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紅く色づく季節

面影を重ねて

2022.12.20 03:52

【詳細】

比率:男1:女1 

近未来・ラブストーリー

時間:約20~25分


【あらすじ】

「美羽、君はどこにいるんだ?」


妻を亡くし生きる気力を失った燈真の前に現れたのは、亡き妻と瓜二つの顔を持った試作品アンドロイド・ミウだった。


二人で過ごす日常。

自分の世話をしてくれるミウに安心感と何故か少しの違和感を覚えながらも、この日常がずっと続いていくものだと思っていた……


【登場人物】

燈真:金内燈真(かねうち とうま)

   物書き。一つのことに集中すると周りが見えなくなる。

   妻である金内美羽を亡くし生きる気力を失っていた。

   友人の大辻が連れてきたアンドロイドのミウと出会い、日常を取り戻しつつあるが……

   

ミウ:燈真の友人、大辻兼悟が連れてきた彼が手掛けるアンドロイド製品の試作品。

   燈真の亡き妻、美羽と似ている。



燈真:(M)どうしても、君を忘れることが出来なくて、君の影だけ追い続けた

   これは、そんな俺に課せられた罰なのだろうか

   本当に……神はいつだって俺に残酷な試練しか与えない……



●燈真の部屋・朝

   自室のベッドで眠る燈真。


燈真:……ん……朝……か……


   部屋のドアが開く。


ミウ:おはようございます、燈真

燈真:おはよう、ミウ

ミウ:そろそろ起床の時間です

燈真:あぁ

ミウ:本日の体調はどうですか?

燈真:いつもと同じ

ミウ:熱は無く、体調にも目立った変化、不調は無いと言うことですね?

燈真:あぁ

ミウ:それならばよかった

燈真:うん。今日のご飯は何?

ミウ:本日の朝食は燈真の好きな半熟の目玉焼きとトースト、サラダ、コンソメのスープです

燈真:今日は洋食なんだね

ミウ:お嫌いでしたか?

燈真:ううん。ありがとう、ミウの料理はなんでもおいしいよ

ミウ:それならばよかった。燈真の味覚に合わせられるようになってよかったです。これからもデータを蓄積させていただきます

燈真:……ミウ

ミウ:はい

燈真:データとか言っちゃダメ。そういう約束でしょ?

ミウ:……申し訳ありません

燈真:あぁ、そんな悲しそうな顔しないで。ミウの悲しそうな顔はもう見たくない。どんなときでも笑顔でいてくれる。これも約束でしょ?

ミウ:はい。私の中のプログラムと優先事項に反しない限りは

燈真:……

ミウ:燈真?

燈真:……ううん、なんでもないよ

ミウ:そうですか? では、リビングでお待ちしております

燈真:待って!

ミウ:はい

燈真:ミウ、いつもみたいに抱きしめてもいい?

ミウ:はい


   燈真、ミウを抱きしめる。


燈真:……美羽……

ミウ:……

燈真:美羽、君に会いたい。どうやったらまた君に会える?

ミウ:……

燈真:(縋るようにミウの頬に触れ)なぁ、美羽……

ミウ:……燈真、私は奥様じゃありません。私は試作品アンドロイド。貴方のお友だちの大辻兼悟様によって貴女の奥様だった金内美羽様に似せられて作られた試作品アンドロイドです

燈真:(悲しげに微笑んで)……ミウ、君は残酷だな……

ミウ:私はプログラムされた命令に従っているだけです。大辻様から、私と奥様を混同させないようにとプログラムされています

燈真:……君のマスターは俺なのに?

ミウ:私のマスターは燈真ですが、開発者が組み込んだ命令は絶対です。私の行動はそれを基準に決定されます。これは絶対です

燈真:(苦笑して)兼悟もひどいな

ミウ:では、私を大辻様の元へ戻されますか?

燈真:それはしない

ミウ:なぜです?

燈真:俺はミウのことが好きだから

ミウ:それは錯覚です

燈真:え?

ミウ:燈真は、私が奥様の外見と酷似しているから、私に好意を抱いていると錯覚しているのです

燈真:……そんなことない

ミウ:いえ、そうです。だから、勘違いしないでください

燈真:でも、ミウと美羽の行動は違うでしょ?

