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WUNDERKAMMER

黒い子供

2018.04.07 08:20

これは叔父が若い頃に体験した話で、今年の夏祭りの時に叔父が話してくれました。 

叔父は昔、E県の田舎に出張していた事がありました。 仕事が一段落すると、疲れを取ろうと叔父は休暇を取り、出張先で一緒に来ていた同僚のH氏と一緒に旅館に宿泊しました。その旅館での出来事です。 


 叔父とH氏は酌を交わしながら深夜まで他愛もない世間話をしていました。

そして深夜の2時頃になるとべろんべろんに酔った2人はベランダで将棋(酔ってるので定石とかもめちゃくちゃ適当)を指し始めたそうです。  ですが、しばらく指していると叔父が外の景色の中に変なモノを見つけました。

ベランダのすぐ横の庭園で白い猫が2匹、小石や酒蓋を並べて将棋をやっているのです。

「そんな馬鹿な事が!」 と叔父は驚き、数分の間2匹の指す将棋を凝視していたのですが、確かに駒の配置や動きに矛盾はなく、2匹の猫は紛れもなく将棋を指していました。 

 「おい早く指せよ」 とH氏は叔父を急かしますが、すっかり酔いの覚めた叔父は、庭園に出ようと身を乗り出したのですが、急にH氏にグイっと手を引っ張られ、ドタドタっと部屋に放り投げらてしまいました。  

その騒ぎで猫はビックリして、小石と酒蓋を蹴っ散らかして逃げ去る所を叔父は見ました。 叔父は 「お、おい!お前今の見なかったのか?猫が将棋やってたぞ!」 と言ったのですが、H氏は 「バカ野郎!悪酔いし過ぎ!ここ4階だぞ?どこに猫がいるんだ?」 と言うのです。 

叔父は目を何度もこすってベランダに出て見ると、確かに下に川が流れているだけで、庭園も小石と酒蓋の将棋盤もどこにもなかったそうです。  

その後、酔いを覚まそうとホテルのホール横の台でH氏と卓球勝負をする事にした2人ですが、更に酒が入ってしまい酔いのせいでどっちが勝てるか負けてるかは分からなかったそうです。 

しばらく打ち合っていると小学生くらいの子供の一団(4、5人くらい)が奥から廊下を走りながら近づいて来るのを叔父が見ました。 何と子供達は服も浴衣も着ておらず裸。

叔父は少しビックリしたそうですが、これから温泉に入るのか、でなければ何かの悪ふざけでもしてるのだろうと思い、すぐに意識を卓球台に戻しました。 ですが、子供達は全員温泉の入口には見向きもせずにホールに近づいて来ました。近くで見ると少し黒っぽい肌をしていたそうです。 そしてその中の一人の子供がなぜか先ほどの白い猫を1匹脇に抱えていたそうです。 

子供達は叔父とH氏の横を素通りし、自動ドア横の手動扉を開けて、皆外へと出て行ってしまいました。 叔父は呆けてその様子を見ていたのですが、きっと悪ふざけの方だろうな、と思うとH氏に 「こんな時間にどこ行くんだろな?」 と聞きました、すると、H氏は 「そんな子供なんていなかったぞ?」 と言ったそうです。 


そして、その2日後、同僚のH氏を旅館に残して出張から帰り着いた朝、叔父は東京の自宅でくつろぎながら一人でテレビを見ていました。 

チャンネルをいくつか替えていると不思議な番組がやっていました。ドロドロに汚れた白装束を着た、背の高い裸足の不気味な老婆が走っているのです。

「ホラー映画か?」と思った叔父はそのままその番組を視聴する事にしましたが、ある事に気付きました。背景にH氏と宿泊したあの旅館が一瞬映ったのです。 

 「ふうん、ロケ地はあの旅館か」 そう思ってしばらく視聴していたのですが、ずっと老婆が雑木林や砂利道や原っぱを走っている映像ばかりが流れ続けていて、番組の内容がいまいち分かりません。 「なんだこりゃ?映画じゃなくて前衛芸術とか実験映画とかいう奴だろうか?」 そう思いながら新聞のテレビ番組欄を見ても、それらしき番組の放送予定はなく… 「バラエティ番組ってわけでも無さそうだし、放送事故か?」 叔父はこの不思議な番組の正体をあれこれ色々と考えていたが、そのうちに眠くなり考えるのを止めてそのまま眠ってしまいました。  


