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【特集】脱炭素、SDGs実現に役立つ地中熱利用・NPO法人地中熱利用促進協会・笹田政克理事長に聞く(2023年1月)

2023.01.24 01:52

2050年脱炭素、持続可能な開発目標(SDGs)の実現などに向け、再生可能エネルギーへの関心が改めて高まってきています。とりわけ関心が高いのは再エネ発電ですが、地中熱など再生可能エネルギー熱利用も脱炭素化等に向けて大きな効果が期待できます。脱炭素化やSDGsの実現に向けて社会が動く中、地中熱が果たす役割や熱利用の拡大に向けてどのように取り組んでいくのかなどをNPO法人地中熱利用促進協会の笹田政克理事長に聞きました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆ヒートポンプを利用することで効率的に熱を使えるようになる地中熱…電力使用量を減らす高い効果◆

――脱炭素化やSDGsの実現に向かって社会が動き始めています。この中で地中熱が果たす役割をどのように考えていますか。

「脱炭素宣言から2年経ち、2050年に向けてわが国がどのように進もうとしているのか、その大筋が見えてきました。一昨年エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画の改定が一体的に行われ、2050 年のカーボンニュートラルと、2030 年の温室効果ガス排出削減目標46%、挑戦目標50%が明記され、これらの目標に向けての政策の大枠が示されました。

この基本的な政策の枠組みの中で、地域・くらしの分野を環境省が地球温暖化対策推進法を改正するとともに2050 年までの展望を示す地域脱炭素ロードマップ、2030年目標を示す脱炭素先行地域などの政策を、製造業などの産業分野を経済産業省が省エネ法を改正するとともに2050年までの展望を示すグリーン成長戦略、再生可能なクリーンエネルギーに転換し、経済社会システムや産業構造を変革させて成長につなげることを目指すグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針をそれぞれ示し、脱炭素に向けた取り組みを進めようとしています。2026年からは排出量取引市場が本格稼働し、2028年からは炭素賦課金が始まる予定です。そして今後10年間で150兆円を超えるGX投資が行われることにも注目していく必要があるでしょう。

日本における脱炭素に向けた考え方は、電化シナリオがベースにあり、太陽光発電など再生可能エネルギー発電(再エネ発電)に力点が置かれています。しかし、脱炭素化に至る過程を考えると、電力需給の問題で供給が不安定な点が懸念されますので、再エネ発電に頼るだけでなく、需要側の電力消費量を下げる視点がやはりとても重要であり、熱をうまく活用する必要があると考えています。

例えば、再生可能エネルギー熱である地中熱は、ヒートポンプを利用することで効率的に熱を使えるようになるものですが、電力使用量を減らす効果が高く電化シナリオの中でうまく活用できます。

電気と熱をうまく組み合わせることで、電気の比率を下げながら100%脱炭素は実現可能なシナリオだと考えており、関係各方面において熱の役割を今一度認識していただきたいと思っています」


◆協会が取り組むSDGs◆


――SDGsにおける地中熱の役割はどう考えますか。

「2015年に国連で採択されたSDGsは、持続可能な社会をつくるための17のゴールからなり、環境・社会・経済の諸問題が包括的に取り上げられ、社会を進めていくための基調となっていると言えます。一つの課題への取り組みが他の課題と絡み合うことから、多くのステークホルダーのパートナーシップを促進していくことが、持続可能な世界を創るための鍵となります。

内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームの会員でもある当協会では、17のゴールの中から協会が直接・間接的に関わっている7つのゴールを抽出し、それらのゴールを実現するため、国、自治体、企業、団体、市民とともに活動を進めていきたいと思っています。

地中熱はエネルギーであるので、直接的に関わる目標7『エネルギ-をみんなにそしてクリーンに』や目標13『気候変動に具体的な対策を』はもちろんですが、例えば目標3『すべての人に健康と福祉を』においても役割を果たせます。コロナ禍以降、換気がとても重要になっていますが、換気とエネルギーを絡めて考えていく必要があるのではないかと思っています。換気量が多い場合に外調機が使われますが、室内と温度差が大きい外気を取り入れることで空調エネルギーの負荷はどうしても大きくなってしまいます。この換気に伴うエネルギーの超過分を地中熱や地下水熱を使うことで、キャンセルできます。健康的で快適な生活を自然エネルギーで賄うことで持続可能性は高まりますので、こうした視点もとても大切になります。

7つの目標に対する協会の取り組み詳細は協会ホームページで『協会が取り組むSDGs』(http://www.geohpaj.org/archives/9318 )」として紹介していますので、ご覧いただければと思います」


◆2050年目標に向け、地中熱普及拡大中長期ロードマップ見直し◆

◆2月2日には『地中熱で育む脱炭素とSDGs』」をテーマに第3回全国地中熱フォーラム◆


――脱炭素化等に向けてどのような活動を行っていきますか。

「協会では17年に『地中熱の普及拡大 中長期ロードマップ』を作成しましたが、今年度は協会で新設した普及戦略本部でこのロードマップの見直し作業を始めています。そこでの議論では、地中熱の将来における目標値である年間利用量134万キロリットル原油換算(国による再エネ熱目標値の10%相当)、年間CO2削減量100万トンについては、きわめて高い目標であり、あるべき姿として変更する必要はないという意見が出されています。一方で、近年の導入量の伸びが鈍化している状況に目を向けると、戦略の見直しが必要であることは明らかです。カーボンニュートラルという2050年目標に向けた国の政策と、2030年目標の実現に向けた地域・くらしの分野での政策と、製造業などの産業分野での政策が見えてきた中で、これらの政策と関連付けて地中熱の普及拡大をはかるには、どのような活動が必要か今年検討を進め、2050年までのロードマップを作成したいと考えています。

