トゥキディディスの罠を回避せよ。米中関係について。
少し前のことであるが、
2月の頭にケネディ・スクールの初代学長グレアム・アリソン教授が来日し、
講演をされたので行ってきた。
教授は「決定の本質―キューバ・ミサイル危機の分析」で知られる政治学者であり、
実務的にもレーガン政権下からオバマ政権まで歴代国防長官の顧問、
クリントン政権では国防次官補を務めた先生だ。
質問タイムが無かったのが悲しいが、直接お話ししてサインを貰いつつ、
キャンパスでまたお話ししましょう、と暖かいメールを頂いた。
本当、自分が研究助手をさせて頂いたヴォーゲル先生含め、こういうレジェンド的な先生と気軽に(?)話せるのはケネディ・スクールの醍醐味だと思う。
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昨年出版された”Destined For War(米中戦争前夜)”は、
「Thucydides’ Trap=トゥキディディスの罠」をテーマに米中関係について論じている。
紀元前5世紀の古代ギリシャにおいて、
急激に台頭する海洋都市国家であるアテネと、支配国家であった内陸思考国家スパルタ。
両国がいかに30年間に渡る戦争(ペロポネソス戦争)に陥ったのか。
アテネの歴史家であるトゥキディディスは、
「新興国家の台頭が支配国家に与えた恐怖」
が戦争を不可避したと分析した。
アリソン教授その現象を「トゥキディディスの罠」と名付け、
先生のチームが過去500年間に起こった覇権争いをめぐる16件の衝突について研究、
12件が戦争に至ったと結論づけた。
それらの研究結果を踏まえて、現状の覇権国たるアメリカと、台頭国たる中国は
どのようにトゥキディディスの罠を回避できるのか。
教授はそれを問う。
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中国の台頭は、言わずもがな、経済・軍事両面において著しい。
・ 35年前アメリカの経済規模(PPPベース)の10%だった中国経済は、
2017年に100%、このまま行けば2023年に150%、2040年には3倍になりうる。
・ 過去20年間の政府による人材投資で教育、科学、技術、イノベーションなども飛躍的に伸びた。
例えば、ロボット工学分野で2015年に特許出願件数1位であった中国の件数は2位の日本の2倍、中国の最高のスパコンの処理速度はアメリカの最高機種の5倍。
・ 軍事面でも30年前の8倍に成長した軍事力はアメリカに次ぐ第2位であり、アメリカに対しても多くの領域で優位を確立している。
それは、第二次世界大戦後のアメリカの台頭・覇権獲得と非常に似ているし、
規模的にはそれを凌駕するポテンシャルを秘めている。
強力な指導力を確立した習近平の「中国を再び偉大な国にする」という長期ビジョンの中、
アメリカにとってUncomfortableな事実をどう受け止めて、どう衝突を回避するのか。
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先生の本で、非常に興味深いと思ったのは:
・ リアルな衝突シナリオ。
南シナ海航行中の偶発事象、尖閣などを巡る同盟国日本の要請、北朝鮮問題、台湾独立問題、そして米中貿易問題などにおいて、些細なきっかけが如何に戦争に発展しうるか、それぞれの「戦争回避を目指しつつ、面目を保つ」という行動がどうエスカレートしうるか。
・ 回避のヒントとなる両国の価値観。
アリソン教授の指導員であったキッシンジャー的中国観、サミュエル・ハンチントンの言うところの文明の衝突(中国の儒教的文明と米国の西洋文明)、リー・クアンユーの見ていた中国観など、米国・中国の共通する価値観・相違する価値観、そしてそれぞれの問題解決方法(チェス的・イデオロギー・ルールとパワーvs囲碁的・孫子の兵法・相対的優位)。
・ 回避のために取りうるオプション。
イギリスがアメリカのモンロー主義を尊重したように、新旧逆転を認め、パワーバランス調整しある程度譲歩する?鄧小平の尖閣30年棚上げ論のように南シナ海での航行自由など部分的利害について譲歩する?チベットや台湾の独立を支持するなど、分断政策によって中国を弱体化させる?国内問題にまずフォーカスする、など。。
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個人的には、
習近平主席の強烈な指導力、そして国内への外資開放や自由貿易擁護など、
昨今の世界においても指導力を発揮する明確な姿勢、
それに対してアメリカのトランプ大統領の保護政策などを見るにつけ、
リアルな新旧逆転の足音を感じざるを得ない。
今の日本にとって日米同盟が基軸となることはNo Questionであるが、
世界のパワーシフトにおける日米同盟のあり方と日本の立ち位置は
改めて考える必要があるタイミングに来ているように思う。
応用歴史学者ニアール・ファーガソンは
競争・科学的な革命・財産権・現代医学・消費社会・労働倫理という6つのアイディアを
西洋型システム発展の要素としており、
中国が、その中で「安定した財産権」というキラーアプリ無しで
進歩を維持できるか疑問視している。
日本人たる自分は、
戦後明確な「ルール」として恩恵を受けた西洋のシステムと
ハンチントンの言うところの「儒教的文明」の両方の利点が理解できる稀有な立場だ。
中国の変化・・・進化が本当に興味深い。
〆