VTR1000F Firestorm 1996
VTR1000F Firestorm 1996y
世界選手権スーパーバイクでのドゥカティの活躍をはじめ、ストリートシーンでも世界的気運で高まりをみせるVツイン・ムーブメントを受けて、ホンダの出した1つの回答がVTR1000Fだ。パワー、性能とどれを取っても世界をリードしてきた4気筒と違い、国内メーカーにとって、パフォーマンス重視のビッグVツイン・スポーツは未踏の地。当然、世界中のモーターサイクルファンが、ケルンショーで発表されたホンダ初のビッグVツインに注目した。
まず目に飛び込んでくるのが、有機的にデザインされたエアロフォルム。よそ見でもしようものなら、スルスルっと勝手に走り出して行ってしまいそうなくらい、躍動感に溢れたスタイリングが印象的だ。カウリングは3ピースで構成され、スラントノーズのフロントカウルには、フリーフォームリフレクター採用の異形1灯式ヘッドライトを装着する。幅がスリムなせいもあり、正面からのルックスはやや大人しめの印象を受ける。最高出力110PSというエンジンスペックもそうだが、ケルンショーで同時デビューとなったスズキTL1000Sが、WSBを強く意識した内容で登場したのに対し、VTRはどちらかというと、ストリート色の強い仕上がりを見せる。しかしそれは、車名に付いた「F」からも察しがつくように、メーカーの意図したものでもある。
新開発のパワーユニットは、水冷4サイクル90度Vツインで、ボア98mm×ストローク66mmのショートストローク設計。数値的にはドゥカティ(スズキLT1000Sも)と同じボア×ストロークだが、クランクケースは、ドゥカティやLT1000Sの左右分割式に対し、VTRでは上下分割式を採用している点は大きく異なる。カム駆動はチェーンを採用しており、お得意のカムギアトレーンは使っていない。このあたりの手法からも、VTRがガチガチの高回転型ではなく、ストリートでの乗りやすさにも十分に配慮した中低速向けを目指していることが伺える。吸気系には、ホンダの量産車中最大のφ48mmCVタイプキャブレターを採用し、点火はスロットル開度と回転数で電子制御され、9、000rpmで110psの最高出力を発生する。但し、実際のリリース時には、ヨーロッパの規制に沿った105PSでデビューする可能性もある。ラジエターは左右2分割タイプとし、それぞれに電動ファンが付く。また、ラジエターとは別にシリンダーヘッド直付けのオイルクーラーも備わるなど、熱対策は万全の構えだ。エキゾーストシステムは、一端エンジン下部で連結され、さらに左右2本に振り分けられる2into1into2方式のオールステンレス製を採用する。
ファイヤーストームの最大の特徴は、フレームにスイングアームピボットを持たないトラス状のフレームが与えられていること。つまりエンジン自体をフレームの強度メンバーとして利用する手法が用いられており、スイングアームはエンジンに直付けされる。もちろん強度的には十分なマージンを確保するとともに、マシンの軽量化を実現している。ちなみにフレーム単体の重量はわずか7.8kgという、自転車並みの軽さに仕上げてあるのには驚かされる。足まわりは、フロントに新開発のφ41mm正立フォーク(カートリッジタイプ)を採用し、リアにはφ40mmダンパー採用のプロリンクサスを装着。前後ともにイニシャルと伸び側減衰力調整機構が与えられるなど、申し分ない装備と仕上がりだ。ショーモデルに見るカラーリングは、イタリアンレッド、パールシャイニングイエロー、ミュートブラックの3バリエーションをラインナップ。いずれのカラーも実に良くマッチしており、ファイヤーストームの個性をより際立たせる要素としてのインパクトも十分だ。
VTR1000F Fire Storm 1996y
エンジン:水冷 4サイクルDOHC 4バルブV型 2気筒 総排気量:996cc ボア&ストローク:98.0×66.0mm 圧縮比:9.4 最高出力:110ps/9,000rpm 最大トルク:9.9kg-m/7,000rpm 始動方式:セル キャブレター:CVφ48mm 変速機: 6段(1:2.733 2:1.812 3:1.428 4:1.206 5:1.080 6:0.961 )全長:2,050 全幅:710 全高:1,155 地上高:135軸間距離:1,430 シート高:810mm 重量:192kg 燃料タンク容量:16 キャスター:24°50′トレール:97mm タイヤサイズ:(f)120/70-17 (r)180/55-17 輸出車