスリムに対して、どのような思いを抱いているのか。
「ロヒンギャの問題はとてもむずかしいね。彼らは圧力をかけられて、ラカイン州の一部の地域に閉じ込められ移動も制限されている。ガザ地区での問題に似ているよね。同じムスリムだけど、僕ひとりでは力がなく何もできない。ただ平和を願うことしかできないよ。」
同じムスリムとして肩を持つわけでも、突き放すわけでもない、
そんな答えが返ってきた。
細かな路地から、広い表通りへ抜けると本屋が5件ほど立ち並ぶエリアが見えてくる。
ここダウンタウンでは同じ商材を扱うお店がぎゅっと集まり営業している。
テーラーショップが集まるエリア、サンダルを扱うエリア、
文房具を扱うエリア…
ここは本屋が集まる通りのようだ。
その一角で本屋を営むこの男性は、仏教徒だ。
「確かにミャンマーは仏教徒が大多数を占める国だけれど、ここダウンタウンでは、宗教関係なく皆が平和に暮らしていると思うよ。」
ロヒンギャのことについて尋ねると、
「ミャンマーには135の民族がいるけれど、ロヒンギャという民族は存在していない。
ロヒンギャはあくまでも隣国、バングラデシュからアラカン(ラカイン州)
にやってきた旅人であって、言葉も通じない彼らは同じミャンマーで暮らす国民だとは思えないよ。」
そう語尾を強めて話す。
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今回ダウンタウンを訪れてみて、思っていた以上に宗教を超えてお互いを尊重し合って暮らしている様子が印象的だった。
一方でロヒンギャの話題になると、彼らを蚊帳の外に追いやるような表現が散見された。
つい7年前の2011年に民政移管し民主化の流れが進んだミャンマーでは、
長年続いた国の検閲による情報統制が解かれ、新聞や雑誌の発行が容易になり国営新聞3紙だったものが、今では民間の新聞社が30紙を超える新聞を発行している。
しかし、ミャンマー国内で販売されている新聞ではロヒンギャ問題に関する報道がなされることは殆どなく、BBCやCNNなどの欧米の報道を、プロパガンダだと否定する声も、
ここヤンゴンでは多い。
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店を出て隣の本屋を覗くと、ラカイン州で起きているとされるロヒンギャの虐殺に関する書籍がひっそりと置かれていた。
ミャンマー国内で販売されている新聞ではロヒンギャ問題に関する報道がなされることは殆どないが、NHKやBBCによる報道記事がまとめられている雑誌が店先のラックに所狭しと並ぶ。