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リンネとリンネ草

2018.04.27 11:03

頼りげない細い茎とピンクの2輪の花が1対で咲く植物リンネ草。

北欧のヴィンテージ陶器が好きな方はこの植物がデザインされた陶板や食器を1度は見たことがあるのではないでしょうか。リンネ草はスウェーデン人に親しまれ愛されている植物です。


リンネ草の学名Linnaea borealisはスウェーデンの植物学者であり分類学者のカール・フォン・リンネにちなんで名付けられ、リンネを指すLinnaeaはオランダ人の植物学者が、この花に出会い感銘を受けた地域ラップランドを示すborealis(北方の)をリンネが命名しています。

リンネが生きた1700年代のスウェーデンは大国ロシアとの戦争後で財政が疲弊、それに伴う派閥争いで王権が衰退、貴族によって議会が取り仕切られます。比較的平和だったとはいえ、懐古主義や郷土愛や祖国愛という名のもとに遺跡などの遺産や荘園、農家の慎ましい暮らしがもてはやされる結局は支配階級優位の時代でした。

当時出版される地域誌もそれを助長する内容で構成する事が重要視されたようですが、リンネが書いた地域誌はアゲルこともサゲルこともされず、ただ淡々と主観をあまり含まず(◎◎地方の民俗衣装のベルトは赤い。素材は麻・・・など)記録しました。

国の経済的発展を謳いながら特権階級だけが優遇される矛盾した世間のあり方に疑問を持ったリンネは、そこにある事柄が広く人々に共通して知れ渡ることで、真の地の利を知る。それこそが重要と考えていたようで、後に提唱した植物の分類を体系付けるための二命名法(学名を属名と種名で表すこと)であれば、なるほど同じ植物を同じ知識で広く共有できます。

ときにリンネは植物を体系づけるにあたり植物のオスとメス、受粉、結実を事細かに図解(植物と人間を一緒の仲間にするなと知識層や聖職者の批判を受ける)、さらにはスウェーデン語に翻訳(通常はラテン語で記され知識層だけが読む)し、女性も当然知るべき(知識層は大体男性)とも提唱しました。

「牧師は聖書の言葉で自説を証明しようとする」そう言ったリンネは、真実を好み、知識の平等を望み、探究心にあふれる人だったようです。

38歳の時に出版し一大ブームとなった「スウェーデン植物誌」には自身が現地に訪れ記録したスウェーデン国内に存在する植物がラテン語と共にスウェーデン語で地方名や分布、薬効、有用性が書かれました。そして収められた1千種以上の植物のうち、植物画が添えられたのはリンネ草ただ1つ。彼の名と共にこの花の名が広く知れ渡ったのは言うまでもありません。

ラップランドでリンネ草に初めて会った彼は「花の時期は短く、低く育ち、目立たず、見過ごされがち」と記し、まるで自分の様だと言ったそうです。それは彼の仕事や生い立ち、外見と重なるからと言われていますが、私はそれだけでないように思います。

細く頼りない茎と消えそうな花ではありますが、地を這う茎からはやがて根が出て新しい茎が伸び花が咲き実をつけます。あの時代にあっては「栄華は短い。目立たず見過ごされがちな存在。だがそれは強い。」とリンネは本を手にした人に、そして己に言った気がするのです。

さて、こんにちスウェーデン人がこの花を愛する理由はどこでしょうか?聞いてみたいです。


リンネにまつわる展示「ルドベック・リンネ・ツュンベルク――ウプサラ博物学三代の遺産より」が丸の内のKITTEで開催中です。上の写真にあるスウェーデン植物誌のリンネ草版画が見られます。リンネ草が施されたリンネ愛用の中国製磁器の展示もあり鳥肌が立ちました。