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紺碧の採掘師2

第5章 01

2023.02.19 13:00

あくる日の朝。ジャスパーの採掘船本部の通路の一画で、南部が数人の管理達と話をしている。

南部、驚いて思わず「…私が説得…?」と声を上げる。

管理「前に言っただろう。黒船を3隻の方に引き戻す事が出来ればアンバーを牽制できると。その為に貴方に」

南部「しかしどうやってブルーとシトリンを…。説得する根拠が。」

管理「最近の黒船の状況を見ろ!採掘量が上がったり下がったり安定しない。黒船は5隻の中で最も重要な船なのに、こんな事では先が思い遣られる。ブルーとシトリンへの負担を減らす為にも黒船を正常に戻さねばならない!」

南部「…それは…。」

すると別の管理が南部に近寄り「頼むよ南部船長。貴方しかいないんだ。…十六夜先生から聞いたが、君は昔、製造師を目指していたそうじゃないか。」

南部、ギクッとして「え、ええまぁ若い頃は…。」

管理「今いる船長達の中で、最も人工種に対して理解があるのは君なんだ。だから何とか人工種達を上手く導いて欲しい。貴方なら出来る。…3隻で黒船に説得を!」

南部は表向き困惑の顔をしながら内心(…やっと、認められるチャンスが来た…!)と密かに喜びつつ「…では何とか最善を尽くしたいとは思いますが、ただ、今すぐには」

管理「すぐにやれとは言わん。時間がかかってもいい。機会を伺い、確実に、成し遂げて頂ければ。」

南部は神妙な顔で「はい。承知致しました。」

その言葉に管理達は満足気な顔で「では宜しく頼むよ。」と言うと、「黒船を説得出来たらレッドをイェソドに行かせてやってもいい。…期待しているからね。」と言いつつ南部から離れ、去って行く。

南部は、去る管理達を見送ってからちょっと溜息をつくと「…大役だな。頑張らねば。」と独り言を呟き、少し歩いて通路の窓際に来ると、腕組みして空を見上げて (さて、どうするか。人工種は人間の為の存在、黒船が管理の命令を聞くように、しっかり導いてやらねば…!)



その頃、本部の建物の入り口に、青い船長服を着た青年がスーツケースを引っ張りつつダラダラと気だるげな足取りでやって来る。

青年は欠伸をしつつ(時計を見間違って10分も早く出てきてしまった…。たかが10分されど10分、どーしたもんかいなー。コーヒー飲みつつ時間潰すかー。)

建物の中に入り廊下を歩くと右側に、ちょっと奥まった四角いスペースがあるのが見える。近づくとスペースの壁沿いに並んだ自販機が見えてきて、更に近づくと、その中央に背もたれの無いベンチが縦に三つ並べて置かれているのが見える。青年は真っ直ぐ歩いて自販機の前に立つと、缶コーヒーを買って手に取り、ベンチの方を振り向いた瞬間、三つ並んだベンチの三つ目のベンチの端に誰かが座っていたのに気づく。

青年と、『誰か』の目が合う。

青年(…黒い制服…肩章に4本線…って黒船船長やんけぇー!)とショックを受ける。

総司も(ブルーの武藤船長か…。嫌だな…。)

思わず暫し見つめ合ってしまう二人。

武藤(…に、逃げたいが逃げる訳にも。)と思いつつ、目を逸らして缶コーヒーの蓋を開けると、相手と対角になるように手前のベンチの端に腰掛けつつ、総司に「お、おはようさんです。」

総司「おはようございます。」

武藤(…この気まずい雰囲気よ。死ぬるわ!)

総司(…気まずいな。まぁいいけど。)

そのまま暫く沈黙の時間が流れる。

武藤は淡々と缶コーヒーを飲みつつ(…朝からこの緊張感。アンタせめてコーヒー飲むとかスマホ見るとか何かしろ…置き物みたいで怖えし!)

総司(まぁ管理と出くわすよりマシだな。…今日も事務所でネチネチ言われるのか…)と内心溜息をつく。

武藤(もぅとっととコーヒー飲み切って去る!…だが事務所に行っても採掘量がアカンと嫌味言われる。もう嫌じゃあ…。右から左に聞き流すの疲れた。はぁ…)と内心溜息をつく。

そこでふと気づく。

武藤(…ハッ!俺が事務所に黒船船長より遅く行くと、コイツが管理にネチネチ虐められてるシーンに出くわす可能性が!いかん!早急に行かねば!)と缶コーヒーをグビグビ飲む。

総司はボーッとあらぬ方向を見つつ(…しかし行かねば…。管理の言う事なんか聞き流せ…。少しの時間、耐えればいい。)

武藤は缶コーヒーを飲み終わる。(…よし。)

武藤と総司、同時に(…行くか…)と立ち上がって思わずお互いの目が合う。

武藤(…アンタも事務所に行くんかぁぁぁぁ!)

総司(…一緒かよ…。)

武藤、思わず「あ、あの。事務所?」

総司「ですよ。」

武藤「…アンタ…。」と言うと(…ええいもう言っちまえ!)と腹を括り、「言っとくが、アンタが管理に虐められてても俺は助けられんのじゃあ!助けると俺が管理に虐められる。何せウチの船は最下位キープの弱小船なんで管理に睨まれると消し飛んでしまうー!」

総司、やや唖然として目を丸くしつつ「…はぁ。」

武藤「恨むならアンタに黒船を押し付けて出て行った駿河を恨め!…戻って来い駿河ぁぁ!」

総司「…。」

武藤「ってな事で、頼むから俺を先に事務所に行かせて。」

総司「…はい。」

武藤は溜息ついて、自販機脇のゴミ箱に缶を捨てると「俺も説教されるんよ。採掘量ヘッポコすぎると。だけど頑張ってもどーにもこーにもならんし。もう船長交代してくれてもええ気がするが、とりあえずまだ船長にされてるからこのまま現状維持でいくわー。」と言うと、また溜息をついて「んじゃ先に行く。」と言い総司にプラプラと右手を振ると、スーツケースを引っ張って事務所の方へと歩いて行く。

総司、(…正直なだけ、いい…。)と思いつつ武藤の背中を見送るが、突然、武藤が立ち止まった。

総司(?)

