ルイの家で大晦日パーティ
今年の年越しは、ルイの豪邸で(ルイの家は代々のお金持ち)たくさんの仲間と集まってパーティ。
去年はタクヤの家で内輪だけでのんびりしたけど、こんな賑やかなのもいいな、とすばるは思っていた。
特に今年はミュージシャンが多いからライブをやったりセッションをしたり。美味しいお酒を飲みながらすばるもみんなも楽しんでいたのだった。
すばるとタクヤは、レナとナギと同じテーブルに座って会話を楽しんでいた。
どういうわけか、すばるには去年ナギがいた記憶が無い。
ずっと昔から、子供の頃から一緒に過ごしてきたのは確かなのに。
シュリの兄のナギの記憶は何故かぼんやりと曖昧なのだった。
それでもナギのことを幼馴染で大好きで大切なのは変わらなかった。
記憶のことは不思議だけど、今年はこうして一緒に過ごせて本当に幸せだとすばるは思った。
「それでね、ナギくん今年は筋トレ頑張るんだって。この前一緒にショップに行って色々見てきたんだよ。ね、ナギくん」
レナがナギを覗き込む。ナギは頭をかきながら恥ずかしそうに笑った。
「鍛えてかっこいい方がレナさん喜ぶかなって…それに、僕は強くなってこれからもレナさんを守りたいからね」
照れながらも、そう言ったナギの目の中には強い光が宿っていた。
「キャーもうナギとレナってばラブラブじゃん!」
すばるがなぜか自分のことのように赤くなりながら冷やかす。
「父さんとかタクヤさんみたいに鍛えて強くなるのが目標なんだ。タクヤさんは空手黒帯だし羨ましいよ。すばるはタクヤさんのそばにいたら安心だね」
ナギが言うとすばるはまたも赤くなって「うん…」と小さくうなづく。
「アハハ、確かに鍛えて強くなることはいいことだよね。大事な人を守れる力をつけるのは自信にもなると思う。無理せずに目標は小さく細かく設定して、少しずつ頑張るといいよ」
タクヤは優しく言った。
ナギはそのアドバイスに深くうなづいた。
なにしろ、ナギはタクヤにレナを守ってもらったことがあるのだ。
ナギとレナがジェラート屋でデートをしていた時、レナが突然現れた暴力を振るう父親に刃物で襲われたことがあった。
咄嗟に体で一撃目を受けてレナを守ったけど、受けた傷が深くて2回目の攻撃はレナを守れない。
そう思った時、機転を効かせて駆けつけたタクヤがボコボコにしてくれたのだった。
生死の境を彷徨ったけどこうして無事に自分もレナもいられるのはタクヤのおかげだと、ナギは深く感謝して尊敬しているのだった。
「頑張って強くなるよ。もうレナさんを誰にも傷つけさせないようにね。」
そう言って笑うナギはすばるが知ってる姿よりずっと逞しくカッコ良くなっているように見えた。
(あれ…?)
ふと昔の記憶が蘇る。
子供の頃のナギは何故か、可愛いワンピースを着た女の子の姿をしている。
髪もショートボブで可愛らしい。
記憶違いかな?とすばるは思った。でも不思議と、それでも違和感がなかった。
どんな姿でも大好きなナギであることに変わりはない。
そんな結論が頭に浮かんで、よく分からないけどすばるは納得した。
「あ、シュリが呼んでる。え?セッション?分かったよ」
ナギとレナは目を合わせて微笑むと立ち上がった。
「ちょっと僕たちセッションしてくるね。また後で」
すばるとタクヤは笑顔で2人を見送った。
「タクヤさん、今年はナギも、それに他のたくさんの友達も…こんなにたくさんみんなで過ごせて幸せだね」
「ああ。嬉しいな。どうして今年はこんなに幸せなんだと思う?」
タクヤは頬杖をついてすばるを優しく見つめる。
「え?えっと、どうしてかな…」
うーんと考えているすばるが愛おしくてタクヤは思わず頭をポンポンと撫でた。
「それはね、すばるがこの一年を生きたから。何にもなくても、何にもなれなくてもいい。ただ日々命を生きたこと。それが今日という日を作った。素晴らしいよな。」
それを聞いてすばるは心が震えてしまった。
私がただ生きたから。
「本当に、ただ生きただけなのに?」
「そうさ。それが案外、一番難しいんだ。来年も、命ある限り。」
タクヤは誰にも気づかれないようにそっとすばるの頬にキスをした。
すばるは赤くなって照れながら、その言葉を噛み締めた。
命ある限り。
いつも見える景色は変わっていく。
すばるもそっとタクヤの頬にキスを返して思った。
来年もただ生きるよ。この命を。
命の灯火があなたに美しい景色をもたらしますように。