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タイ映画「スピード&ラブ / FAST & FEEL LOVE」(2022年)Netflix キャストとあらすじ

2023.02.04 12:19

おすすめ度:★★★☆☆ 自分の限界を超えて進んでいく映画


NetflixでGDHのタイ映画「スピード&ラブ / FAST & FEEL LOVE」(2022年)を観ました!プラスチックカップ12個をものすごいスピードで積み上げて崩す競技「スポーツ・スタッキング」にすべてを捧げる男カオのストーリー。オンラインで開催される世界大会で、カオは世界記録を更新し、1位になって賞金を手にすることができるのか。頂点を目指すカオと恋人ジェイ、お母さん、家政婦さん、競技会のスタッフ、子どもたち、みんなの愛を感じる物語。


知られざるスポーツ・スタッキングの世界

プラスチックカップを重ねて崩すパフォーマンスはテレビやYouTube動画で見たことはありましたが、まさかそれがスポーツ競技として世界中で選手権まで行われていたとは!Eスポーツの世界もそうですが、世界は変化し続けているんですね。しかも、映画で描かれている競技の仕方は、自分の記録を動画に撮影し、それをサイトにアップロードして速さを競い合うというもの。実際の競技がこれと同じかは定かではないですが、「位置について、ヨーイドン!」ではない競技の世界っておもしろい!


キラリと光る才能こそ個性

主人公のカオは、成績はあまり冴えない高校時代を過ごしていた。それでも、その頃からスポーツ・スタッキングだけは誰よりも得意な少年だった。数学や英語のテストの点数だけが、生徒の能力を評価する指標ではない。学問が得意な子もいれば、運動能力に長けた子もいるし、授業ではあまりパッとしない子でも、学校を離れればキラリと光る何かを持っているかもしれない。


誰が何を好きなのか、それがどんなことだったとしても、夢中になれるほど好きで、一生懸命努力して上を目指せるものであれば、それはその子の素晴らしい才能。それが個性であり人生。それを伸ばしてあげられる社会こそ、誰もが輝ける世界を作れる。そんな当たり前のことに気づかせてくれる作品です。


カオとジェイ

この映画は、スピード・スタッキング世界大会チャンピオンのカオがいかにして世界の頂点に立ったかという「スポ根ドラマ」かといえば、実は全くそうではありません。むしろ、そのために犠牲にしてきた私生活や人間関係にフォーカスが当たった内容になっていて、一番大きいのが高校時代に出会ったジェイの存在。


放課後にひとりスポーツ・スタッキングをするカオに話しかけたジェイは、「西洋人」と呼ばれながらも夢中でカップを積んでは崩すカオを好きになり、付き合うように。大人になり、会計士になったジェイは、カオと同棲して生活のあらゆる面でのサポートをしながら、カオの世界への挑戦の夢を支えていた。


そんなカオ役は「I Told Sunset About You / 僕の愛を君の心で訳して」(2021年)と続編「I Promised You The Moon / 僕の愛を君の心で訳して」(2022年)で、主人公テーの兄フン役を演じたナット・キチャリット(Nat Kitcharit)。フン兄さんの演技が脇役だったにもかかわらずめちゃくちゃ光っていたのが、この映画を見て納得。普通に主役級の俳優さんですね。


カオの恋人ジェイ役は「BROTHER OF THE YEAR / ブラザー・オブ・ザ・イヤー」(2018年)でダメな兄チャットの優秀な妹ジェーン役を演じたヤヤ・ウッラサヤー・セパーバン(Yaya-Urassaya Sperbund)。ちなみにヤヤはタイとノルウェーのハーフ。ハーフの俳優さんが活躍しているタイでも大人気の女優さん。


新しい家

カオは世界記録に挑戦してくる子どもたちを相手に、さらに高みを目指して練習に集中する毎日。結婚前のジェイと共同で新しい家も購入し、静かな環境で一心不乱にスポーツ・スタッキングの練習をしていた。その新しい家に、子どもを持って温かい家庭を築く夢を抱いていたジェイに、「子どもはいらないんだから」と何気なく口にしたカオ。そこから2人の感覚は少しずつずれていく…。


ジェイの気持ちに気付かぬままカオは、新しい家の子ども部屋でスポーツ・スタッキングの練習を続ける。家事の一切を引き受けていたジェイは、子どもを持つには無限に時間があるわけではないことを意識し、ある日、2人で買った新しい家を出てしまう…。


目標を持ち、夢を追いかけることはとても素敵なことだし、好きな人がそうするのであればそばで応援したいと思うのは当然のこと。でも、10年の歳月とともに、ジェイの人生観は少しずつより堅実で大人なものになっていた。


一方のカオは、高校時代、教室で出会ったあの日のまま、今も子どもたちを相手にスポーツ・スタッキングのことで頭がいっぱいだった。しかも、そんな自分がスポーツ・スタッキング以外に何もでいない大人になっていたことに気づいていなかった…。練習に集中したいカオを煩わせる日々のあれこれ。ポンプの故障、掃除に洗濯、電気代の支払い…そう、大人にはやることがたくさんある!


スーパー家政婦メタル

とってもおもしろいのが、この映画を通して、絶妙なテンポのユーモアが最初から最後まで出てきます!なかでも最高におかしいのが、ジェイの家出後に家政婦としてカオが雇ったメタル!とっても優秀で何でもできるスーパー家政婦で、食事はジェイよりおいしいとも…。以前はジェイがやってくれていたことをメタルが全部やってくれるので、カオはジェイがいなくてもメタルがいれば問題ないとも思ってしまう…。


ところで、映画で「家政婦」といえば有名なのが韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。この映画のパロディで、メタルのすすめで韓国人の運転手と英語の家庭教師も登場します!


家を売って、また買う

ジェイは家政婦じゃない。カオがそのことに気づいた時にはすでに遅かった。ケンカの末、2人は一緒に買った新しい家を売りに出すことに。そして買い手もついた。でもカオは2人の家をどうしても手放すことができなかった。この気持ちが、「ミリ秒」の世界のその先へ、カオを導いた。ずっと超えられずにいた自分の限界を超えることができた。なぜなら、賞金を得て、売りに出した家を買い戻したかったから。メタルもお母さんも、競技会のスタッフも、子どもたちもみんな力を貸してくれた。


家を買い戻せば、またジェイとの暮らしを取り戻せる。カオはそう思っていた。カオの世界チャンピオンをジェイは心から喜んでくれた。でもそれは、「また昔のように元に戻れる」というのとは少し違っていた…。思いがけない結末になんだか切ない気持ちに。それでも2人の別れは前向きだった。なんだか不思議。役場で家の所有権を書き換えて、それぞれの車で左右別方向へとハンドルを切るカオとジェイ。カオは優勝者に与えられる3年間のアメリカツアーへと旅立ち、ジェイは家庭を持つ人生へと歩みを進める。


カオとジェイ、どちらの選択が正解でどちらが間違いもない。そもそも答えなんてない。時間とともにただ続いていく、それが人生。


OSTに日本の歌

ちなみにですが、この映画のOSTで流れる曲の中に、なんと子どもの頃、音楽の授業で習った唱歌「朧月夜」(おぼろづきよ)と、ドラマ「ルーキーズ」の主題歌だったGreeeenの「キセキ」が!聞き間違いかと思いましたが、たぶん間違いないと思います。アコーディオンバージョンで、哀愁あるシーンをいい感じに演出しています。タイ映画に日本の歌が出てくるなんて、すごいうれしい!