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京阪本線の列車ダイヤ

2022.12.23 06:42

1.はじめに

 こんにちは、そして中1の方は初めまして。研究班長の○○です。

 さて、自分がこうして研究を執筆できる機会は今回を含めてあと2回ということで、今回は私の大好きな関西の「京阪電車」と呼ばれる鉄道のダイヤについて研究したいと思います。関西の路線ということであまり詳しくない読者の方も多いかと思いますが、できる限り分かりやすく丁寧に説明していきたいと思います。拙い文章ですが、最後までお読みいただければ幸いです。

2.京阪電車の概要

(1)路線・運行形態

 京阪電気鉄道は、大阪・京都・滋賀の3府県にまたがる、総営業キロ91.1kmの計8路線からなる鉄道会社であり、利用者からは「京阪電車」の名で親しまれています。中でも同社の中核路線であり、この研究の主役ともなるのが、文字通り大阪と京都の間を結ぶ「京阪本線」です。

 京阪本線は大阪のビジネス街・淀屋橋から大阪府北東部、京都府南部を経て京都の繁華街・三条へと向かう路線で、京阪間の都市間輸送に加えて沿線の途中駅(以下「中間駅」と表現する)から大阪・京都の都心部への旅客輸送や、沿線には京阪電気鉄道の子会社が運営する遊園地・ひらかたパークをはじめ、京都競馬場や伏見稲荷大社、それに祇園や東山など多様な観光地を抱えていることから、これら観光地への観光輸送の役割も担っています。

 当研究ではこの京阪本線を中心に、同線と関連の深い鴨東線(三条駅~出町柳駅)、中之島線(中之島駅~天満橋駅)、交野線(枚方市駅~私市駅)、宇治線(中書島駅~宇治駅)を合わせた5路線に焦点を当てていきます。なお、このうち鴨東線と中之島線は、それぞれ1989年と2008年に開業した後付けの路線で、両線のほぼ全列車が京阪本線と直通していることから、当研究では便宜上「京阪本線」という用語を京阪本線・鴨東線・中之島線の総称としても用いていきます。

 続いては運行形態について見ていきましょう。京阪本線は三条駅が正式な起点であることから、三条・出町柳方面が「上り」、淀屋橋・中之島方面が「下り」とされています。また当研究では樟葉駅以西の大阪府側の区間を「大阪側」、樟葉駅以東の京都府側の区間を「京都側」と表現します。

 京阪本線の運行形態の最大の特徴が、その列車種別の多さです。右図のように、ライナーから普通まで計11種類もの種別が運行されており、これは単独路線における種別数としては日本一を誇ります。中でも主力となる種別は特急であり、京阪間輸送や沿線の中間駅と両都心間の輸送を担う種別として終日運行されています。なお、当研究では特急と普通の間に位置する通勤快急から区間急行までの計7つの優等種別を総称して「準優等種別」と呼称していきます。

(2)乗客流動・運行設備

 続いて、京阪本線の乗客流動と運行設備について見ていきます。次のグラフは京阪本線の各駅乗降人員と区間ごとの通過人員を表したものです。


※一日平均乗降客数は大阪府統計年鑑・京都府統計書・八幡市統計書を基に作成

(いずれも平成27年データ、淀以東の各駅は年間乗車人員を2倍した値を日数で割って算出)

※一日平均通過人員は国土交通省「大都市交通センサス」(平成27年度調査)を基に作成


 グラフから分かるように、乗降客数は一日約18万人の京橋駅を筆頭に、淀屋橋駅、枚方市駅、寝屋川市駅、樟葉駅と続いており、また通過人員でも大阪側では京都側の2倍以上になっているなど、大阪側の利用客の多さが読み取れます。特に中間駅で最大の乗降客数を誇る枚方市駅は一日およそ9万2千人と、京成の京成船橋駅や西武の所沢駅といった関東私鉄の主要駅に匹敵する乗降客数を誇っています。

 次に運行設備についてです。京阪本線の車庫は萱島~寝屋川市駅間の寝屋川車庫と淀駅に隣接する淀車庫の2箇所があります。また京橋、守口市、萱島、香里園、枚方市、樟葉、淀、丹波橋、深草、三条の各駅は緩急接続や待避が可能な構造であり、同線のダイヤの要衝となっています。

 京阪本線の編成長は8連と7連の2種類が存在しており、交野線と宇治線では全編成が4連で運行されています。なお、京都側の一部の駅ではホームの有効長が足りず8連が停車できないことから、淀駅~三条駅間で各駅に停車する列車は7連のみの運用となっています。

