宙に浮いて輝く「それ」
「それ」は、向かいの家の 2階の屋根の、1メートルぐらい上空で、小刻みに震えていたのだという。
午後の 5時を過ぎ、あたりはすっかり暗くなっていたが、人の顔ぐらいの大きさの「それ」は、赤、青、黄色などさまざまな光を放ちながら、震えながら佇んでいたのだ。ミラーボールのようなものを思い浮かべたら、案外実際と近いのかもしれない。
夕方のまどろみの中、雨戸を閉める時間だと気づいた彼女は、窓辺に立って、「それ」を見つけた。
「わぁ、きれい……」
それが彼女の第一印象だったという。
最初は、飛行機かとも思ったというが、次の瞬間には「それ」のはるか向こう側、はるか彼方の空を、本物の飛行機が横切っていった。「それ」は、やはりすぐそばにあるのだ。
どれぐらい「それ」を眺めていただろう。未知の光におそれおののくというよりも、あまりの美しさに、時を忘れて見とれていたのだという。
気がつくと、浮かんでいた「それ」は少しづつ、沈むように降りてきて、向かいの家の屋根の中に吸い込まれていった。
「向かいの家に起こる何かの、前触れなのかしら……」
我に帰った彼女は、次にそう思った。次の日、彼女は向いの家を訪れることになっていたので、そこで……と想像を巡らせてしまうのは当然のこと。周章狼狽してもいいところだが、今のところは杞憂に終わっているという。
さて。
本年は、自分にとって、今までにない大きな変化の年になる予定である。
というか、やるべきことがたくさんある。多忙の年である。
それらについては、こちらでレポートなり、書き出していくなりしていこうと思う。
最後に。
本年も何とぞ宜しくお願い申しあげます。
…………。
そうだった。
「それ」は、先月、実家の母が見たのだという。
一体「それ」は何だったのか。何か意味を持っているのか。
それとも、母が見た幻影だったのか。
いまのところ、誰にもわかっていない。