果たして何時間寝ていたのか分かりませんが、叔父の目が覚めると窓の外はすでに真っ暗だったそうです。 テレビは付けっぱなし…

例の番組はまだ続いており、時計を見ると午前3時を回っていました。 「おいおい!嘘だろ?24時間テレビの間違いじゃないのか?」 叔父は驚いたのですが、そのまましばらく番組を見る事にしました。 老婆がなおも走り続けている映像に映る背景は、叔父の住んでいる街そのものでした。

しかもよく見ると老婆の手には、いつの間にか包丁が握られていたそうです。

 「馬鹿な!?ここに近づいて来てるのか!」 叔父は少し怖くなってテレビを消しました。 しかしブウ-ン という音と共にテレビが独りでに点きました。

叔父は恐怖を感じてテレビの電源ケーブルをコンセントから抜き、部屋中のドアや窓の鍵を閉めてベッドに潜り込み、 ベッドの中から恐る恐るテレビを覗きます…

そこには老婆はもう映っていませんでした。が、旅館で見た黒い肌の子供達が、叔父の家のドアを内側から力いっぱい手で押している映像が映っていました。

「きっとドアを壊してアイツを部屋の中に入れようとしているんだ!どうしよう!?」 叔父は何も出来ずにベッドの中で震えていました。すると画面が突然切り替わって、包丁を持った老婆が階段を上って来ている映像が写りました… 

「やばい!ウチのマンションじゃないか!」 ベッドの中で震えている叔父は腰が抜けて一歩も動けなかったそうです。 とうとう叔父部屋ドアの前で老婆が立ち止まりました。そして… 

 コンコン… 

テレビではなく現実にドアをノックする音が聞こえて来ました。この時叔父はショックで失禁していたそうです。 ですが、次の瞬間 「夜分失礼します!叔父さんですか?お久しぶりです、F子です!叔父さん開けてくれますか?大事なお話があるんですが…」 

F子さんというのは叔父の大学時代の元恋人です。 叔父はF子の声を聞いてベッドから出ようとしましたが、テレビをもう一度見ると物凄い勢いで包丁の柄でドアをガンガン叩きまくっている狂った老婆の姿が映されていました。 

 コンコン 「叔父さん?本当に夜分にごめんなさい!大事な用なんです!」 F子の優しい声とノックの音は現実に聞こえますが、テレビのスピーカーから流れる老婆の凶悪な破壊音は現実には聞こえません。 

何だこれは!?F子が助けに来てくれたのか?F子に霊感なんてあったのか!?

混乱してそんな事を思っていた叔父は、F子に助けを求めようとベッドから出ました。 するとまたテレビの画面が切り替わり黒い子供達が映り込みました。

子供達の一人が手に何かを持って玄関の壁に文字を書き出しました。叔父はテレビ画面を凝視します。 

 「Fこはにせものでたらころされるよ」 

ひいっと叫び尻もちを付いた叔父。 

 コンコンコンコン 「どうしたんですか?叔父さん開けて!おねがいします!」 

精神が限界に達した叔父はベッドに戻り、そのまま朝まで震えていた。 


朝6時頃…ベッドから顔を出すとテレビは普通に戻っていました。ドアの方は恐怖で見る事が出来なかったため、大家さんを携帯で呼びドアの周囲を確認してもらったそうです。 

 すると… 「あらやだ!ひどい!なあにこれ!泥棒じゃないわよね?暴走族にでもイタズラされたのかしら?ドアがベッコベコじゃない?何があったの?」  

恐る恐る見に行くと、ベッコベコどころではありませんでした。ドリルで付けられた様な穴が無数に空いており、ドアの中心部はグシャグシャに凹んでいたそうです。  

どうしてここまで破壊されていながら中に侵入されなかったのか不思議だと大家さんは言ったそう。 あの黒い子供達が守ってくれたのでしょうか?  


その日、叔父はF子さんに確認の電話を入れたのですが、当時の大学時代の固定電話番号はもう使ってないみたいで確認不能。 叔父はすぐにドア代を弁償し、部屋に自分の荷物を全部放っぽって引っ越ししました。

その後は不思議な猫にも子供にも老婆にも出会ってないそうです。