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【セミナー報告】「平昌五輪スピードスケートメダル獲得を支えたスポーツ科学」

2018.04.28 10:01

2018年4月27日に開催されたJSAAオープンセミナー(主催:日本スポーツアナリスト協会)に参加しました!

「スピードスケート女子団体パシュートにおけるメダル獲得を支えたスポーツ科学の総合力」をテーマに、平昌五輪スピードスケート科学技術スタッフ、ナショナルチームコーチの方による講演が行われました。

他競技での実践事例を知ることで、棒高跳界の発展に繋がるようなヒントを得たいと思います。


【セミナーレポート】

《講演》

『スピードスケートナショナルチームにおけるビデオコーディネーターの役割と手法』

横川氏(平昌五輪スピードスケート映像サポート担当スタッフ)


・映像の撮影について

国内外合宿、試合に帯同し年間81日間の撮影を行った。

種目によってみるべきポイントが異なるため撮影する位置が変わってくる。

・パシュート:隊列(戦術)が重要⇒ストレート上方、横からの映像

・個人種目:フォームが重要⇒ストレート正面からの映像

撮影者1名に対して対象者1名(1チーム)になるように担当を決めて撮影。


・映像サポートのポイント!

スピードスケートチームに限らず、映像を活用するために最も重要なことは、

「視聴しやすい環境を整える」ことである。

いつでも・どこでも・どんな環境でも視聴できるようにすることが求められる。


撮影:ビデオ、ipad、パソコン

ビデオの整理:専用のソフトで選手ごとのフォルダに振り分け⇐なるべく早く!

選手に届ける:クラウド共有、HDDなどで共有。

選手が求めた時にストレスなく映像を見られるような”環境づくり”が重要である!




『パシュート団体金メダルを支えたテクノロジーとアナリティクス』

紅楳氏(日本スケート連盟技術科学スタッフ)


・平昌五輪に向けた科学技術サポートのまとめ

1)連盟の組織力とヘッドコーチのコーチング、選手の力

2)日本人スタッフの情報・科学の質は以前と変わらない

3)ヘッドコーチとSCコーチがデータの見方と活用方法の意識を変えた

4)オリンピック期間中は何もしない。事前に準備は済ませていた。

5)多くの団体とスタッフの協力

⇒平昌五輪では、強豪国に「スポーツ科学」で挑む環境が出来ていた!


平昌五輪後の強化部長コメント

「最強と思われる選手・コーチ・スタッフで臨み、オリンピックで問題が発生しないような事前準備を行い、その成果として、史上最高の結果を残すことが出来た。」


・科学技術スタッフからのスピードスケートチームへの提案

①速く滑る≠早くゴールする

スピードスケートにおいてカーブで50cm外を通ると、1カーブにつき1.57m余分に滑ることになる。

そのためコース取りが大きく影響する。

もちろんスピードを出すと遠心力によって外を通らざるを得ないが、インコースとアウトコースでも同じように大回りをする選手がいることから、遠心力に関係なく外を通ていることは明らかである。

W杯長野大会にて、実際に男子5000mを対象に調査を行った。

世界トップレベルの選手でも、実際に滑走した距離が50m以上の差(5002~5060m)があった。

そしてその中でも、余分に距離を滑走している選手の多くが日本人選手という結果に。

この50mは記録にすると約4秒のロスになる。

コース取りを修正することで大きく順位を変化させられると提案した。


②スマートなパシュートチームへ

隊列と先頭交代についてより効率的な戦術を追求した。


1)隊列について

パシュートにおいて隊列を成し、できるだけ空気抵抗を抑えることが重要にある。

風洞実験により理想的な姿勢と隊列を明らかにした。


〇左右のずれ

左右に40㎝ずれてしまうと:空気抵抗9%減(理想的な隊列の場合は空気抵抗60%減)


〇前後の距離と姿勢

2番手の選手について

前後の距離を近づけると:空気抵抗52%減

この時2番手の選手の姿勢が先頭の選手より高いと・・・空気抵抗4%減に留まり、1人で滑っている時と変わらない状況になる。


3番手の選手について

姿勢が高くても(空気抵抗47%減)十分に空気抵抗を抑えられていた。⇐意外な事実!


2)先頭交代について

これまでのスタンダードはカーブ中に隊列のすぐ外側を通りながら少しずつ下がる方法。

この時カーブで1m隊列の外側を滑るため3.14m余分に滑りながら、約3.5m隊の後方に下がらなければならない。そのため、カーブ終了後に隊列が戻るような形になる。

デメリットとして、このとき隊列の後方に下がる選手は大きな加減速が必要で、かつ大きな空気抵抗を受け続なければならない。


従来のデメリットを改善するために日本代表チームは大きく膨らみ、素早く隊列の後方に下がる方法を考えました。

加減速を抑え、素早く隊列に戻り空気抵抗を抑えることでパシュートチームの記録向上に繋がりました!


この内容に関しては以下のページでも紹介されています。




《パネルディスカッション》

『スピードスケート女子団体パシュートにおける金メダル獲得を支えたスポーツ科学の総合力』

横川、紅楳、糸川(日本スケート連盟ナショナルチームコーチ)

講演を行った科学技術スタッフ2名に、ナショナルチームコーチを交えたパネルディスカッションでした。興味深かった箇所を抜粋します。


Q.データを活用できるチームへ変化した要因は?

A.ナショナルチームとして、チームとコーチ、スタッフが関わる時間が増えた。その中でデータについて説明する機会が増え、またデータに触れる機会が増える中で、理解が深まり活用できるようになったと思う。

また、ヨハンコーチ(パシュートチームコーチ)のデータ活用について、

・議論できる機会が生まれた

・判断が早い

という特徴があった。常に結果に対して貪欲に取り組み、データが必要な時には科学技術スタッフに昼夜問わずに連絡していた。


Q.動き(フォーム)についてのデータ活用はどうでしたか?

A.日本のスケートはあまり細かい技術についてコーチングすることが少ない。

大前提である「大きな力を大きく効率よく伝える」ことを重視した指導である。

そのため細かいフォームは「個性」だと考えている。

もちろんフォームの動作分析は行っているが、なかなか現場に落とし込めていないのが現状である。

現在の科学技術スタッフのサポートとしては、動作を改善するためのデータ活用よりも、隊列やコース取りといった”戦術”面を活用した方が、チームの成果に繋がりやすい。(科学技術のメリットを発揮できる。)