桜色の白昼夢
少し前のことであるが、ふわふわ系美少女のAちゃんのところへ遊びに行った。もう散りかけた桜を眺めながら、パーティをしようとAちゃんのお母さまからお誘いいただいたのだ。私の美とセンスの師匠、お母さまからのメールの最後に「うんとおしゃれしてきてね」という一文があった。(AちゃんとAちゃんのお母さまは、2017年12/15、12/27、2018年1/4のブログでとうにお話した親子です)
お母さまは日本人離れしたセンスと容姿の持ち主で、隙のないおしゃれをすることで知られている。お母さまと親しくなってからは、得することばっかり。「いつもきちんとキレイにしていること」という心を教えられる。それだけじゃない「すがやかに老いていくこと」への気構えも教えられた。
“それなりの女”にも意地というものがある。私は顔に栄養クリームをなすりつけて、クローゼットをひっくり返して知恵を絞った。ハイネックのモダンなロングワンピースを着ていくことにした。袖と首元に寄せられたこまやかなギャザーがとってもエレガントで、どこに着ていっても誉められるものだ。
それにしてもこの家の素晴らしいこと。一面のガラス窓からは谷の緑しか見えないから、まるで避暑地の一軒家みたいだ。全部緑に面したコの字型の家で、中にワインセラー、プール、トレーニングルームがある。応接室は広々としていてグランドピアノが。ちょっとしたコンサートもできそうだ。お風呂場は総ヒノキづくりで温泉みたい。ここも窓から見えるのは緑だけである。
Aちゃんは乙女ごころをくすぐる桜色のワンピースを着ていた。ショルダーを飾るフリルがまるで花弁のようだ。
「私、もっとちゃんとお仕事したいの」とAちゃんはいつも言っているけど、いずれはお金持ちセレブの奥さんになるんだろうなあと思わせるコ。こういうコにピンクはよく似合う。甘めのピンクって、Aちゃんのためにあるようなものだ。
ホステスをつとめるお母さまは、このあいだ海外で買ったというシルエットがとても美しいジャケットを着ていたが、よく見ると桜の模様である。
それからナプキンはピンク、お皿は花の形、箸置きは花びらの形であった。お料理はガラスの細長い板の上に、まるでお花みたいに置かれていた。どれも白ワインに合うように工夫されている。
ガラスボウルには、春に咲き誇るピンクの花々が花びんのへりに沿ってラウンドするように活け込まれている。花の香りが静かにあたりに漂っていた。
テーブルの端には、これまた背の高いガラスのフラワーベースが。風を感じるたっぷりのグリーンが床にこぼれ落ちるように設えてある。フラワーベースいっぱいにはった水に、外からの光が差し込むと葉がシャンデリアのように煌めく。この美しい空間に身を置くと、たいていの女性は、心も洗われきっと気分もよくなるはずだ。
こういうセンスを持っている人って、たいてい美人でおしゃれ。いや、美人でおしゃれだからこういうことができるのだ。テーブルコーディネイト、それはセンスのある女性のたしなみという感じ。食器の造詣が深く、いっぱい持ってる。花の知識と、飾る技術を持っている。色のセンスがいい。背景となる素敵な家に住んでいるなどとさまざまな条件が必要となる。テーブルコーディネイトとは、まさしく女性の生き方の集大成といえるであろう。
やがてそこにいた一人の男性が、そば打ちの実演を始め、皆の拍手が起こった。そして頃合いを見て、お母さまのつくったかき揚げが運ばれる。海老と三つ葉を使った大ぶりのものであるが、揚げたてのそれのおいしかったことといったら、舌を巻くほどだ。鴨南ばんのおつゆも、クロウトはだしであった。あんな素敵にネイルした指から、どうしてこんなにおいしいものがつくれるんだろうと思うぐらいだ。
この宴がとても楽しく、ついついアルコールのグラスを重ねていった。お酒によって神経が弛緩した私はお料理をガツガツ食べ、それだけでやめておけばよかったものを、出てきたお鮨もたいらげた。そのお鮨ときたら、こんな家の中でどうして?と言いたいぐらいおいしかったのだ。トロなんて新鮮ですごくいいものを使っていた。私は自分の分をあっという間にたいらげ、別の人の席へもふらふら歩いていった。男の人が多かったので、みんなお酒ばかり飲んでいて、お鮨には手をつけていない。
私の物色している目つきがすごかったらしく「これ、持っていっていいよ」と、誰かがお鮨のお皿を差し出してくれた。もちろん食べる。そのうち誰かが持ってきたケーキが切られ、私にも大きいひと切れがきた。これも四口ぐらいで食べる。そして絵のように盛りつけられたチーズが運ばれたが、これもいただく。さらに、ナッツの皿を手から離さず、夜食のおにぎりも食べた。
ダイエット中なのに、こんなに飲み、食べていいのかしら、と思いつつ、仕方ないわとあきらめる私。「素敵な人と一緒のときは飲んで、食べる」というのは、私の人生の原則である。
まるで呼吸をするかのように食べている私の元へAちゃんが、かけ寄ってきた。
「ものすごくキレイな女性がいますよ」美形好きのAちゃんのセンサーに引っかったようだ。
中庭にいたその女性の横顔を見て、私は息が止まるほど驚いた。
Sさまではないか。シロウトさんではあり得ない美しい横顔、まさしく女優のSさんではないか。
この後、続きあります。