武藤はクルリと踵を返して総司の方を向くと「…とか思ったがぁ…!」

総司「…?」

武藤「アンタと一緒に事務所に行ったらどんな展開になるんじゃあ!」と言いつつ総司の方へ戻って来る。

総司「さ、さぁ?」

武藤は総司の前に来て立ち止まると、はぁと溜息ついて「2人して雁首揃えて出頭するかぁ…。」

総司、何とも言えない苦笑を浮かべつつ「…はぁ。」(…この人ホント面白い人だな…。)

武藤、また溜息をついて「んだば行ぐべが…。あ。訛ってしまった。行こう。」と再び事務所の方へ歩き出す。

総司、必死に笑いを堪えつつ「はい。」と答えて自分のスーツケースを引っ張って歩き始める。

武藤「笑うな。俺、辺境出身だから訛りあるんだけど、訛るとウチの採掘監督の満さんにしばかれる…。」

総司、武藤と一緒に歩きつつ(…ブルーって意外に面白い船かもしれん…。)


二人が一緒に事務所に入ると、挨拶するヒマもなく戸口近くに居た管理が近寄って来て「武藤船長!最近よく頑張ってくれてるねぇ。」

武藤、驚いて思わず「はい?」と素っ頓狂な声を上げる。

管理「シトリンやレッドよりは落ちるが君の努力は良く分かっている。…ああ総司船長、いたのか。」と総司の方を見ると「武藤船長は、君より先輩だからね。彼に色々教わるといい。」

武藤と総司、同時に唖然とした表情になる。

武藤(…なんという分かり易いイジメ…)

管理「武藤船長、頑張っては欲しいがあんまり無理するんじゃないぞ。ブルーの力量は分かっている。しかし君には船長を続けて欲しいんだ。」と言うと総司に「ああ、君はもう行っていいよ。」

総司「…では。」と言い管理の横を通って受付へ行きつつ(おぉ…解放されるとは!)

武藤(なにいぃ!俺が居残りかーい!)

総司(武藤船長ありがとう、助かった!お蔭で今日は遅刻しなくて済む。)

管理、総司に聞こえるように「やはりねぇ、人工種の船長よりは人間の船長の方がいいんだよ。武藤船長、何か困った事があったら言ってくれよ。我々はブルーを応援しているからね。」

総司と武藤、内心辟易して同時に(…うっぜぇわ…。)



暫く後。

駐機場で待機しているブルーの船内ではメンバー達が物凄いスピードでキビキビと朝の清掃作業を行っている。

アッシュは階段の雑巾がけをしながら上階に居る進一に「手すりはまだか進一!」

進一「アッシュ殿、今、参る!」と言うと手すりをガーッと拭き始める。

アッシュ「我らの気合で監督のテンションを復活させるのだ!」と叫びつつ階下に置いたバケツに雑巾を放り込み、ガッツリ絞って次の階段を拭き始める。

進一「何とか満監督のテンションを上げねば!」

アッシュ「船内が暗黒に飲み込まれてしまう!終末が来る!」

すると必死に階段を拭くアッシュの背後から「お前達、黙って清掃できんのか。」

ふと振り向くと満が立っている。

アッシュ&進一「監督!」

そんな二人に目もくれず、満は淡々と階段を上がっていく。

アッシュ(…怒鳴ってくれない…。)

進一(…静かに行ってしまわれた…。)

満が上まで行ったのを見届けてから、進一が「神速清掃ではテンションは上がらぬか…。」と呟く

アッシュも溜息ついて「…今となっては監督が怒鳴りまくっていた昔が懐かしい…。あれは実にスリリングなコンテンツだった…。」

進一「我々は戦士だった。監督という敵と戦いながら、それでも自らの信念に従って、自由時間にゲームをするのが…。」

アッシュ「監督が怒鳴ってくれなければ我々の生き甲斐も。」

そこへ階下から「おはよう。」と声が。

アッシュと進一、声の方向に振り向いて「船長、おはようございます。」

アッシュ、武藤に「あ、荷物運びます?」

武藤「ええよ別に。そんな重くもないし。…少ししたら朝礼するから。」と言うとスーツケースを持ちつつ階段を上がっていく。


数分後、採掘準備室ではメンバー全員がキチンと一列に並び、それと相対するように満と武藤が全員の前に立って朝礼をしている。

武藤「今朝は事務所で珍妙な事件があって。…管理様に褒められたのか貶されたのか励まされたのか小言言われたのかワカラン。」

アッシュ「なかなか深い事が。」

武藤「めんどくさいから聞き流した。」と言うと満を見て「監督、何かありますか。」

満「…いつも通りだ。」

武藤「では礼一君、たーんち!」と礼一を指差す。

礼一「んー…」と探知しつつ悩んで「問題は、レッドとシトリンがどこに来るかだけど…、とりあえず3時方面にレッツです!」

武藤「聞いたか副長、八剣君!」

八剣「ハッ!」と敬礼する。

武藤「出航だ!急がねば他船に3時のおやつを取られる!」と言いつつ階段室の方に走っていく。

八剣「おやつ…。」