 そして何より、京阪本線の運行設備の最大の特徴として挙げられるのが、天満橋駅~萱島駅間(正式には萱島駅~寝屋川市駅間の寝屋川信号所まで)の全長12.6kmに及ぶ複々線です。この長さは東武伊勢崎線に次ぐ民鉄2番手の規模であり、内側2線が「A線」と呼ばれる急行線、外側2線が「B線」と呼ばれる緩行線となっています。この長大な複々線を活かした圧倒的な列車本数と充実した緩急接続が京阪本線の運行形態の大きな特徴であり、最盛期にはピーク1時間あたり朝ラッシュ時46本、夕ラッシュ時36本という驚異的な列車本数を運行していたことからも裏付けられます。


▲多くの列車が行き交う京阪本線の複々線 その長さは民鉄2番手を誇る

(3)使用車両

 最後に、ダイヤを作成する上での重要な条件となる、京阪本線の使用車両を見ていきましょう。京阪本線の車両は、大きく分けて「特急車」と「一般車」の2つに分類されます。

 1つ目の特急車は、文字通り特急運用が中心の車両であり、8000系と3000系(ともに8連)の2形式が在籍しています。8000系は1989年の鴨東線開業時に登場した特急運用メインの2扉の車両であり、車内は快適な転換クロスシートで、さらに4号車にはダブルデッカー車両を連結するなど、その豪華な内装は特別料金不要の車両としては日本一とさえ言われています。また2017年からは新たに「プレミアムカー」という座席指定制の特別車両を6号車に連結する(詳しくは後述)など今なお進化を続けており、京阪を象徴する車両として確固たる地位を築いています。

 対する3000系は2008年の中之島線開業時に登場した車両で、当初は特急以外での運用がメインだったため3扉で内装は8000系よりも控えめですが、豪華な設備が災いしてラッシュ時の運用が制限される8000系とは異なり運用に制約は存在せず、汎用性が高いのが特徴です。

 続いて2つ目の一般車は通勤用の車両であり、こちらは後述の5000系を除く全編成が3扉となっています。一般車には多くの形式が存在しますが、大まかには8連と7連の2種類に大別することができます。先述のように8連は京都側での運用に制約があることから、2018年3月末現在での在籍数は8連が16本に対し7連が48本と、7連が圧倒的に多い状況です。

 また、一般車の中でもイレギュラーな車両として、7連の5000系という形式があります。この車両は、朝ラッシュ時は5扉、その他の時間帯は3扉となり不要な扉部分に昇降式の座席が出現するという全国でも唯一の車両であり、京阪本線のラッシュ輸送の立役者として1970年の登場以降今日まで活躍しています。5扉による乗降時間短縮の効果は絶大であり、現在は7連という特性を活かして朝ラッシュピーク時に出町柳駅から大阪側へと向かう通勤準急・普通に固定運用として充当されるなど、今なお京阪本線の朝ラッシュ輸送の最前線を担っています。なお、ホームドアの整備を理由として2020年度までに引退することが発表されていますが、この研究では5000系が現役であるという条件のもとで進めていきます。

▲京阪を象徴する特急車である8000系

▲朝ラッシュ輸送を支える5扉車の5000系

3.近年の京阪の動向

 続いては、京阪のここ最近の動向について見ていきましょう。

(1)中之島線の開業

 近年の京阪の出来事の中でもとりわけ大きかったのが、この中之島線の開業です。中之島線は従来複々線の終端であった天満橋駅から京阪本線と分岐し、大阪の政治・経済・文化の中心地であり、大阪市の再開発地域にも指定されている中之島地区へと向かう路線です。この中之島地区は2つの川に挟まれた細長い中州であり、中之島線は今まで鉄道空白地帯だったこの地域を東西方向に結ぶ交通軸として建設されました。また大江橋駅は京阪本線の淀屋橋駅と、なにわ橋駅は同じく北浜駅と至近距離に位置するため、実質的には天満橋駅~淀屋橋駅間の複々線としての機能も形成しています。

 しかし、沿線はオフィス街であり乗換路線も少なく、さらに京阪本線との駅の近さも災いし、先の乗客流動図を見ても分かる通り、利用客は非常に少ないのが現状です。実際に乗車してみると、朝ラッシュ時は天満橋駅を発車しても立ち客が多く好調ですが、日中や土休日はガラガラという状況です。今後中之島駅で接続する新路線・なにわ筋線(なんばから北梅田を経由し新大阪へと向かう路線で大阪府などが運営を行う予定)の建設や中之島線自体の延伸構想があるものの、完成には長い歳月がかかることから、しばらくは不遇の時代が続くと思われます。

