妖のおはなし:文車妖妃(ふぐるまようひ)(第八話)
文車妖妃 生息地:江戸或いは京の都
「古しへの 文見し人のたまなれや おもへばあかぬ白魚となりけり
かしこき聖のふみにこころをとめし さへかくのごとし
ましてや執着のおもひをこめし 千束の玉章には
かかるあやしきかたちをもあらはしぬべしと 夢の中におもひぬ」
これは鳥山石燕の「百器徒然袋 文車妖妃」に書かれた一文であります。文車妖妃は何処かの地方に伝承が残されてると云うよりは「百器徒然袋」にその名を残す妖怪です。文車とは寺院等で使用される小型の牛車の様な形をした書籍類を運ぶための物で、文車妖妃は文車、若しくは文車の中の文自体が化けたものであります。と言うのも「百器徒然袋」自体が「徒然草」を器物妖怪の付喪神を用いてパロディ化している様でして、「徒然草 第72段」に
「人にあひて詞の多き 願文に作善多く書き載せたる
多くて見苦しからぬは 文車の文 塵塚の塵」
とあり、この文車の文が出所である様です。徒然草、百器徒然袋の両方の文から解釈すると文車妖妃は文車に大量に積まれた恋文の化身と言う事になります。妖ばなしでストーリーテラーの役割りをやって貰っているのも文車妖妃が文の化身だからこそです。
文車妖妃の読み方は「ふぐるまようひ」とも「ふぐるまようび」とも読めます。「百器徒然袋」に従うならば「ふぐるまようび」のルビが振ってあるのですが、レギュラーになって略された場合「ようひ」の方が語感が良いので、妖ばなしでは「ふぐるまようひ」の読み方を採用しております。また文車妖妃が従えている化け鋏と化け文箱は鳥山石燕の文車妖妃の絵に描かれている大きな葛籠の中から湧いて出てくる小妖怪達の中の2体で、本当は絵に描かれている他の妖怪達も出してあげたかったです。と、夢の中におもひぬ。
(妖ばなし文芸部/文責:杉本末男(chara)・イラスト:けんじゅー)
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