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song of plants

遠い記憶から

2018.04.27 23:14

ニワゼキショウの小さな花を見つけて

思わずしゃがみ込んで眺めていた夕暮れ

この花を見るといつも思い出す

幼い頃の少し切ない出来事が

私にはありました

小学校の2年生の

美術工作の時間

「好きな花を描きなさい」

そう先生がおっしゃいました

学校帰りの放課後

少し遠回りをして

花を摘んだり

木の実を拾ったりすることが

大好きな子供だった私には

四季折々の名前も知らない

めずらしい草花や

植物たちとの出会いが

数えきれないほどありました

そのなかでも

春から初夏にかけて

野原一面に咲く

この星の妖精のような

ちいさな愛らしい花が

私は大のお気に入りだったのです

「好きな花を描きなさい」

そう言われて迷わず描いたのが

このニワゼキショウの花でした

まわりを見渡すと

チューリップやバラ

ひまわりにたんぽぽ

そういった花を単色で描く子供たちが

多かったように覚えています

みんなの絵を見ながら

教室の中をゆっくり歩いていた先生が

私の机のそばに立ち止まり

「これはなんの花ですか?」

絵をのぞき込んでそう言われました

けれども

そのときの私は花の名を知らず

答えることができなかったのです

すると続けて先生はこうおっしゃいました

「こんな花は見たことがありません。

名前も知らない嘘の花を描いてはいけません。

描き直しなさい。」

まわりでは

くすくすと笑う声が聞こえて

私はとても悲しい気持ちになりました

けれども

何より悲しかったのは

「嘘の花」

その言葉でした

自分の大好きな野の花を

先生は見たことがないという

春になると あたり一面に咲いている

こんなにも美しくて愛らしい花なのに

自分の知識の外にあるものを

大人たちは

すべて「嘘」だと決めてしまうのだろうか

けれども

その出来事があったからこそ

そのときの心の傷があったからこそ

のちの日々を重ねていくうえで

自分の糧になっていくことも

数えきれないほどあったように感じます

学歴社会の中で

敷かれたレールの上を競争しながら

生きていくことが当たり前の時代

就活自殺が千人を超えたという

悲しい報道

目を背けたくなる現実

野に咲く花の名前を知ることが

生きる上で何の役に立つというの?

そう尋ねられたなら

私には答えることはできません

けれども

自分の目に映るものや

知識の中だけで生き

その外側にあるものを

すべて嘘だと決めつけるような生き方だけは

選びたくないのです

「生きる力」というものや

謙虚に生きる術を

わたしはそういう場所や

自然界から教わっている気がするのです

あの頃と変わらず

美しく健気に咲くニワゼキショウの花

幼ない頃

たくさんの野の花と出会い

名前も知らずに

ただそっと眺めていた

煌くようなときめく想いを

私は一生大切にしたいと思います

不確かなもののそばにある

確かなもの

朽ちていくもののために生きるのではなく

残るもののために生きる生命の

煌きをそっと掬い上げながら


雑草という花はありません

草にはみんな名前があります

~昭和天皇~