 また中之島線の開業に先立ち、次の配線図に示したように2006年に京橋駅~天満橋駅間での大規模な配線変更が行われました。その結果、従来は需要の多いA線の列車が淀屋橋駅発着の線路、比較的需要の少ないB線の列車が天満橋駅発着の線路に直結する機能的な配線だったのが、配線変更後はこれが逆転したことによって、淀屋橋駅発着のA線の列車は京橋駅の前後でポイントを通過する必要が生じスピードダウンを余儀なくされたほか、淀屋橋駅発着のA線の列車と中之島駅(中之島線開通前は天満橋駅)発着のB線の列車で交差支障(ポイント部分で2つの列車の進路が干渉してしまうこと)が発生するようになってしまい、特に列車本数の多いラッシュ時のダイヤ構成に多大なる影響を及ぼしています。

 なお、次の図からも分かるように、配線の関係により京橋駅以東の各駅から中之島線の列車に乗り換える場合は天満橋駅ではなく京橋駅での乗換が推奨されています。


(2)京阪間輸送への回帰

 京阪間輸送への回帰も近年の傾向の一つとして挙げられます。現在では中間駅輸送の役割が強まった特急ですが、2000年までは朝ラッシュ時を除き京橋駅~七条駅間無停車と京阪間輸送に特化した列車であり、京阪間で並走する阪急京都線やJR京都線(東海道線)と熾烈な競合を繰り広げていました。先述の8000系の豪華な車内設備も、このような競合が背景にあるのです。

 しかし国鉄の分割・民営化以降、JR京都線の「新快速」が当時最速で大阪駅~京都駅間29分という驚異的なスピードに加え、相次ぐ新車の導入や増発で攻勢を強めていったのに対し、線形の悪さから最速でも淀屋橋駅~出町柳駅間48分、京橋駅~七条駅間34分とスピード面で圧倒的に不利な京阪特急はJRの新快速に太刀打ちができなくなりました。その結果1990年代からは徐々に京阪間輸送から沿線重視の方向へと舵を切ることとなり、京橋駅~七条駅間ノンストップを取り止めて停車駅を増やしていくことで現在の京阪特急へと姿を変えていったのでした。

 ところが、近年京阪は再び京阪間輸送への回帰を進めつつあります。背景にはここ最近の訪日外国人観光客の増加による京阪間輸送の需要増加に加え、全体的な通勤客の減少から観光客需要を取り込む必要性が以前に比べ増したことが考えられます。そしてこの京阪間輸送への回帰を象徴する列車が、かつての特急と同様に京橋駅~七条駅間でノンストップ運転を行う、2011年に運行を開始した「快速特急 洛楽」です。

 当初は繁忙期のみでの運転でしたが、利用客から好評で迎えられたことから2016年に土休日限定で定期列車となり、さらに2017年からは平日にも運行されるようになり今日に至ります。使用車両は当初は8000系でしたが、2017年以降の定期列車は3000系に代わっており、またダイヤは午前中に出町柳行が平日2本・土休日5本、夕方に淀屋橋行が同じく平日2本・土休日5本が共に30分間隔で運転されています。所要時間は淀屋橋駅~出町柳駅間50分、京橋駅~七条駅間35分とかつての特急とも遜色ないスピードで、京阪間輸送の再興の役割を担っています。


▲京阪間輸送への回帰の象徴とも言える「快速特急 洛楽」

 その他にも2016年以降日中や夕ラッシュ時などの特急で全体的にスピードアップが図られたことや後述のプレミアムカー導入からも、京阪間輸送への回帰の傾向が見て取れます。

(3)プレミアムカーの導入

 そして最近の京阪の出来事の中でも最も新しいのが、プレミアムカーの導入です。先述のようにこのプレミアムカーは2017年に8000系の6号車として運行を開始した座席指定制の特別車両であり、車内は通常車両が2+2の4列クロスシートなのに対し1+2の3列リクライニングシートを採用、さらに専属のアテンダントが車内に常駐するほかコンセントや無料Wi-Fiも完備するなど、京阪特急の名に恥じぬ非常に上質なサービスを提供しています。料金は400円または500円で、基本的には大阪府内または京都府内のみ乗車する場合は400円、淀屋橋駅~京橋駅間の各駅から中書島駅以東への乗車の場合は500円という料金体系になっています。

