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日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第三章 月夜の足跡 13

2023.02.04 22:00

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第三章 月夜の足跡 13

「古代京都環境研究会に天皇が来るらしい」

「ほう、徐や吉川の学会が役に立ったじゃないか」

 六本木飯倉片町の奉天苑には、久しぶりに陳文敏と大沢三郎、そして松原隆志が集まっていた。その席に青木優子も同席させられていたが、半年前にはいた岩田智也は外されていた。

 この間に岩田智也は、大沢三郎に反発するようになっていた。「大沢チルドレン」というようなことを言われる関係であっても、さすがに日本を壊すというような考え方には納得できないということではなかったか。国会の中や政党の中でことごとく大沢三郎に反発する岩田に対して、大沢は鼻で笑いながら適当に相手にしないようにしていた。しかし、徐々に溝が大きく開き、大沢は岩田を疎ましく思うようになっていたのではないか。

 一方、青木は菊池綾子や太田寅正との関係は全く言わず、それも、菊池綾子の店に行っているだけのような感覚で、そのまますました顔で奉天苑の個室の椅子に座っていた。内心は大沢三郎の天皇を暗殺するというような事は全く同意していない。しかし、菊池綾子からは表で反発しても何もならないということを言われている。初めのうちは、菊池綾子にいうことに半信半疑であったが、しかし、岩田智也がそのように行動していることを見れば、確かに菊池の方が正しいことがよくわかる。青木にしてみれば、自分たちよりも、今まで「政敵」と思っていた菊池綾子などの方が、大沢三郎の事をよくわかっているということが、なんとなくわかるような内容なのである。

「相変わらずいい女だな」

 ビールを飲んで吸い込んだ煙草の煙を優子の方に吐き出しながら、松原隆志は、まるでヒルが吸いつくようないやらしい目で、青木優子の前進を見回した。あの時、佐原歩美の店で強引に押し倒されてから、そのような関係はない。ある意味で意識して松原を避けていたし、また、大沢三郎に対して、さすがにそのことは文句を言った。大沢三郎からは「大事を成すには、そのようなことは仕方がない」などと言って相手にされなかったが、しかし、さすがに大沢も、厳しく言うことはなかった。もしかしたら、岩田智也が反発していることの原因も、自分の体にあるのかもしれないし、また、そのことから青木優子自身の問題に関しては大沢は目をつぶっているのかもしれない。

 それにしても左翼暴力集団というか、少なくとも「法に従う」ということを全く考えない人々に関しては、そのような性的な事も全くモラルがない。いや、モラルがない自分に寄っているのかもしれないというような感じで、何か、社会的な常識や社会的な規範を守らないことが自分のアイデンティであるかのような感じが、青木優子にはどうしてもいやであった。いや、それだけではなく、そもそもこの松原という、ヤニ臭い男が青木優子には嫌いであった。生理的に嫌いというか、近くにいるというだけで気分が悪くなり、松原の視線がある場所に虫唾が走る感覚がしていた。

「松原さん、女はすべて終わった後です」

「ああ、そうだったな」

 松原は、陳に言われれば仕方がないというような感覚で、席を元に戻した。

「いや、松原さんのやった九州の爆破が聞いたらしい。九州の福岡か京都かで、場所に候補があったようだが、今回は京都にするということだ。野党の立憲新生党も、中国と共同開催をするということであれば、特に反対はしないということで落ち着いている。阿川首相もその方向のようだ。」

「さすがは大沢さんですね。うまくまとめました。これで、天皇は京都に来る」

「その前に、奈良県で国体があるらしいぞ」

 松原は、クラゲの酢のものを手づかみで食べながら言った。

「国体は、何もしかけないようにしましょう。松原さん。九州の時のようにまた警戒されても困ります。」

「ああ、そうだな」

 松原は、不機嫌そうに言った。

「どちらの方がやりやすい」

「狙撃ならば、国体の方がやりやすい。しかし、爆弾などは仕掛けられないから確実性はない。京都はこれからブースなどを作るから、爆弾も何も作りやすい。吉川に作らせればよい」

 松原は、暗殺の話になれば、やはりそちらの方になる。今回は天皇という大物だ。その暗殺となれば、歴史に名前も残るし、また、自分の思想が実現になる。

「出はやはり京都だな」

「はい、京都で。吉川にしっかりと作らせればよい」

「今回はどうするのだ」

「建物を展示するブースと、説明やイベントのブース。そして、舞台。この内容を木津川に作るという。木津川会場と京都市内の内容をうまく繋ぐようにするらしい。その古い建物の中の最も目玉が京都御所ということだ」

 大沢も飲み物を飲みながら言った。

「御所でやるのか」

 松原は目を輝かせた。天皇を殺すばかりだけではなく、御所も破壊できるとなれば、それは楽しい。困難な内容は、彼らのような過激派からすれば、逆に燃えるらしい。

「まさか、御所に爆弾を仕掛けるくらいならば、国体でやった方がいいだろう」

「そうだな。その方が確実だ」

「うまく工作して、天皇を木津川の会場に入れる。」

「中国の要人がいれば天皇もそちらに来るでしょう」

 陳文敏は、そのように言った。

「そんなことをしたらその中国人も爆発に巻き込まれます」

 大沢は心配そうに言った。

「そんなに大きいのを仕掛けるのか」

 松原が声を上げた。天皇だけをやるつもりであったようだ。松原が狙撃を主張しても、陳がそれに同意しないのは、まさに大きな内容を望んでいるようだ。

「いやいや、松原さん。中国の国内もいろいろありましてね。反主流派の人を今回は招くつもりなのですよ」

「一緒にやれということですか」

「大沢さんはさすがですね。それならば天皇が狙われたのか、あるいは中国の要人が狙われて天皇が巻き込まれたのかよくわからない。今の阿川政権が野党に攻撃され、警備卯上の問題の責任を問われることになります。そのような政治の問題から、犯人探しも時間がかかるようになりますから、松原さんが逃げる時間も多くなります」

 青山優子は、さすがに驚きの表情をした。まさか天皇の暗殺というだけではなく、中国の反主流の要人も暗殺しようとしている。逆に言えば、今回、この二人にとっての厄介者をすべて松原に始末させようとしているのである。そのうえ、阿川首相にそのすべての責任をかぶせようとしているのだ。まあ、よくここまで悪いことを考えるものだ。

 青山優子は、そのような状況を悟られないように、慌てて目の前のウーロン茶のグラスを口い運んだ。

「何か動揺しているのかね。お嬢さん」

 松原は、またヒルが吸いつくような目で青山優子を見た。

「いえ、なにも。いや、まさか中国の人まで」

「そんなことは普通の事ですよ。日本の政治家はこのようなことで驚いていては困ったものです。まあ、そのようなかわいい純粋なところが、松原さんのお好みに有っているのでしょうが」

 陳文敏は、やはりいやらしい顔で笑った。

「事が済んだら、またこの女とやらせてくれるんだろ。大沢さん」

「ああ、もちろんですよ」

 青山優子は自分の体の事なのに、まるで大沢の所有物のように自分の身体とプライドが目の前で取引されているのが信じられなかった。

「なら、少し大きめにやるか」

「しかし、爆弾だけでは確実性がないでしょう」

「狙撃と爆弾。そして数人で襲撃する。それが今回のやり方でしょう」

「ほう」

「爆弾は我々が、狙撃は大友佳彦、そして襲撃は京都の北朝鮮のものが。」

「そこにいる者はすべて殺してしまってかまわないということになりそうだな」

 大沢は、人間ではないような笑顔を作った。