ミウ:いえ、私は大辻様からプログラムされた奥様の情報や行動パターン、燈真から教えてもらったデータを基に動いています。試作品のため奥様の行動を完全に表現することは出来ていませんが、私の基は奥様のデータです

燈真:でも、ミウの方がいろいろ出来るし……

ミウ:それは学習能力が備わっているからです

燈真:そういうもの?

ミウ:そういうものです

燈真:……そっか。でも、それならそれでよかったかな

ミウ:なぜ?

燈真:だって、この気持ちは錯覚で、美羽とミウが似ているから起きているものだとしたら、それはまだ俺が美羽のことを愛せているってことでしょ?

ミウ:……

燈真:俺の中にまだ美羽がいてくれてるってことだ

ミウ:……

燈真:よかった……

ミウ:……燈真

燈真:なに?

ミウ:早くしないと朝食が冷めてしまいますが、よろしいですか?

燈真:それは良くないな

ミウ:では、リビングへどうぞ

燈真:ミウは?

ミウ:軽くお部屋を掃除してから参ります。お部屋の空気の入れ替えもしなくてはなりませんから

燈真:ミウは今日もやっぱり一緒にご飯食べないの?

ミウ:人間の食事は私には必要ないものなので

燈真:……今度、兼悟に頼んで食事のプログラムも付けてもらおう

ミウ:その件に関しては、大辻様に直接ご連絡ください

燈真:わかった。じゃあ、先にリビングに行ってるね


   燈真、去る。


ミウ:……燈真……




●燈真の部屋・リビング

   テーブルの上には、ミウが作った温かい料理が並んでいる。

   テーブルの上にある写真立てには金内美羽の写真が入っている。


燈真:おぉ、おいしそう。流石ミウだな(写真立てに向かって)おはよう、美羽。もう、一年か……


燈真:(M)妻である美羽が俺の前から姿を消して一年たった

   俺の前から突然、姿を消した美羽。そして、突然知った彼女の死

   俺はその事実を受け入れられなくて、ずっと呆けていた

   元々の性格と物書きと言う職業の特性からか、俺は一つのことに夢中になると周りが見えなくなる人間だ。

   ……もっと早くに彼女の体調の異変に気が付いていれば、もっと違った結果があっただろう

   彼女の病気に気が付けなかった俺は、彼女と共に病と闘うことも、彼女の死に際を看取ることも出来なかった

   身寄りのない彼女。腑抜けていた俺。見るに見かねた親友が動いてくれて、葬儀は滞りなく行われた

   全てが終わって俺に残されたのは笑顔の美羽の写真と、位牌と遺骨。そして、彼女の存在が至るとこに残されたこの部屋だけだった

   その部屋で俺は仕事も生きることさえも放棄して、ただただ毎日を過ごした

   そんな俺を見かねた親友がまた動いてくれた


ミウ:初めまして、マスター


燈真:(M)親友がある日突然連れてきたのは、美羽によく似たアンドロイドだった

   彼曰く、まだ試作段階のアンドロイドでデータを取る必要があるらしい。だから、実験に協力してくれと言われた

   亡き妻と同じ顔と声を持つアンドロイド

   あの時の俺は、藁にでもすがりたくて。これで美羽との関係を全てやり直せるんじないかと勝手な希望を抱いて二つ返事でその申し出を受け入れた

   結果、こうなるなんて想像もつかなかった……


燈真:(写真に向かって小さく)……美羽、俺はどうしたらいいんだろう……

ミウ:燈真?

燈真:……ミウ……

ミウ:どうしましたか? 何かありましたか? お口に合いませんでしたか?

燈真:いや、大丈夫。なんでもないよ

ミウ:本当に?

燈真:あぁ

ミウ:そうですか

燈真:うん

ミウ:では、朝食を終えた後の本日のご予定ですが……

燈真:(言葉を遮って)ミウ

ミウ:はい

燈真:今日は散歩に行かないか?

ミウ:本日ですか?