 また、プレミアムカーと同時に「ライナー」という列車も運行を開始しました。このライナーは同じく8000系が充当され、朝ラッシュ時の着席保証を目的とする全車座席指定制の列車です。現在はラッシュのピーク前後に枚方市駅始発と樟葉駅始発の2列車が運行されており、京橋駅以西では特別料金は不要となっています。料金はプレミアムカーが400円なのに対して、その他の一般の号車は300円となっています。

 これらの導入の背景には、先述のような京阪間輸送におけるさらなるサービス向上により顧客獲得を目指すとともに、着席保証車両の導入という新たな付加価値の提供により京阪本線周辺の沿線価値を高め、京阪沿線地域を「選ばれる街」へと昇華させる意図があると考えられます。

 幸いにもプレミアムカーの乗車率は平日で7割弱、土休日では8割程度と非常に好調で、また登場から半年が経過した2018年2月には利用者数が50万人を突破するなど大成功を収めており、今後の京阪の成長の牽引役としてさらなる発展が期待されています。

▲プレミアムカーの車内の様子

▲枚方市駅にて発車を待つ「ライナー」

4.利用客減少と迷走するダイヤ

 ここまで京阪本線のダイヤを考える上での基本的な概要を述べてきましたが、京阪を悩ませる大きな問題の一つに長期的な利用客の減少があります。それに伴い、京阪本線のダイヤも時代とともに激しく変化しているのです。

(1)利用客の推移


※京阪本線・交野線・宇治線・鴨東線・中之島線の年間輸送人員を合計して算出

※一般財団法人 運輸総合研究所「都市交通年報」各年度版を基に作成

 こちらのグラフは京阪の主要5路線の年間輸送人員の推移を表したものです。グラフから読み取れるように京阪の年間輸送人員は1990年代初頭をピークに右肩下がりで減少を続けており、

 2010年時点での年間輸送人員は1960年代後半と同水準にまで後退しています。特に減少幅の大きいのが定期旅客で、全盛期と比べると6割未満にまで減少しています。なお、同列のデータが存在しないためこの表には掲載していないものの、ここ最近は景気回復や外国人観光客増加から再び増加傾向に転じつつありますが、やはり全盛期と比べると遥かに少ないのが実情です。

 このような旅客減少の背景には、沿線人口の減少や関西経済の停滞、ひいては日本社会全体での景気低迷に加え、JR西日本や大阪市営地下鉄(現:大阪メトロ)といった並行する競合他社の相次ぐ路線延伸・新線開通やサービス向上により乗客の転移が進んだことが挙げられます。

(2)迷走する日中ダイヤ

 このような長期的な利用客減少の影響が大きく表れているのが、京阪本線の日中ダイヤです。特に2000年以降は2、3年単位で大規模な日中ダイヤの改正を実施しており、少々聞こえが悪い表現ではありますが、京阪本線のダイヤはまさしく「迷走」を続けている状況なのです。

 次の表は、近年の改正ごとの大阪側での日中ダイヤの変遷をまとめたものです。

※◯の列車は天満橋駅または中之島駅発着、●の列車はプレミアムカー連結

 ご覧のように2000年以降は頻繁にダイヤ改正を実施しており、また改正のたびに運行形態が大きく変化するなど、京阪本線のダイヤの変化の激しさ、ひいては京阪本線のダイヤ構成の難しさや同線を取り巻く環境の変化の速さを伺い知ることができます。

 これらの改正の中でも特に大きな転換点となったのは2003年改正で、1971年から32年間に渡り続いた15分ヘッドのパターンから、今日まで続く10分ヘッドのパターンへと移行した、現在の京阪のダイヤの礎を築いた歴史的な改正でした。またこの改正では大阪側の利便性低下を防ぐ目的から、大阪側では日中毎時24本という圧倒的な本数が運行されることとなりました。しかし2011年の減量改正によって毎時18本へと減便されたのを見ると、その後の利用客減少によって輸送力が過剰となってしまったことが見て取れます。

 それと同時に、種別ごとの役割というのも時代とともに大きく変化しています。特に変化が大きいのはやはり京阪本線の主力種別の特急で、2000年までは京橋駅~七条駅間ノンストップ運転を行っていたのが、JRの新快速の成長などによる乗車率の低下により、2000年改正では停車駅に中書島駅と丹波橋駅が加わり、さらに2003年改正では10分ヘッドへの大転換とともに枚方市駅と樟葉駅にも終日停車が始まり、そして2017年改正でのプレミアムカー導入と、京阪間輸送から中間駅輸送への移行、そして新時代に向けた新たな付加価値の創造と、時代の変化とともにその姿を変えつつあります。

