尹美香詐欺横領事件に求刑 左派政権と慰安婦団体の癒着が焦点に
慰安婦団体トップに横領などで5年の求刑
韓国で「慰安婦問題」を一手に引き受け、いわばこの問題を「聖域化」して、誰にも批判も口出しもできないようにしたのが、「挺対協」(韓国挺身隊問題対策協議会)と「正義連」(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)という団体だが、その代表を長く務めてきた尹美香(ユン・ミヒャン)氏に対する裁判で、検察は懲役5年を求刑した。
虚偽の申請をして国からの補助金3億ウォン(3150万円)を不正に受給したほか、団体や個人の口座に総額42億ウォン(4億4000万円)もの寄付金を集めながら、元慰安婦のために使うのではなく私的な流用を繰り返すなどして、業務上横領や詐欺、背任など合わせて8つの罪で起訴されていたもので、起訴から2年4か月経ってようやく行われた第1審の論告求刑だった。
検察は尹被告について「長期間にわたり犯罪行為の種類が多いだけでなく、罪質も重く、団体の最高責任者、実務責任者として犯行を主導したにもかかわらず、罪の意識はなく、反省する姿を見せていない」と非難、「(元慰安婦の)おばあさんたちのために市民が少しずつ募金した資金を自分の小遣いのように使い、挺対協の資金をあたかも個人事業家のように使って横領した」と糾弾した(中央日報1月7日)。
文在寅政権の間に急増した慰安婦団体への補助金
ところで挺対協と正義連が朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年に受け取っていた国からの補助金は、教育省からの1600万ウォンに過ぎなかった。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権となった2017年からは、教育省のほか女性家族省から1億ウォン、ソウル市から3000万ウォンの総額1億5000万ウォンを受け取り、さらに2018年には女性家族省から前年の3倍の3億3000万ウォン、ソウル市から1億ウォンの計4億3000万ウォン、2019年には女性家族省からは前年の2倍の6億3900万ウォン、ソウル市からの1億808万ウォンの計7億4808万ウォンと急増し、文在寅政権の3年間で補助金は実に46倍に膨れ上がった(朝鮮日報2020年5月15日)。
この間に、挺対協と正義連が何か目立った活動を行ったのかといえば、2015年12月の「日韓慰安婦合意」に反対して、元慰安婦らに日本の見舞金は受け取ってはならないと圧力をかけ、文政権が合意を反古にして、日本からの10億円の基金で作った「和解・癒やし財団」を解散に追い込ませたくらいで、高齢化した元慰安婦が次々にこの世を去っても政府に救済策を求めるわけでもなかった。
左派政権で市民運動団体を補助金漬けに
実は、民間団体に支給される政府補助金の増額は、慰安婦支援団体だけに限られなかった。文在寅氏が大統領に就任してからの左派政権の5年間に、こうした民間団体に支給される政府補助金は毎年増額され、5年間で総額22兆4600億ウォン(約2兆3600億円)に達し、政府補助金が投入された事業件数は約30%増加したという。
さらに、全国の地方自治体が支出した補助金の規模も、政府補助金の3倍に達し、5年間で67兆ウォン(約6兆3700億円)にも上った。
とりわけソウル市の場合、市民運動出身の朴元淳(パク・ウォンスン)前市長時代の10年間は、市民運動団体に対する民間委託・民間補助事業が隆盛をきわめた。その多くが、朴氏が自ら創設した「参与連帯」という進歩系市民運動に所属する団体で、こうして補助金漬けにした市民団体をコアな支持者としてつなぎ止め、3期連続で市長選挙に勝利したともいわれる。
ソウル市の補助金事業は市民団体専用のATM?
