小腸細菌増殖症候群(SIBO)とは?
「おならが出すぎる」「おならの匂いが臭い」
このような訴えで消化器科を受診される方は実は少なくありません。
この他、お腹の痛み以外にお腹が張る、お腹が良く鳴る、食べるとすぐにお腹がいっぱいになってしまうなどの症状で悩まされている方はいませんか?
もしかしたら、小腸細菌増殖症候群(Small Intestinal Bacterial Overgrowth syndrome:SIBO)の症状かもしれません。
「痛み」というのは人によって表現の仕方が異なるため、時に判断が難しいことがあります。
「痛みまでは行かないのだけど…お腹が張って苦しい、つらい」といった表現をされる方もいます。
若干部位は異なりますが、よく似たような症状が生じる機能性消化管疾患には、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)などがあります。
一般には過敏性腸症候群(IBS)が下部小腸、大腸といった下部消化管(肛門により近いという意味です)を中心とした症状であるのに対し、機能性ディスペプシア(FD)は胃や上部小腸といった上部消化管の症状とされています。
とは言え、ハッキリと上部、下部のどちらの消化管が原因なのかは分けるのは困難です。
鳩尾のあたりは胃だけではなく、小腸や大腸、膵臓、胆のう、大動脈といった痛みを起こす可能性のある臓器が密集しているため、体表からでは判断がなかなか難しいのが現状です。
触診など皮膚の上からでは大体の位置からこの辺りだろうとは当たりを付けることは可能ですが、小腸か大腸かはほとんど区別出来ません。
このため、主には症状から便通異常も伴っているなら下部症状、吐き気やげっぷ等が多いようなら上部症状と大まかに分けられています。
小腸細菌増殖症候群(SIBO)とは?
2016年度に改定となった過敏性腸症候群(IBS)の世界的な診断基準の一つ、ローマ基準Ⅳからは腹部不快感がなくなり、腹痛の訴えのみをIBSと診断することになりました。
その理由の一つにお腹の張りの原因が大腸ではなく、小腸の細菌叢の変化によるものであるという比較的新しい病気の概念が広がってきたことがあります。
それが、小腸細菌増殖症候群(SIBO:シーボ)です。
SIBOはとりわけ、上部消化管における細菌の数的な増加や構成菌の変化として特徴づけられています。
IBSの症状を有する方の20-80%がSIBOと診断されるという報告もあります[1]。
小腸細菌増殖症候群(SIBO)の主な症状
SIBOの主な症状としては腸管内ガスの過剰発生に伴う、腹部膨満(食後に悪化する)、下痢、腹痛などが主な症状として挙げられます。
この他、一部の方では細菌叢が変化することで、ビタミンなどを含む栄養素の吸収障害が生じることがあるとも言われています。
この他、2004年と少し古い報告ですが、腸内細菌の細胞壁に含まれる内毒素と呼ばれるものが免疫機能の活性化を引き起こし、炎症促進物質の産生、腹痛、下痢、さらにはインフルエンザ様の症状(倦怠感、不安、抑うつなど)を引き起こすことが報告されています[2]。
小腸細菌増殖症候群(SIBO)の原因
SIBOの原因は多岐にわたることが分かっています。
例えば、胃のピロリ菌感染に伴う萎縮性胃炎や プロトンポンプ阻害薬(PPI)の常用に伴う過剰な胃酸の抑制、免疫不全、小腸閉塞や憩室症、手術といった解剖学的変化に伴う細菌叢の変化、糖尿病性神経症、強皮症などにともなう腸管運動異常など、さまざまな要因が考えられています。
通常は様々な要因が重なって起こることが多く、原因を特定するのは困難とされています。
中でもとりわけ、上部消化管における細菌の増殖抑制機能が上手く働く無くなることで、異常な細菌増殖が起こると考えられています。
腸内の細菌が増えすぎると、糖や炭水化物、食物繊維などを発酵して炭酸ガス、水素ガス、メタンガスを大量に発生させることが分かっています[1]。
また消化を邪魔したり、代謝を妨げることでSIBOの症状に繋がっている可能性があるといわれています。
小腸細菌増殖症候群(SIBO)の診断
SIBOの診断には理屈的には空腸内容液の細菌学的検索が理想的です。
しかし、小腸内視鏡検査は侵襲性もあるため、実際は水素またはメタン呼気試験が用いられます。
これはラクツロースと呼ばれる糖を摂取後に、呼気に含まれる水素やメタンの量を測定する方法となります。
ヒトはラクツロースを分解することができないため、腸内の細菌に分解を頼っています。
健常者ではラクツロースが主に大腸にたどり着いてから、水素またはメタンが生成されるのに対し、SIBOでは小腸内で増殖した菌によってすでに水素とメタンが生成され、呼気中に放出されます。
この時間の違いから、SIBOの診断を行うのが比較的簡便な検査です。
ただし、確実性にはどうしても限界があるのと、この検査を行っている医療機関は限られているため、臨床的な判断が不可欠になります。
小腸細菌増殖症候群(SIBO)の治療
SIBOは細菌叢の異常増殖と乱れが原因とあるため、まずは抗菌薬で細菌増殖を抑え、プロバイオティクスとよばれる整腸剤などで整腸を促すといったことが一般的に行われています。
ただし、抗菌薬の過剰な投与は偽膜性腸炎や薬剤性腸炎の原因となる可能性もあり、注意が必要です。
また、腸管運動の異常などの場合は、その原因となる疾患の治療を行うことも大切となります。
なお理屈で考えれば、過敏性腸症候群(IBS)治療の一つである低FODMAP食も菌が水素やメタンといったガスを発生させる原因となるラクツロース(2糖類)を減らすという意味では効果的かもしれません。
現状では、過敏性腸症候群(IBS)とSIBOを正確に判断することは難しく、治療に関してもあいまいな点が多くあります。
このため、まずは過敏性腸症候群(IBS)の診断および治療に準じて生活や食事の調整、薬物療法などを行っても改善しない場合などにSIBOの可能性を考慮するのが良いかもしれません。
素材
写真 写真AC クリエイター:acworksさん
写真 写真AC クリエイター:acworksさん
引用文献
(1)Ford AC, et al : Small intestinal bacterial overgrowth in irritable bowel syndrome : systematic review and metaanalysis. Clin Gastroenterol Hepatol 7 : 1279―1286, 2009.
(2)Henry C. Lin, MD : Small Intestinal Bacterial Overgrowth A Framework for Understanding Irritable Bowel SyndromeJAMA. 2004;292:852-858. http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/292/7/852