 このように、京阪のダイヤは時代の流れとともに大きく変化し続けているのです。

5.現行ダイヤの問題点と改善ダイヤ案

 いよいよこの研究の本題に入ります。これまでの内容を踏まえて、現行ダイヤの改善案を考えていきたいと思います。なお、新型ATSの全線導入や5000系の引退により2020年度以降はダイヤの条件が大幅に変わるため、それ以前のダイヤであるという前提で進めていきます。

(1)朝ラッシュ時ダイヤ

①現行ダイヤと問題点

※凡例 通快:通勤快急 通準:通勤準急 8連P:8000系 8連C:3000系 7連D:5000系

※特急・ライナーの通過駅における灰色の発時刻は通過時刻です(以下の時刻表も同様)。

 まずは現行の朝ラッシュ時ダイヤからです。利用客の減少から全盛期に比べると本数は減ったものの、依然として最混雑1時間で複線区間では26本、複々線区間では36本と多くの列車本数を運転しています。複線区間では特急に加え快速急行・準急の守口市駅通過版である通勤快急と通勤準急が主力であり、複々線区間では区間急行と普通が輸送を担う形と、複線区間と複々線区間で列車の機能を分離しているのが大きな特徴です。

 2016年時点の野江駅~京橋駅間での混雑率は124%と低く、データだけを見るとどの列車も空いているように思えます。しかし実態は大きく異なり、普通や区間急行が空いているのに対して通勤準急以上の種別は大混雑という混雑格差が生じており、混雑率の差は最大で100%以上に及んでいます。また寝屋川市駅以東から複々線区間の途中駅へと向かう流動が多いのも特徴で、そのため実質的な最混雑区間は寝屋川市駅~萱島駅間となっており、特に京橋駅以西への乗客と萱島駅で乗り換えて複々線区間の途中駅へと向かう乗客が混在する通勤準急は混雑が非常に激しく、実際自分が同区間で通勤準急に乗った際にも「押し屋」の方の手助けを受けてようやく乗車できたほどで、関東の混雑路線とも遜色ないほどの混雑だったと言えます。

 このように通勤準急以上の列車の混雑は激しいものの、複線区間では既に線路容量の限界に近い本数を運転していることから抜本的な改善は難しいのが現状です。そこで今回注目するのが「ライナー」の存在です。現在ピーク前に枚方市駅始発、ピーク後に樟葉駅始発の計2列車が運転されていますが、停車駅の少なさに加え両駅とも始発の通勤準急が存在することから、乗車率は枚方市駅始発が5割、樟葉駅始発が3割程度と高くはありません。そこで今回はライナーを利用可能な駅を増やすことで着席保証サービスの拡充を図ることを改善案に据えたいと思います。

 また寝屋川市駅と香里園駅はそれぞれ線内で4位と6位の利用客を誇るにも関わらず、実態は激しい混雑を強いられる上に始発列車も存在しないなど冷遇されていることも問題点の一つです。そこで両駅における快適通勤の実現も改善目標としたいと思います。

②改善ダイヤ案


 改善ダイヤでは、第一にライナーの利便性向上を、具体的には三条駅始発のライナーの新設と枚方市駅始発のライナーの寝屋川市駅停車を行いました。前者は利用距離が長く需要が大きいと予想される上に、会社側も京都側からのライナーの設定に意欲的であることから設定しました。京橋駅までの停車駅は樟葉駅以東の各特急停車駅で、既存のライナーの存在やダイヤ上の都合から枚方市駅は通過としました。また後者は寝屋川市駅をはじめ周辺駅への着席サービス提供を目的としています。これらの実現によって京阪本線内の全特急停車駅と寝屋川市駅にライナーが停車することとなり、同線の通勤利便性は飛躍的に向上すると考えます。

 その他に、香里園駅の2番線(上り副本線)の折り返し設備を活用して、区間急行のうち1本を萱島駅始発から香里園駅始発(7:27発)に延長しました。途中で後続の通勤準急に追い越されるものの、座って淀屋橋駅まで行ける特別料金不要の列車であることから、香里園駅や寝屋川市駅とその周辺駅に新たな快適通勤の選択肢を提供できるものと考えます。