燈真:そう

ミウ:では、大辻様にご連絡を……

燈真:(言葉を遮って)いや、二人で

ミウ:二人?

燈真:そう、俺とミウで

ミウ:それは出来ません

燈真:どうして?

ミウ:危険だからです

燈真:危険?

ミウ:部屋の外は危険だとプログラムされています

燈真:……またプログラム……

ミウ:はい

燈真:どうしても?

ミウ:どうしてもです

燈真:(ため息)

ミウ:今の私は外の知識や経験をほとんど積んでいません。だから、外で燈真に何かあっても対応できない可能性があります。マスターを危険に晒す可能性があることを私は実行出来ません

燈真:……わかった

ミウ:燈真、申し訳ありません。でも、外へ出かけることはいい気分転換になると思います。大辻様にご連絡しますので、どうぞお二人でゆっくりされてきてください

燈真:……あぁ、そうするよ。お土産は何がいい?

ミウ:私にはそのように気を遣っていただかなくても……

燈真:(遮って)何がいい?

ミウ:(苦笑して)では、何かお花を

燈真:花?

ミウ:昨日掃除をしていたら、少し古い花瓶を見つけました。まだ使える花瓶なので、せっかくなら奥様へお花をと思いまして

燈真:君へのではなく、美羽のために?

ミウ:はい

燈真:……わかった

ミウ:ありがとうございます。では、冷めないうちに、残りの朝食も

燈真:……あぁ


燈真:(M)美羽と同じ顔と声を持つミウ

   最初のうちはそれが嬉しかったし、本当に美羽が戻ってきてくれたのだと思った

   でも、月日が経つにつれて違和感を覚えた。姿形は美羽なのに美羽じゃない。当たり前のことだけれど、美羽とミウは違う存在なのだと気付かされる

   俺の勝手な期待は崩れ去った

   でも不思議とそれが嫌じゃなかった。寧ろ、何故かどこかで安心感を覚えていたんだ




●燈真の住むマンション・外

   大辻との待ち合わせのため、マンション入り口前で待つ燈真。


燈真:(腕時計を見ながら)……兼悟の奴、珍しく遅いな……


   急に地面が揺れる。


燈真:な、なんだ! じ、地震……治まった……ミウ、大丈夫かな




●燈真の部屋

   燈真、玄関を開ける。


燈真:ミウ、さっきの地震大丈夫だったかい? ミウ?

   

   燈真、リビングまで行く。


燈真:ミウ?


   割れた食器の中に血を流して倒れる、ミウがいる。


燈真:ミウ! 大丈夫か! これは、血? どうして……

ミウ:……っ……

燈真:ミウ! 大丈夫か!

ミウ:(朦朧としながら)……お姉ちゃん……ごめんなさい……

燈真:ミウ? おい、ミウ!




●病院

   ベッドに横たわるミウ。付き添う燈真。枕元の名札には「野村優羽」と書かれている。


ミウ:……っ……

燈真:ミウ! 気が付いたか!

ミウ:……ここは……

燈真:病院だ

ミウ:病院?

燈真:君はさっきの地震で怪我をしたんだ、覚えてる?

ミウ:……地震……あっ!(起き上がろうとして背中に痛みが走る)っ!

燈真:動いちゃダメだ! 安静にしていて……

ミウ:……燈真

燈真:……

ミウ:……もう、気が付いちゃいましたよね……

燈真:……

ミウ:(悲しげに微笑んで)……でも、これでよかったのかもしれない……

燈真:……君は一体誰なんだ? アンドロイドが血を流すはずがない。それなのに君は血を流していた。赤い血が流れるのは生きている人間の証拠だ。

ミウ:……私は、アンドロイドじゃありません

燈真:まさか……クローンか?

ミウ:いいえ

燈真:じゃあ、どうして妻と、美羽と同じ顔や声をしている

ミウ:大辻さんからはまだ何も聞いてないんですね

燈真:あいつはいろいろ手続きとかをしていて……あいつもこのことを知ってるのか?

ミウ:……私の本当の名前は野村優羽。貴方の妻、金内美羽の双子の妹です

燈真:は? ……いも……うと……?

