天が堕ちた日
今でも、電話は苦手だ。
「・・・殿下」
『・・・・・』
「ブラムド殿下」
『ん?
・・・ああ、悪い。もう下げていいぞ。』
「・・・・」
『さて…急いで本国に戻らないと…だな。
至急、手配を頼む』
「よろしいのですか?」
『・・・何がだ?』
「本当に…お戻りになられるのですか?」
『・・・・・。』
「・・・・・・・・・・。」
『何言ってる…当り前だ。
俺の家だぞ?』
「かしこまりました・・・・・」
『飛空艇の準備が整い次第、俺はすぐに発つ。
時間が無いから、細かい荷や使用人は 後発の便で戻れ。
アドゥミラ公にはまだ・・・
いや、伏せておくのは難しいか。
あの方には先に、お伝えしておこう。
行くぞ』
「御意」
『なぁ、ビクター。』
「・・・なんだ?」
『いい加減、 ”葬式慣れ”してきている、冷静な自分がいてな。
…嫌になるよ。』
「気にするな。
俺も似たようなものだ。」
『そうか。』
「慣れた方がラクになる事もある。
俺はそれを、悪い事だとは思わない。」
『・・・そうか。』
あの日のことは、よく覚えている
朝からずっと 母が泣いていたからだ
いつも穏やかに微笑んでいる母が
ひどく泣き叫んでいる姿を見るのは初めてで
祖父が母の隣に寄り添って 慰めている様子を眺めながら
僕は何も出来ずに 立ちすくんでいた
僕の存在に気付くと
母はますます 悲しそうな顔をして
僕をぎゅっと抱きしめたまま 泣き続けた
僕はわけがわからないまま
- ははうえ どうしたの どこかいたいの? -
- だいじょうぶ? ねぇ なかないで ははうえ -
などと 言っていたような気がする
母は
- どこも痛くないの
ただ 私のとても大切な人が
とても遠くにいってしまったの
とても とおくに いってしまったのよ -
そう言って ますます僕を強く抱きしめるので
- ははうえ ぼくがいるよ ぼくがずっと ははうえのそばにいる -
- ぜったい とおくにいかないよ ね? だからなかないで -
そうだ
僕はあの時 母に約束したのだった
絶対に 貴女を独りにしないと
なのに
・・・・・・・・
今思えば あの日から
僕の運命は狂いだした
バルムンク、崩御。