(2)日中ダイヤ

①現行ダイヤと問題点

 ここでは便宜上2013年改正時のダイヤとの比較を交えながら進めていきます。

<2013年 平日日中上りダイヤ>

※凡例 8連K:8000系(プレミアムカー非連結) 8連C:3000系

<現行 平日日中上りダイヤ>

※凡例 8連P:8000系 8連C:3000系

 先ほども述べたように京阪本線の日中ダイヤは構築難易度が非常に高く、ダイヤ改正の度に激しい変化を繰り返してきました。その中で特に利用客からの評判が良かったのが2013年改正のダイヤであり、特急の所要時間は全線で上り56分、下り58分と鈍足だったものの、その代わりに準優等種別は上りの場合急行が樟葉駅まで、準急が枚方市駅までそれぞれ特急から逃げ切っており、全体的に列車同士の接続が整ったバランスの良いダイヤでした。

 しかし、プレミアムカーの導入に先立ち2016年に再び大規模な日中ダイヤの改正が実施され、それに2017年の改正で細かい修正を加えたのが現行ダイヤとなります。このダイヤでは特急の所要時間は全線で上下とも54分とスピードアップが図られたものの、その代償として準優等種別は香里園駅で特急を待避するようになってしまいました。この影響で特急の混雑が悪化したほか、準急の待避回数増加に伴う運用数の増加に伴い、以前は京橋駅で長時間停車することで接続を確保していた中之島線からの普通が、改正後は運用数削減の目的から停車時間を短縮したため中之島線と京阪本線との接続も悪化しています。

 また、複々線区間の途中駅から京都側への移動も非常に不便なものなっています。これは準急の香里園駅での特急待避の影響に加えて、普通のうち毎時2本が枚方市駅発着ではなく萱島駅発着となっているのも原因で、特に西三荘駅~大和田駅間の各駅から特急へと乗り換えて京都側に向かう際は、萱島行の普通に乗った場合萱島駅で準急に乗換、さらに樟葉駅で特急に乗り継ぐことになりますが、この場合後続の枚方市行の普通に乗車しても接続する特急は同じ列車という現象が発生してしまうのです。そのため同区間での移動の場合実質的な有効本数は毎時4本となってしまっているのです。

 このようにデメリットが大きく乗客からの不満も大きい現行ダイヤですが、背景には京阪本線のダイヤ設定を難しくする根本的な原因である、次の二つのダイヤ作成条件があります。

【ア.特急の運用制約と準優等種別の兼ね合い】

 2013年改正のダイヤは特急を遅くすることで列車間の接続を上手く機能させるダイヤであり、そのため特急運用は8000系8本・3000系4本の他に3000系(一般車代走あり)1本を加えた2時間10分サイクルの計13運用となっていました。しかし朝夕30分ヘッドで運転の「快速特急洛楽」と運用が噛み合わないことや、プレミアムカー導入で日中の8000系運用をパターンダイヤにする必要が生じたことから、現行ダイヤにおける特急運用は一般車代走ありの3000系1本を除いた2時間サイクルの計12運用となっており、ダイヤ作成の前提条件となっています。

 ところがこの条件の実現には、特急が先行する準優等種別の影響を受けずに走る、具体的には京橋~枚方市駅間を列車詰まりによる減速を受けずに14分で走破する必要があります。このため準急が淀屋橋駅~枚方市駅間で先着することが不可能になり、現行ダイヤでの準急の香里園駅における待避を、そして全体的な接続の悪化を引き起こしているのです。

【イ.萱島駅発着の列車の必要性】

 また、一見不可解な萱島駅発着の普通にも明確な設定理由があります。萱島駅~寝屋川市駅間の寝屋川車庫は京阪本線最大の車両基地であるとともに、同線の乗務員の拠点基地としても機能していますが、同車庫は両隣の駅から離れた距離にあるため、乗務員は同線と行き来をするのに入出庫列車を利用しています。そのため寝屋川車庫の乗務員輸送を目的に最低毎時2本は萱島駅発着の列車を設定するという制約が存在し、ダイヤ作成の大きな障壁となっています。

 これらの厳しい条件を考慮しながら、先に述べた問題点を改善していきたいと思います。

②改善ダイヤ案

 改善ダイヤでは、第一に準急の萱島駅通過版である新種別「快速」を設定しました。この列車は萱島駅を通過することで特急の減速を引き起こすことなく淀屋橋駅~枚方市駅間で先着を可能としており、現行ダイヤの諸悪の根源である準優等種別の香里園駅での待避を解消しています。

