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TRAINSIT

紅く燃える大地

2023.01.11 14:44

秋のカナダ東部きっての観光ルート”メープル街道”、この名称はどうも日本人が作り出したとかいったことも聞くが、実際この時期には夏のスイスと同じくすさまじい数の海外旅行ツアーが企画販売される。

そんな日本人憧れのカナダの紅葉。見渡す限りが紅に染まる中を走る列車を撮りたい。そんな構想を胸に抱きながらGWのアメリカ遠征を前にしたタイミングで向こう一年の航空券も探していたところで出てきたのはEVA航空9万円チケット。この頃台湾入域はおろかトランジットすら許されない状況にあってこのチケットを買うことには幾らかの博打要素もあったのだけれども、ダメならダメで不可抗力事由でどうにかなる公算と経験もあったので迷わず発券し、遠征本番を待つこととなった。

台湾の検疫事情は韓国・日本の後を追って遅ればせながらも夏前にはトランジットが解禁され、遂に10月には実態はともかくとして強制隔離0日+自主隔離7日といった形で入域規制が緩和されることとなった。今回の遠征はその入域規制緩和の数日前のこと。

相も変わらず残念なことにトランジット中の台北市内観光は出来ず空港内で8時間ほど暇潰しをすることになってはしまったが、免税店では数日後に押し寄せてくる多客に備えて準備が慌ただしく進められていた。

コロナ禍を象徴する光景でもあり、自分にとっては忌々しい光景でしかなかった閑散とした空港ターミナルを見ることも最後になるだろうと今回ばかりは大空港にあって信じられないほどに退屈な時間の流れる空間を記録しておくことにした。そんな空虚なターミナルの割には欧米ロングホールの機内は満員御礼。こんな時は寝不足に酒を呷って気絶するに限る。気が付けばトロントの夜景が眼下に広がっていた。現地時間深夜着。機内で爆睡した反動でまるで眠気がないが時折頑張って睡眠取りつつ早朝までターミナルで粘り、路線バスでトロント市内へ。まだ20度を超える暑い福岡とは打って変わって平気で一桁前半を記録するトロントの朝の気温。折角なので夜も明けきらぬうちから街を練り歩く。

そうしているうちにトロントシティ空港へたどり着き、再び空へ上がる。今回の目的地は北米五大湖 の田舎町サンダーベイ。トロントからは実に1000kmの距離にある。弾丸で来る場所ではないと断言できるがそれほどの僻地に行けば行くほどに現実離れした倒錯感が病みつきになる。当然ながら時間はないのでさっさと車を借り出しすぐさま3時間車を走らせ線路際へ向かう。人気のない場所、折にも感謝祭連休の只中にあって果たして列車が来るのか不安に駆られながら待つこと1,2時間、岬の先にカラフルなコンテナの列が見え昼寝に寝ぼけた頭も一発覚醒、今にも滑落しそうな砂利の斜面を凄まじい勢いでトラバースして立ち位置を確定して接近する列車を待った。

トロントも、トロントよりは近い紅葉の名所スーセントマリーも厚い雲の下にあったがここは何とビックリ見事な晴天。この場所に関して紅葉はさほど濃くもないが押さえておきたかったポイントで文句なしの晴れカットを得ることが出来て既に満足度は高い。が、ここで手を緩めるわけにもいかない。経験則が対向から来ると言っている。場所を変えると着いてすぐにディーゼルサウンドが大地に木霊するのを耳にする。なんだか曇ってはいるが仕方ない。それでも木々の色は美しく、その植生も相まってとてもカナダを感じさせてくれた。

この時すでに日の入りまで残された時間は1,2時間ほど。これ以上列車が来る可能性も少ないと判断し、街道沿いの雰囲気の良さげなダイナー&モーテルに飛び込んだ。テレビはブラウン管、草臥れて立て付けの緩くなっているドア、スプリングの緩くなって帰ってフワフワと寝心地の良いベッド。木材とヤニの香り漂う何もかもがえにも言われぬ空間がそこにあった。

普段であれば日の出から日の入り迄三脚を構え、日が暮れても移動に明け暮れる普段の遠征からはかけ離れた穏やかな夜。普段からこうありたいものである。

翌朝。明けぼらけに微睡んでいるとアメロコの警笛が聞こえた。航空自衛隊もかくやな超速スクランブル発進をぶちかまし、列車を追撃する。が、待てども暮らせど追い抜いたはずの列車が来ない。まさかと思えば案の定信号場で停車している様子。幸い車内からその様子が伺えるので毛布に包まりぬくぬくと二度寝をかましつつ列車の動きがあるのを待つ。

…とはいえこちらとて帰りのフライトを考えるとタイムリミットも近い。

列車の動き始めたのを確認して先行するも対向列車が通過するなどして目当ての列車は各所で停車を繰り返しているようで進みが遅い。空港へ引き返すリミットも近くなってきた頃、ようやく眼前を東行列車が通過。この時撮影地まで残り10kmほど。今度こそはまともに走って行ってくれることを願い追い抜きを仕掛け、この日のメインとなる撮影地へ到着。眼前に広がる絶景に感動している間もなく慌ただしくカメラを取り出し今回遠征最後の列車を迎えた。そこはまさかまさかの車内から撮れる超お手軽ポイントで最初からここでコーヒー飲みながら待っていればよかったのではと悔やまれるほどのロケーション。そして何よりもこの日も天候の安定しない晩秋初冬の時期にあって昨日に引き続きの晴天に恵まれる僥倖。僅か48時間にも満たないカナダ滞在時間にあってその成果は望みうるほぼ最大限のものを得ることが出来た。

カナダの田舎を立ち、およそ20時間後には出勤となる。トロント台北間のフライトはこれまでに経験した中でもトップクラスのロングフライト、その疲れは正直凄まじいものではあったが充実した遠征の充足感に助けられなんとか1日の仕事を消化。家に帰るなり泥のように眠りについたのであった。