階が違う
数年前、友人と夜メシを食いに、大阪の大きなビルの何階かにある料理屋に入った。
メシを食っていたんだが、俺はトイレに行きたくなったので、そのフロアにあるトイレへ。 友人はエレベータホールで待機。
トイレから出てくると、さっきと雰囲気が違ってる。 同じような壁、店が並んでいるけれど、なにかがおかしい。友人の待つホールまで向かう。 その途中さっきの料理屋の前を通るはずが、ない。
別の店になってる。 あれ? と思いながらもホールへ。しかし友人がいない。
階を確かめると、ひとつ上の階になっている。 そこではたと気がついた。 廊下に並ぶ店からは人の居るような、静かなざわめきが聞こえてくるんだが、 廊下にはそのフロア全体で俺しかいないみたいな静寂。さっきの違和感はこれだった。
あわてて階段で降りると、やはり料理屋のあるはずの階とは雰囲気が違っている。 階表示を見ると・・・今度はひとつ下の階だった。
気持ち悪くなった俺は、階段を昇ったり降りたり、そのたびに奇妙な雰囲気のフロアを行き来繰り返した。 何回繰り返したのかわからんが、やがて「普通の人のざわめき」みたいなのが聞こえるフロアに着いた。
そこは、料理屋のある階だった。ホールへ行くと友人が居た。 待たせた、と謝ったが、友人はそんなに待ってないと答えた。 ふつうのトイレの時間くらいだったという。 そこでまた気持ち悪くなって、そのビルを出るまでは友人にも言わなかった。 表に出てさっきの出来事を話たが、信じて貰えない。 そうだ、と思って腕時計を見たら、俺の時計が友人のよりも数十分(20分ちょいくらいだったと思う)進んでいた。 それでも友人は、俺が自分で時計をずらしたんだと信じなかったが。
しかしあの嫌な雰囲気のフロアに閉じ込められたのは、ホントにあったんだよ。
とくに悪意とか危険とかは感じなかったが「自分がいるべきはずの場所にいない」とか「行けない」とかいう妙な焦燥感はあった。
あれは一体なんだったんだろう。