普及啓発に関わる活動は、20年から続く新型コロナ感染症の終息が見通せない状況ではありますが、社会活動は着実にコロナ前に近づいています。協会活動はオンラインでの行事を取り入れながら、コロナ前の年間スケジュールに戻ってきており、今年も多数の行事を予定しています。

直近では2月2日に第3回全国地中熱フォーラム『地中熱で育む脱炭素とSDGs』」を東京ビッグサイトでENEX展と同時開催します(http://www.geohpaj.org/archives/10557 )。地中熱・再エネ熱セミナーも同日、展示ホールで開催の予定です。ENEX展には協会も共同ブースを設けており、会員企業が出展します。なお、次回第4回全国地中熱フォーラムは、23年度に佐賀市で開催されることが決まり、有明未利用熱利用促進研究会と共同で開催することとなりましたので、詳細が決まりましたら協会ホームページ等でお知らせしたいと思っています。

地中熱講座については昨年7月に基礎講座、11 月に施工管理講座を実施しましたが、設計講座に関しては、今年度はNEDO人材育成講座の事業として3 月に実施する予定です。開催形態についてはコロナの状況をみて判断しますが、23年度の地中熱講座は、今年度とほぼ同様のスケジュールになる見込みです。

その他、春の補助金説明会、オリエンテーション、秋の地中熱施工管理技術者資格試験も従来に近い時期での実施を予定しています。

また、近年、協会では地中熱だけでなく再エネ熱全体の普及拡大に向け、ソーラーシステム振興協会、日本木質バイオマスエネルギー協会とともに再エネ熱利用促進連絡会を立ち上げ、活動してきました。エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画等見直しの際にも再エネ熱利用促進連絡会を通じ、提言等を行ってきました。

2022年度から2年間の予定で実施されているNEDO再エネ熱人材育成講座も再エネ熱利用促進連絡会を通じて2団体に協力していただいており、昨年は11月に再エネ熱講座基礎編(申込者数70名、受講者数平均55名)、12月にシンポジウム『再エネ熱普及の取組とネットワーク』(申込者数240名、参加者数平均137名)をともにオンラインで実施しましたが、23年度は再エネ熱講座応用編と2回目のシンポジウムを実施する予定です」


◆各地域のコンサルタントや設計事務所等再エネ熱利用の有効性を認識していただきたい◆


――脱炭素に向けた動きの中で国が選定する脱炭素先行地域が注目されています。すでに2回選定が行われていますが、これまでの動向を踏まえ、地中熱利用を広げるためにはどのようなことが必要だと感じていますか。

「脱炭素先行地域の選定はこれまでに2回行われ、計46地域が選定され、このうち2地域で地中熱利用が盛り込まれています。第3回全国地中熱フォーラムでは、そのうちの1件である島根県邑南町に『脱炭素先行地域づくりに向けた地中熱利用の期待』をテーマに講演していただきます。

現在、第3回の公募が行われているところですが、これまでの選考結果等を踏まえ、地中熱はじめ再エネ熱利用を脱炭素先行地域で推進していくためには、計画を国に申請する地方自治体はもちろん、その地方自治体に具体的な取り組みを提案する各地域のコンサルタントや設計事務所等における再エネ熱利用の認知度を上げ、有効性を認識していただかなければならないと感じています。今後開催するNEDOの人材育成講座等においてコンサルタントや設計事業者にも声掛けし、アプローチしていきたいと考えています」


◆地方自治体には地域にどのようなエネがありどの様に使えるか知っていただき、中長期的な政策も実現してほしい◆

◆農業・水産業分野における脱炭素化でも地中熱等の更なる普及拡大を◆


――今後、脱炭素やSDGs実現に取り組む関係者にメッセージがあれば教えてください。

「日本はエネルギー資源が限られている国です。現在の国際情勢等をみると、厳しい状況が続くことが予測されます。今後ますます国産エネルギーの重要性が増していくでしょう。

再生可能エネルギーは地域に賦存するもので、地域ごとに特色があります。地方自治体には、地域にどういうエネルギーがあってどのように使えるのかを知って欲しいと思っています。

そして、中長期的な政策を作り、人が代わっても引き継がれていくような政策をぜひ実現していただきたいと思っています。

地域に賦存する再エネ熱利用は、SDGsの視点から考えて見ると、導入に至るプロセスにおいて地元企業が関わる仕事が多く、地域産業の活性化に繋がることも期待できます。

地域にある再エネの活用については、再エネ熱利用促進連絡会の3団体において相談に対応していますので、ぜひご相談いただければと思います。

また、再エネ熱利用はネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)など建物における取り組みがクローズアップされることが多いですが、農業や水産業においてもエネルギー消費量の削減等に大きな効果が期待できます。すでに、イチゴのハウス栽培やシイタケ栽培など温度管理が必要な農業分野で導入するケースが出てきていますが、今後拡大が期待されている陸上養殖などにおいても地中熱、地下水熱の利用が広がる余地があると思っています。陸上養殖では飼育用に地下水をくみ上げ水槽に供給していますが、その地下水を水資源としてだけではなく、熱資源としてカスケード利用することが可能です。農業・水産業分野における脱炭素化でも地中熱等の更なる普及拡大を図っていければと思っています」