ミウ:はい

燈真:うそだ。美羽に親族はいないはずだ

ミウ:……私がお姉ちゃんと再会すること出来たのは、お姉ちゃんが亡くなるちょっと前のことでしたから。お姉ちゃんもそれまで知らなかったと思います

燈真:……え?

ミウ:私とお姉ちゃん、幼い頃に親が離婚して別々に引き取られているんです。お姉ちゃんはお母さんに、私はお父さんに。そのあと、両親はお互いに連絡を取ることもなかったらしいです

   私はお姉ちゃんの存在は知っていましたが、その行方は分からないままでした。お父さんが死んで、もう私にはお姉ちゃんしか家族はいなくなって……必死に捜しました

   でも、見つからなくて、もう諦めようって思ったときにお姉ちゃんの方から連絡が来たんです。そして会うことが出来ました。その時にはもう、お姉ちゃんの身体は細くてボロボロでしたが……

燈真:……

ミウ:病院にも何回かお見舞いに来ていたんですよ。燈真さんにはお会いしたこはありませんでしたけど

燈真:……それは……

ミウ:そこで大辻さん会いました。お葬式にもきちんとした形で伺いたかったのですが、大辻さんに貴方ことを聞いて止めました

燈真:……

ミウ:あぁ、でも、皆さんがいなくなったときにきちんとお別れはさせていただきました

燈真:そう……だったんですね……

ミウ:はい。そして、しばらくたった頃、大辻さんからご連絡をいただきました

燈真:兼悟から?

ミウ:はい。貴方が生きる気力を失っている。このままでは死んでしまう。力を貸してくれないかと

燈真:……

ミウ:正直、迷いました

燈真:え?

ミウ:だって、姉をあんなになるまで放っておいた人ですから。どうなろうと私が知ったことではない。寧ろ苦しめばいいのにって

燈真:……

ミウ:でも大辻さんから、どうしてもと頼まれて、渋々引き受けました

燈真:……それで……アンドロイドのふりをして?

ミウ:そうです。私、元々お芝居をしていた人間なんです。お姉ちゃんと瓜二つ、そしてお芝居でアンドロイドのふりまで出来る。大辻さんの中で私が一番適任だったんです

燈真:……だったら、何故?

ミウ:え?

燈真:……何故、こんなにも長い時間、俺と一緒にいてくれたんだ?

ミウ:(フッと小さく笑って)……何故でしょう? 私にもわかりません

燈真:……

ミウ:……ただ……

燈真:ただ?

ミウ:貴方のお姉ちゃんへの愛は嘘じゃなかったということが分かったから……だから、だと思います

燈真:……優羽さん

ミウ:長い間、貴方を騙してしまってすみません

燈真:そんな……

ミウ:(言葉を遮って)お帰りください

燈真:え?

ミウ:もう、お帰りください

燈真:ミウ……

ミウ:私はもう、ミウでも美羽でもありません

燈真:……

ミウ:……疲れたんです……休ませていただけませんか?

燈真:……わかった。また明日、来るから

ミウ:……

燈真:じゃあ……


   燈真、病室を出て行こうとする。


ミウ:燈真さん

燈真:え?

ミウ:お姉ちゃんのこと、愛してくださってありがとうございました

燈真:……あぁ……


   病室のドアが閉まる。


ミウ:(閉まったドアを見つめながら)さようなら、燈真さん



燈真:(M)翌日。俺は昨日の言葉通り彼女を迎えに病院へと向かった

   しかし、そこに彼女の姿はなかった。受け付けて聞けば、一足違いで退院したという

   彼女の連絡先なんてもちろん知らなくて、呆然としたまま家へと帰る

   家に着き、改めて感じる。一人の部屋はこんなにも広くて冷たいものだっただろうか……

   美羽がいたときには美羽のぬくもりが、優羽さんがミウとしていてくれた時には彼女のぬくもりが、この部屋には確かにあった


燈真:……っ!


燈真:(M)身体から力が抜ける。床にへたりつくと涙が込み上げてきた

   俺はまたぬくもりを失ったのだ

  


―幕―




2021.06.16 ボイコネにて投稿

2022.12.20 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)