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超人ザオタル(96)無価値の価値

2023.01.31 11:25

二人の間が熱気を帯びてきた。

「善悪を超えているのですね。

それを知ることは人として正しいことなのでしょうか」

シュマは一言も聞き逃すまいと前のめりになった。


「正しいかどうかという表現が適切かどうか分かりません。

私はただそれを知りたいという衝動が起こったのです」

「なるほど。寺院では善なる者であれ、正しい者であれと教えています。

それとはどうも違うようですね。

自分が存在だと知ることはどれほどの価値があるのでしょうか」


「それはこの世界にとっては何の価値もありません。

それには価値がない必要があるのです。

価値が生じてしまえば、存在に偏りが起こります。


存在には偏りがないという本性があります。

つまり、価値が生じて偏ってしまえば、それは存在ではなくなります。

ですから、存在はその本性のままの無価値である必要があり、

それを自分とするなら、世界において価値はないということになります」


「なるほど、その通りですね。

しかし、ザオタルさまはそれで納得したのでしょうか。

道を行くことは過酷を極めると聞いております。

その結果が価値のない者になるのであれば、

落胆しても不思議ではないと思いますが」


「落胆ですか。確かにそうかも知れません」

そう言って私は笑いかけたが、シュマの真剣な表情にそれを抑えた。

「確かに、そう考えるのはもっともなことです。

ただ、無価値であることの凄さというものもあるのです。


無価値であるから、すべてになることができる。

無価値であるから、そこから価値を生み出すこともできる。

つまり、どんな価値であれ、無価値を超えることはできないということです」


「そうか、そういう考えもあるのですね。なるほど。

ザオタルさまは草原で自分は存在だと理解する体験をされた。

そして、そのことはこの世界では無価値であり、

そうであっても、存在は無価値の凄さがあるということですね」

シュマはそう言って何度もうなずいた。


「その体験という言葉ですが、正確に言うとこれは体験ではないのです。

体験というと、そこに一時的な、過去に起こったことのように聞こえてしまします。

存在は一時的でも過去に起こったことでもありません。

それはずっと起こり続けていて、今もそうなのです」