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YAMAHA TX750 1972

2018.04.30 09:55

YAMAHA TX750 1972y 

(リード)

ヤマハ車として、初の750ccモデルとなったのが、この堂々としたフォルムのTXだった。すでにカワサキが海外向けに生産したZ1が輸出を開始した頃で、TXがセンセーショナルな話題を巻き起こすまでには至らなかった。先にデビューさせたXS-1が、同じビッグ・ツインのジャンルで10年の歳月を重ね合わせたことを思えば、TX750の短命はヤマハの4ストロークに対する運命さえも脅かすほどのことだったのかも知れない。


(本文)

 時代が大型車の需要拡大へと移行していく最中、2サイクルは、その領域を未だ可能性の一部として残していただけで、やがて4サイクルが主流を成すと判断していた。いち早くZ1を生みだしたカワサキは大成功。スズキはGT750で手探り、ヤマハにとっては決断の時だった。発売は1972年8月。ライバルモデルは、国内にCB750fourを置くだけで、自社のXS-1を控えたラインナップは、他社に比べても決して引けを取るようなものではなかった。XS-1を翌年(1973y)にはTX650へとネーミングを変更。更に、期待のTX500のデビューも間近となれば、それは鉄壁な築城となるはずだった。

 ビンテージ・ムードのXS-1のパワユニットに比べ、TX750のそれはセンスアップされたきめ細やかなデザイン処理が成されていた。ボディーサイドからはみ出したような誇張された存在感はなくとも、CBの4気筒ユニットと比べスペック上も遜色ない出来映えが自信の現れだった。幅広のシートレールが足付き性を脅かすものではあった。が、走り出してさえしまえば、タンクへのニーグリップを干渉するなにものもなく、そのスリムな設計思想が生かされていることに気づかされる。

 このモデルは、時としてオーソドックスと評されることもある。が、決してネガティブ(否定的)な意味でないということを理解していてほしい。すべてが、マルチ化に向かおうとする時代にあって、独創的な感覚を主体とした設計思想をもったヤマハには、それなりの自信もあったのだろう。事実スペック上では、CB750four-K2が、220kgの乾燥重量で67ps/8,000rpm。方やTX750が210kgに対し63ps/6,500rpmの出力となると、数値上ではハッキリとした違いにはならなかった。TXにも190km/hオーバーは確約されてもいた。バランサーを内蔵したOHCのパワーユニットは、振動も低いレベルのもので、操作性に悪影響を及ぼすものでなく、最大級のビッグ・ツインも意識することなく誰にも扱いやすい設定で仕上げられている。フレームも同型とするXS-1に比べ、ダブル・ループ式を採用して違いを見せている。が、出力に対しても十分に効果を果たしており、コーナリング性能はXS-1の比ではなくなっている。

 ブレーキは、フロントのディスクに関してだけ言わせてもらえれば、この当時としては優秀なレベルのものだったと記憶している。対抗ピストン・キャリパーのソフトなタッチとシッカリとした制動力、握り込みにやや深さがありホールド感が損なわれることもある。が、効き味は確かだった。リアは、200mmφのロッド式。コントロール性に関してはあまり誉められたものではない。

 走りに関しては、2,000rpm以上のレベルを保っていれば、どのギアでもスムーズに加速を行える。吸気は、SUキャブと言われる古典的な形態をもったものだが、チャージングのコントロール幅がせまいのが影響して、高回転までは回ろうとしないし、レッド・ゾーンまで回して楽しむオートバイではない。

 1973年12月、フロント・ブレーキのダブル・ローター化。1974年4月には、ブローバイ・ガス還元装置で排気ガスのクリーン化・・と、変革を行う。が、1974年、カワサキ750R Sの華々しいデビューとともに、翌年のラインナップからは外されていく。1976年4月に発表されたDOHC3気筒のGX750には、誰の目にも、TX750から伝承されたものなどなにもないことが明らかにされた。唯一の共通点となってしまったのは、独創的な策に拘ってしまった、ヤマハの迷いだけだったのかも知れない。

TX750B 1973y

 同年4月にはTX500もデビューするなど、TXシリーズとしての共通のイメージ化が図られていく。それぞれに個性あるモデルに対し、外観のデザインの統一化は、ユーザーの立場からすれば、あえて望むべきものではなかった。まして、XSは、そうしたマニアックなライダーの注目に値する、TXとは異なった趣のモデル。TXの進化はそれなりに課題でもあったはず。で、こうした困惑はそれぞれのユーザーの反発を招くだけの事となってしまった。TXに、よりピュアなスポーツ性が与えられ、進化を究めたならば、さらに興味を増し、短命に終わることはなかった。