男子厨房に入ろう! をキャッチフレーズに 「くぬぎ男の料理教室」
このところ、料理教室に通う男性がふえています。しかも団塊の世代くらいの定年退職後の男性が多いと言われます。退職後の空き時間を利用した趣味の一つとして、おいしいものを自ら作って食べたい、食事を妻に頼らなくてすむようになど、きっかけはさまざま。
ところで若葉台(横浜市旭区)には、なんと10年前から、「男子厨房に入ろう」をキャッチフレーズに活動している「くぬぎ男の料理教室」があります。 町内会に自発的にできたグループで、代表の飯田悦生さん、副代表の千葉清裕さんを中心に、約12人で月1回講師を招き、料理教室を開いています。
3月24日にも開催と聞いて、早速、若葉台地区センターの調理室にお邪魔してきました。 指導はベテランの料理家・池智子さん。
教室に入ると、エプロンを着け、バンダナやチーフを頭に巻いた年齢70~80歳くらいの男性たちがスタンバイ。野菜を洗ったり、レシピを見たり、早くも下準備に余念がない。 さすが10年選手。皆さん、そんな姿が板についています。
《当日の献立》
・鶏肉が入った具たくさんのお寿司
・鯖の包み焼き
・春菊の白和え
野菜たっぷりの、春らしいヘルシーなメニューです。
さすが10年の実績があるだけに、皆さん、真剣な顔で野菜を切ったり、フライパンを火にかけるなど、黙々と作業をこなしていきます。
「ささがきは、包丁をこう使うといいですよ」 「ニンジンは皮をむいて、2㌢の千切りにしてくださいね!」
ときどき池先生のアドバイスが入る。男性たちはうなずき、緊張した手つきで鍋を火にかけ、火加減を調整。ルーチン仕事のように着実に作業を進めていきます。
そして1時間半後には見事に料理が完成していました。
炒り卵のたっぷり乗った具沢山のかしわ寿司。サバのホイル焼きはアルミを開くと、ふっくらとしていかにもおいしそうに仕上がっています。 皆さん、大満足のようす。
「これからこの料理を持参し、みんなでお花見をするんですよ!」
その前に少し時間をいただき、お話をうかがいました。ちなみに平均年齢は75歳、うちその中の2人は80歳以上です。
――10年前、なぜ皆さんで、料理を習うことにしたんですか?
「前から、こういう料理を作りたかったんです」
――料理が好きということですか? ちなみに、現役のときの仕事とどちらがおもしろいですか。
「サラリーマンの時より、このほうが何倍も楽しいですね(笑)」
――皆さん、家でも料理の腕をふるってるんですか?
「あまり、家では作らないですね」
――それは、どうして?
「やる人が、いるからね」
――そうですか。意外ですね。
「でも、『手伝おうか』とは言いやすくなった。それに、レトルトを買って食べるのでも、アレンジができる(笑)」
――せっかく料理の腕があるのに、もったいない。
「でも、必要になったら作りますよ。いざとなったら作れるんだから」
一人暮らしになって習った料理が役立っている人も。積み上げてきたレシピが何よりありがたい。健康な生活が送れるのは、毎日の食事作りのお陰だと思っている。
「いざとなったら、作れる」。これ、本当に大事ですね。
料理が作れるというのは、自立への第一歩かもしれません。 たとえ妻が病気で寝込んでも、かわりに食事くらい作れる。そうでないと自立した大人とは言えないでしょう。仕事もできるけれど、料理だってそこそこ作れる。いつだって、妻と役割を交代できる。これは一種の保険でもあり、生きることへの自信にもつながっているようです。
「男性の料理による地域デビューを応援したい」
と講師の池さんは話します。
「自分で作って食べられる」
「妻や家族に頼らなくても生活できる」
この自信が、退職後、地域に目を向けるきっかけともなるようで、「くぬぎ男の料理教室」の皆さんは、園芸ボランティアを行うなど地域でも活発に活動しています。男性にとって、今や料理ができる、というのは、大事なスペックの一つになりつつあるのかもしれません。
きっと皆さん、趣味であれ、仕事であれ、真剣に取り組まなければ気のすまない、日本の高度経済成長を支えてきた、まじめで心やさしい男性たちなのですね。
その後、当日のお料理を持参し、皆さんで楽しくお花見をされたとのこと。きっとこれまでで最高のお花見弁当だったことでしょう。