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石川県人 心の旅 by 石田寛人

見たい歌舞伎演目

2023.01.24 15:00

 新年おめでとうございます。コロナにはしっかり対応して、今年をすばらしい年にすべく微力を尽くしたいと存じます。どうかよろしくお願い申し上げます。

 昨年の11月と12月、歌舞伎座で13代目市川團十郎白猿丈の襲名披露公演が行われた。それにちなんで、今回は歌舞伎の話をしたい。松の内の7日、日本経済新聞の「NIKKEIプラス1」に、「一度は見たい歌舞伎演目」のランキングが掲載された。選んだ専門家12人の中に、私の知人で子供歌舞伎を見るため小松にも来られたチェコのペトル・ホリー早稲田大学演劇博物館招聘研究員が加わっており、興味を惹かれた。

 そのランキングの一位は「義経千本桜(よしつね・せんぼんざくら)」。この作品は「仮名手本忠臣蔵(かなでほん・ちゅうしんぐら)」「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅ・てならいかがみ)」とともに、竹田出雲(初代と二代)、並木千柳及び三好松洛の合作で、これらは義太夫三大名作狂言とされている。源義経に敗れた平家の知盛、維盛、教経は実は生きており、二段目で知盛、三段目で維盛、四段目で教経が義経に絡み、さまざまな物語が展開する。外題に義経とはついているものの、主役は、二段目が知盛であるが、三段目がいがみの権太、四段目が狐忠信と、武将ではない人物にも焦点をあてている。筋に意外性があって人物描写が面白く、「通し狂言」より一幕上演が並ぶ「見取り狂言」が主流の現在、馴染みやすい芝居で、ホリーさんの初めて見た歌舞伎は「狐忠信」ということだ。

 二位は「仮名手本忠臣蔵」。ご存じ赤穂浪士の敵討ちの話で、芝居の独参湯(どくじんとう)とされ、これを出せば必ず大入りとなる超人気演目。いずれこの欄でも論じたい。

 三位は「勧進帳(かんじんちょう)」。本欄でも何度か触れており、石川県人として最も親しみ深い歌舞伎十八番の演目で、七代目市川團十郎が能「安宅」から歌舞伎化した。

 同率三位が「夏祭浪花鑑(なつまつり・なにわかがみ)」。大阪の夏の殺人事件がテーマで、並木千柳、三好松洛、二代目竹田出雲の合作。侠気と友情の持ち主である団七九郎兵衞が強欲で悪人の舅を手にかけざるをえなくなる過程が切ない。

 五位は本外題「青砥稿花紅彩画(あおとぞうし・はなのにしきえ)」別外題「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ・めおのしらなみ)」で河竹黙阿弥作。素人芝居でよく演じられる「白浪五人男」の稲瀬川勢揃の場面は、弁天小僧など5人の盗賊の七五調の名乗りが耳に快い。

 六位は「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」。歌舞伎十八番のうちで、市川家の重要な演目。主役の助六は、実は曾我五郎時致とされていて、去年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にもつながり、江戸っ子のしゃれっ気あふれる芝居である。

 七位は「東海道四谷怪談(とうかいどう・よつやかいだん)」で鶴屋南北作。おなじみの怪談劇でお岩さんは貞女。ホリーさんは東京四谷のお岩稲荷に足を運び、この狂言を深く研究している。

 八位は「暫(しばらく)」。歌舞伎十八番のうちで市川家の芝居。元禄歌舞伎の雰囲気を今に伝える祝祭性豊かな芝居で、「しばらく」と声を掛けて登場する鎌倉権五郎という怪力の士がピンチに陥った善人を助ける。

 九位は「連獅子(れんじし)」。能の「石橋(しゃっきょう)」からとった舞踊劇で、河竹黙阿弥作。金沢城内で上演されたことがあり、親獅子と子獅子が毛を振るのが見もの。「石橋」は宝生流では重い演目である。

 十位は「女殺油地獄(おんなごろし・あぶらのじごく)」。近松作の人形浄瑠璃劇。放蕩息子による油まみれの殺人劇で、明治以降歌舞伎で復活、何度も映画化ドラマ化されている。

 こうして十作品を通観すると、近松門左衛門、鶴屋南北、河竹黙阿弥と時代を画した大作者の芝居と市川家歌舞伎十八番と義太夫三大名作がバランスよく入っており、さらに上方物と舞踊劇もあって、私にまたこれらの舞台を見ようと誘っているように感じている。(2023年1月19日記)