市民団体と行政が「癒着」することで、補助金事業を市民団体の間に割り振るブローカーまで出現してその仲介料を搾取したり、補助金事業を監督し監査する委員会に市民団体の代表が入りこむことで、内部情報を入手し、巨額の補助金を得たりすることもあった。
慰安婦問題などフェミニスト運動を率いてきたはずの朴前市長が、女性秘書への度重なるセクハラを告発されて自殺したあと、後任の市長となった呉世勲(オ・セフン)氏は、市民団体による補助金事業について「公務員が直接行えば、できることを市民団体に任せて税金を浪費した」と前市政を糾弾し、「ソウル市の財政はまるで市民団体専用のATM(現金自動支払機)だ」とまで口にし、市民団体側の責任にも言及した。
朴元淳ソウル市政を含めて文在寅左派政権は、1980年代の民主化運動を経験したいわゆる「運動圏」と呼ばれる人たちが、閣僚や青瓦台スタッフの多くを占め、左派市民運動グループと馴れ合った政権でもあったのである。
補助金を受け取る側が支給額や支給先まで決定
国からの補助金を多く支給している官庁が、慰安婦支援団体とも関係が深い女性家族省だが、その女性家族省は2022年には2700余りの団体に計3900億ウォン(約400億円)の補助金を支給した。
しかし支援対象となった団体が、実際にどのように事業を遂行し、補助金をどのように使ったのかについての実施報告や会計報告について厳密な審査は行われず、補助金の管理と監査はいい加減だったと指摘される。
たとえば、尹美香氏と正義連の不正会計疑惑が持ち上がったあと、国会が女性家族省から委託を受けて正義連が行っている「慰安婦被害者の生活安定支援事業」の事業報告書の提出を求めたことがあったが、女性家族省は「業務遂行に支障を招く」という理由だけでこれを拒否したことがあった。
また、「慰安婦被害者」の世話する団体に支給される各種支援金の規模を決める審議委員会には尹美香氏をはじめ複数の挺対協関係者が含まれていた。つまり、おばあさんたちへの支援金の受け取りとそれを執行する立場にある挺対協幹部が自ら審議委員になって、どこにいくら配当するかを決めていたのである。
女性家族省と慰安婦団体の「共犯・庇護関係」
女性家族省は2001年、金大中政権のとき「女性省」として発足したが、これまで歴代14人いる長官(閣僚)のなかで、「挺対協」(韓国挺身隊問題対策協議会)出身者が2人、市民運動グループの「参与連帯」出身者が2人、女性運動団体出身者が4人など、慰安婦団体や女性市民運動と繋がりがある関係者が半数以上を占めている。
そして前述のとおり、女性家族省による挺対協と正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)への政府補助金の支出は、文在寅政権になった2017年に1億ウォン、2018年は3億3000万ウォン、2019年は6億3900万ウォンと倍々で増えていくのだが、これは韓国女性団体連合共同代表で「日韓慰安婦合意は国際協定でもなく無意味だ」と否定した鄭鉉栢(チョン・ヒョンベク)氏が長官に就任した以降のことであり、尹美香氏の不正が発覚したあとでも、女性家族省がしっかりとした会計監査をやろうともしなかったのは、挺対協とも関係が深い李貞玉(イ・ジョンオク)長官時代だった。
それはある意味、「共犯、あるいは庇護関係」(中央日報2020年6月12日)にあったとさえ言われる、
そして政権交代で保守派の大統領となった尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が公約に掲げたのが、女性家族省の廃止であり、民間団体や市民運動、労働団体に支払われる補助金についての適正な管理と厳正な審査だった。
「Colabo問題」と密接に絡む「慰安婦問題」
ところで、韓国で尹美香氏の事件が「慰安婦ビジネス」だと騒がれる一方で、日本ではいま、一部のネットユーザーが「JKビジネス」や「貧困ビジネス」だと揶揄して民間の支援団体による補助金の会計処理問題を批判し、訴訟合戦に発展する騒ぎとなっている。
去年9月ころからネット上を賑わしている、いわゆる「Colabo問題」のことだが、Colaboは、家出や夜の街を徘徊する少女らに声かけをし、必要なら食事や宿舎を提供する、いわゆるアウトリーチ支援事業を国と東京都からの委託を受けて行っている民間団体である。
こうした社会的弱者に対する必要な支援を行政に替わって実施する民間団体の事業と、その団体の代表を務める個人の政治信条は、本来は別個の問題として考えるべきだが、Colaboの仁藤夢乃代表は、しばしば韓国を訪れて元慰安婦の女性らと交流していることや、去年8月にもソウルで行われた正義連の水曜集会に参加し応援スピーチを行ったことなどを自身のSNSで報告し、「慰安婦問題」と現代日本の若い女性たちが遭遇する性被害や性搾取の問題は、同じ背景をもつ問題だと一貫して主張している。
たとえば2017年8月に東京文京区で開かれた「日本軍『慰安婦』メモリアル・デー」の集会に、尹美香氏とともにスピーカーとして登壇し、慰安婦問題とAV出演強要、JKビジネスの問題を並べて報告しているし、ネット上では「現代の日本でも『慰安婦』にされた女性たちと同じような手口で女性たちが性搾取されています。慰安婦問題に向き合い、被害者の尊厳の回復に努めることなくして、この社会で性搾取・性暴力被害をなくすことはできないでしょう」と発信している。
「慰安婦にされた女性たちと同じような手口」とは、具体的に何を指すのかよく分からないが、韓国の慰安婦団体が主張するように「日本軍は若い女性の背中に銃剣を突きつけて強制的に拉致・連行した」というようなことを指すのだとしたら、いかにも時代錯誤であり、そうしたありえない状況認識で家出や夜の街を徘徊する少女たちの心情に寄り添えるのかも疑問だし、元慰安婦の「尊厳の回復」もそれでできると本当に思っているのだろうか?
以前の記事でも触れたが、「慰安婦」という時代背景には、当時の農村の貧困問題があり、貧しい親たちが自分の娘を売って金に換えざるを得ない事情があった。また戦後半世紀近くもたって慰安婦問題が急浮上したのは、この問題を利用して日韓関係を分断しようとした親北朝鮮勢力の暗躍があったのである。
ところで、尹美香氏は今、国会議員を務めているが、一審判決で有罪になっても、国会議員としての残り1年4カ月の任期は全うするものと見られる。裁判は大法院(最高裁)まで行くのは間違いなく、判決確定はおそらく任期を終えてからになるからだ。尹美香氏の公判の行方を見守ることは、「慰安婦問題」の本質を押さえる一つの方法かもしれない。