 また萱島駅発着の普通の接続改善に加えて、快速が通過する萱島駅の救済を目的に、準優等種別のうち毎時2本は準急としています。この準急は中之島駅発着に変更し、京橋駅で淀屋橋駅発着の3000系特急と接続を行い、上り列車では特急の1分後に京橋駅を発車することで枚方市駅までの先着を実現しており、こちらも香里園駅での待避は解消されています。この香里園駅での待避の解消により全列車の合計運用数は現行の44運用から43運用に削減され、また運用数に余裕が生まれたことから京橋駅での中之島線列車の接続改善も図っています。

 この改善ダイヤは余裕時分が少ないという欠点はあるものの、準優等種別の改善により大幅な接続利便性の向上や特急の混雑緩和を実現しており、その効果は非常に大きいと考えます。

(3)夕ラッシュ時ダイヤ

①現行ダイヤと問題点

※凡例 快急:快速急行 8連P:8000系 その他:一般車

 最後は夕ラッシュ時ダイヤです。なお、ここでは便宜上交野線のダイヤについても扱っていくこととします。夕ラッシュ時のダイヤは朝ラッシュ時とは異なり綺麗なパターンダイヤになっているのが特徴で、現在ピーク時の18時台には27本が運転されています。ダイヤ構成は20分サイクルで、サイクル中2本の特急と普通を基本として、大阪側の主要駅への輸送と特急の補佐の役割を担う快速急行と急行がそれぞれサイクル中1本、さらに大阪側での近距離輸送の役割を担う準急がサイクル中3本という構成になっています。また特急の半数が8000系で運転されているのも特徴であり、プレミアムカーによる着席保証を実現しているほか、8000系特急の混雑を少しでも抑えるために、同列車の直前に快速急行が露払いとして設定されています。

 しかし、プレミアムカー導入以降この8000系特急が夕ラッシュ時ダイヤにおける大きな問題となっているのです。元々8000系はラッシュの混雑に耐えられる車両ではないことから、特急停車駅が増加した2003年改正以降も夕ラッシュ時は枚方市・樟葉の両駅を通過するK特急(2008年以降は快速特急に改称)として運転されており、その後車端部をクロスシートからロングシートへと改造することで2011年からはなんとか夕ラッシュ時の特急に充当できるようになったという経緯があるのです。ところがプレミアムカーの導入によって、プレミアムカーの両隣の号車に乗客が集中してしまうという現象が発生しており、クロスシート故に乗客を車内の奥へと詰めづらいことも災いして、これらの号車では深刻な混雑となってしまっています。

 自分が実際に京橋駅18:27発の特急の、プレミアムカーの真横に当たる7号車に乗った際にも、周囲から凄まじい圧迫を受け全く身動きが取れないという、夕ラッシュとはまるで思えないような深刻な混雑でした。しかも、ただ単に混雑が激しいだけならまだしも、先述の混雑に加えて2扉という構造上乗降に時間がかかってしまうことから遅延の発生源となっており、自分が調査した際にも京橋駅18:07発と18:27発の特急がともに3分遅れでの発車となっていたほか、他列車にも遅延を波及させていました。このように8000系特急は混雑と定時運行の点で非常に大きな問題を抱えており、改善は急務であると言えます。

 その他の問題点としては、優等列車の中でも混雑の格差が目立つことが挙げられます。特急や快速急行、急行は混雑が激しいのに対して、中之島線からの準急は普通とほとんど同等の乗車率となっています。空いている列車が選択肢として存在するのはある意味では望ましい状況ですが、急行以上の種別の混雑状況を考えると、全体的に混雑の均等化を図るのが適当と言えます。

 また西三荘駅~大和田駅間の各駅から寝屋川市駅以東への移動が不便なことも問題の一つです。朝ラッシュ時の説明でも述べたようにこの区間での流動は意外にも多いのですが、2017年改正以前は萱島行の区間急行が毎時3本運転されていた上に普通の半数が出町柳行となっていたのに対し、現行ダイヤでは区間急行が消滅した上に普通は全て萱島駅止まりとなったほか、京都側への接続も悪化するなどかなり不便な状況で、こちらも改善が必要であると考えます。

 夕ラッシュ時ダイヤではこれら3点の改善を考えていきたいと思います。

②改善ダイヤ案

※凡例 通特:通勤特急 通快:通勤快急 8連P:8000系 8連:3000系または一般車

 改善ダイヤでは、第一に8000系特急の抜本的な混雑緩和を図るために、同列車を新種別の「通勤特急」に格上げしました。この通勤特急は特急の枚方市駅通過版であり、これによって現在の8000系特急と比べ大幅な混雑緩和、そして遅延の解消が実現するでしょう。

