ネガティブ・ケイパビリティ
こんにちは、
精神科医の諸藤えみりです。
「ネガティブ・ケイパビリティ」
の考え方をご存知ですか。
ネガティブ・ケイパビリティは
これからの生き方に
必要な考え方です。
なぜなら
この概念を知ることで、
すぐに解決できない状況でも
耐えられるようになるからです。
ネガティブ・ケイパビリティは
「どうにも答えの出ない、
どうにも対処しようのない事態に
耐える能力」
「性急に証明や理由を求めずに
不確実さや不思議さ、
懐疑の中にいることができる能力」
です。
この概念は、
19世紀のイギリスの詩人、
ジョン・キーツが提唱しました。
20世紀に入り、
精神科医の
ウィルフレッド・R・ビオンが
重要性を訴えます。
日本においては
2017年に精神科医の帚木蓬生の
『ネガティブ・ケイパビリティ
答えの出ない事態に耐える力』
(朝日選書)
で、名前が広がりました。
わたしがなぜこの概念を
知ったかというと、
上司が教えてくれたからです。
わたしの外来は
思春期の方も多いです。
このような方々は
一筋縄ではいかない。
彼らの悩みを
解決する方法を思いつかず、
提案すらできない。
わたしは話を聞くだけで
何もできない。
早急に
「何とかしてあげたい」
と考えていました。
何か手はないかと
上司に相談しました。
すると上司は、
「ネガティブ・ケイパビリティって
知ってる?
調べてごらん。」
との答え。
聞いたことがなかったわたしは
調べました。
そこで、
上記の帚木先生の本を読み、
ネガティブ・ケイパビリティの
概念を知ることになったのです。
帚木先生は、
福岡県で診療所を開設されています。
本文に、
帚木先生はこう記しています。
「診療をしていると、
解決法を見つけようにも
見つからない、
手のつけどころのない悩みが多い。
主治医の私としては
この宙ぶらりんの状態を
そのまま保持し、
間に合わせの解決で
帳尻を合わせず、
じっと耐えていくしかありません。
耐えるとき、
これこそが
ネガティブ・ケイパビリティだと
自分に言い聞かせます。
すると
耐える力が増すのです。」
わたしは撃沈。
「医師に求められるのは
すぐには治せないことを受け入れて
患者が歩む長い道のりに
連れ添うこと。」
上司が伝えたかったのは、
このことでした。
解決できない状況に付き合う。
この概念を知り、
わたしは目の前の方に
5年でも10年でも付き合おうと
決心しました。
自分の苦しみを
主治医(わたし)が聞いてくれる。
誰かが寄り添ってくれることで
外来に来てくださる方も
耐えられると思うのです。
反対の
「ポジティブ・ケイパビリティ」
という考え方もあります。
問題を
的確かつ迅速に対処すること。
学校教育や職業教育が追及し
目的としている能力です。
つまり
問題に対してすぐに答えを出す。
「分からない」
を
「分かる」
に置き換える能力です。
でも、
思い返してください。
わたしたちの人生や社会は
答えがなく、
どうしようもない問題が
多いです。
答えがあって
分かる問題ばかりではない。
だからこそ
ネガティブ・ケイパビリティを
念頭に置き、
耐える。
ただちに解決できない状況に
じっくり腰を据えてつき合うのも
一つの能力です。