ロマン派の時代58-サムソンとデリラ
2023.01.26 11:19
1875年はビゼーの「カルメン」が初演された年だが、サン=サーンスも歌劇「サムソンとデリラ」を作っている。どちらも悪女(ファムファタル)が主人公で、メゾソプラノである。メゾは悪役が多いが主役はソプラノ、ここで晴れて?主役となった。フランス人は女性の低い声にエロい魅力を感じるらしい。
サムソンとデリラというテーマは聖書に出てくるが、西洋絵画ではしきりに描かれている。逞しい男とエロい女性との取り合わせは、画題として絶好だからだろう。この頃作曲家は、マドレーヌ寺院のオルガニストを辞めて、カトリックだが自由に作曲できるようになっていた。
フランスではロマン派オペラが盛んであり、先輩のグノーは「ファウスト」で神の救済を描き、聖書からは「シバの女王」を作っていた。オペラで名声を得たいサン=サーンスの野心に火をつけないわけがない。
ストーリーは正統派で聖書の通り。だがかえってデリラの誘惑のリアリティが難しい、ここであのワグナーの陶酔的な音楽が採用されている。しかし繊細な彼の音楽と結合して美しい輝きを放っている。名曲「あなたの言葉に私の心は開く」は極致ともいえ、サムソンのように「デリラ愛してる」と思わず言いたくなる。