 一方で通勤特急の設定に伴い、このままでは枚方市駅周辺と交野線で大幅な利便性の低下につながることから、これを防ぐために通勤特急の直後に枚方市行の通勤快急を設定しました。この列車は枚方市駅で交野線のホームである5番線到着として(次の配線図を参照)交野線の列車に対面乗換できるようにすることで、従来は階段を通じて乗り換えていた交野線の利用客の利便性向上を図っており、また香里園駅で先行する準急と接続を行うことで、実質的に樟葉駅まで後続の特急よりも先の到着となるようにしています。

 この通勤快急の設定によって、淀屋橋~私市駅間の所要時間は最速で39分と現行と変わらず、また御殿山駅と牧野駅についても、実質的に樟葉行の快速急行が枚方市行の通勤快急へと運転区間が短縮されたことから、代わりに枚方市行の準急を樟葉行へと延長し、さらに接続を改善することで、淀屋橋~御殿山・牧野駅間の有効本数を現行の特急毎時6本から特急・通勤快急・急行の計毎時9本に増やし、これによって通勤特急設定による利便性低下を最小限に抑えています。

 そして快速急行から守口市駅通過の通勤快急に変更して、守口市駅へと向かう乗客には後続の中之島線からの準急を利用してもらうことで、枚方市駅周辺や交野線への速達性を損なわないようにするとともに、通勤快急への乗客集中を防ぎ混雑の均等化を図っています。

 最後に西三荘駅~大和田駅間における利便性向上策としては、朝ラッシュ時の改善ダイヤの説明の中でも述べた香里園駅の折り返し設備を有効活用して、普通のうちの半数を萱島駅止まりから香里園行へと延長することで、同区間から寝屋川市・香里園の両駅へ向かう乗客の利便性を向上するとともに、後続の急行への乗換を可能としています。

 また現行ダイヤでは同区間から特急に乗って京都側に行く場合、先述した現行の日中ダイヤと同じように、接続の悪さからサイクル中2本の普通のどちらに乗車しても接続する特急は同じ列車になってしまうという不便なダイヤですが、改善ダイヤでは通勤特急・特急の所要時間増加と引き換えに全体的な接続の改善を図ることによって、この場合の有効本数も現行の1時間当たり3本から1時間当たり6本へと改善されています。

6.まとめ

 この研究における京阪本線のダイヤの改善案は以下の通りです。

7.おわりに

 今回は自分の好きなテーマだったことに加え、京阪についてあまり詳しくない方にも内容が理解しやすいような研究を目指して執筆したことから、20ページという自分の中では過去最長の研究となりました。特に結論の改善ダイヤ案は作成に半年以上を費やしており、今までで一番力を入れた研究でもあります。その反面いささか長ったらしいものにはなってしまいましたが、内容に関しては自信の持てる研究が書けたと自負しています。

 今回の研究を執筆して感じたことは、「列車のダイヤには必ず理由が存在する」ということです。鉄道のダイヤというのは我々の身近にあることから批判対象にされやすい分野ですが、いざ自分で一からダイヤを作成してみると、乗客流動や運行設備、使用車両や列車運用など、様々な構成要素に基づいた上で、明確な理由があって初めてダイヤが創られることを強く実感しました。読者の皆さんにも、この研究を読んで少しでもダイヤの世界の奥深さを感じてもらえたなら幸いです。

 さて、次回は自分にとって最後の研究ということで、これまで学んできたことを精一杯発揮して、悔いの残らない研究が書けるよう頑張りたいと思います。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。

8.参考資料

・「京阪時刻表」1997年・2003年・2009年 京阪電気鉄道株式会社

・「鉄道ピクトリアル」1973年7月臨時増刊号・1987年7月号・1998年3月号・

2000年12月臨時増刊号・2003年10月号・2009年8月臨時増刊号 株式会社電気車研究会

・「鉄道ジャーナル」2003年9月号・2017年3月号 鉄道ジャーナル社

・「都市交通年報」各年度版 一般財団法人 運輸総合研究所

・京阪電気鉄道 公式ホームページ https://www.keihan.co.jp/

・国土交通省 公式ホームページ http://www.mlit.go.jp/

・大阪府 公式ホームページ www.pref.osaka.lg.jp/

・京都府 公式ホームページ http://www.pref.kyoto.jp/

・八幡市 公式ホームページ http://www.city.yawata.kyoto.jp/

・産経WESTー京阪「プレミアムカー」好発進 9月中間連結決算は売上高が過去最高

www.sankei.com/west/west.html

その他にも多数の個人ブログ様などを参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。