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『来者の群像』が第28回高知出版学術賞特別賞を受賞しました

2018.03.30 02:18

高知に関係する優れた学術図書に贈られる「第28回高知出版学術賞」が2018年3月29日発表され、特別賞に『来者の群像ー大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』が選ばれました。


【講評】

本書は、現大月町に生まれた大江満雄が戦後ハンセン病療養所の詩人たちと続けた文学的交流の軌跡を、宿毛市出身の著者が現地を訪ね、詩人たちへのインタビューを通して描き出したものである。著者は、忘れられた人々の歴史に光をあてることを課題とする歴史学の研究者。学生時代からハンセン病の歴史に関心を抱いた著者にはすでに大江関係の著作がある。大江によるハンセン病者73人の詩のアンソロジーである『日本ライ・ニュー・エイジ詩集 いのちの芽』(1953)により、著者は同書に寄せた、あるいは大江と交流のあった療養所の生存者を、1996年1月から2017年4月の約20年間に全国7か所の療養所に訪ね、大江との交流を14名からの聞き書きにまとめた。

本書から、大江による病者たちの文芸活動の紹介や詩の選評、総合誌を通じての彼らの詩の世間への紹介、教養講座やらい予防法闘争への支援など、ハンセン病者の社会的地位向上を目指す一貫した活動をみることができる。なお、タイトルの「来者」は、「過去に負の存在とされた〈癩者〉を、私たちに未来を啓示する〈来るべき者〉」として、らい者への新たな希望を託した大江の造語という。同時に、著者のインタビューに答える人々の肉声は、「「隔離政策のもとでつねに受け身の患者」という従来の枠組み」(あとがき)を突き崩す力があり、貴重である。

1996年3月「らい予防法」が廃止されたが、長く行政や世間の偏見・差別に苦しめられてきたハンセン病者への共感と彼らの地位向上に対し、大江という人物の多大な尽力に光をあて、同時に生存者の肉声を記録した本書の啓蒙的意義は大きい。大江も、病者も「歴史の表舞台から忘れられつつある人びと」である。特別賞にふさわしい著作である。

(佐藤恵里「高知出版学術賞を審査して」高知市文化振興事業団発行『文化高知』2018年5月号より)


*2018年3月30日付『高知新聞』に受賞記事が掲載