作業療法学分野|EBPのコンピテンシー、信念対立からみるEBP
2022.12.29 09:00
日本のEBP研究で、今年(2022年)に作業療法学分野から発表された論文2本をご紹介します.
■ 廣瀬ら(2022). 回復期の脳卒中上肢機能訓練における信念対立の質的解明.
廣瀬ら(2022)の論文で、作業療法士6人を対象とした半構造化面接から「信念対立の構造のモデル図」が示されています.
▾図1 「信念対立の構造モデル図」より
成功や失敗体験などの実体験により,治療方針に関わる信念が生成されていた.一方で,EBP における障壁を契機として,障壁により生じる信念が生成されていた.また,OTごとに EBP に対する認識論が存在した.これらの信念の存在により,治療方針の考え方の違いや,他者との関係性による信念対立が生じることが明らかとなった.また,EBP の誤認識が信念対立の要因となっていた.対立による影響として,コミュニケーション機会の減少などの 2 次的な影響を招いていた.結果として,他者の治療方針の目的が不明確となり,さらに人間関係を悪化させるという循環的な構造が存在した.信念対立の解明には,他者の信念の理解や目的の共有が有用であった.
この論文では、”エビデンスが比較的明確な脳卒中の上肢機能訓練においても、医療者の信念の相違に伴う信念対立が実践の障壁となる可能性があることが考えられる”などの背景に着目されていました.
EBPの様々な様相を紐解くうえで、どこに焦点を当てるとより実態を鮮明に記述できるか?というのを考えるうえでも、インタビューガイドも参考になります.
■ 廣瀬ら(2022). 作業中心のEvidence-based practiceにおけるコンピテンシーの質的解明.
廣瀬ら(2022)は、作業療法士の実践に焦点をあてたEBPのコンピテンシーについて、質的研究を用いて探索的に検討した結果を報告しています.
ヘルスケア領域の共通の基盤となるEBPの考え方は軸としてもちつつ、とくに医学的な研究の知見と作業療法学分野の知見をどのように統合していくのか?という観点からも考察されています.
それぞれの専門分野でEBPをより深めていく、あるいは、その分野に特有なEBPの阻害要因を乗り越えていくうえでも、丁寧に紐解いていくことの必要性を示してくれています.
References.
- 廣瀬卓哉, 寺岡睦, 京極真. 回復期の脳卒中上肢機能訓練における信念対立の質的解明. 作業療法. 2022;41(3): 315-324. https://doi.org/10.32178/jotr.41.3_315
- 廣瀬卓哉, 寺岡睦, 京極真. 作業中心のEvidence-based practiceにおけるコンピテンシーの質的解明. 作業療法. 2022;41(6); 686-693. https://doi.org/10.32178/jotr.41.6_686