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kanagawa ARTS PRESS

山本理顕の 街は舞台だ「横浜市立子安小学校 (設計:山本理顕)」

2018.05.14 15:20

第13回
子どもたちを見守ってくれるのは周辺地域社会の住人たち

まだ一部工事中。奥行き4mの広いテラスがこの小学校の最大の特徴である


 横浜市立子安小学校が完成した。1300人の子どもたちが学ぶことのできる小学校である。なぜこんな大きな小学校をつくることになったのか。近くに高層マンションがつくられることが決まっているからである。周辺の小学生人口は今後確実に増えるのである。

 それにしても、である。1300人という人数はあまりにも多い。先生たちはどこまで子どもたちに目配りができるのだろう、一人ひとりの個性の違いを大切にしながら、集団生活のルールを学ばせるためにはどうしたらいいのか。それが先生たちの最大の気がかりだった。私たちが設計者として選定された後に、その設計案を巡って、もう一度長い時間をかけて話し合わなくてはならなかったのはそのためもあった。

 建築家としてはもう一つ心配事があった。小学校を支える地域社会の範囲(小学校区)があまりにも大きすぎるのである。学校は教育の場所だけれども、一方でそれは同時に周辺地域社会の人びとの共同体意識の中心なのである。だから小学校の先生たちは、子どもたちに気を配ると同時に近隣地域社会の人びとに対しても十分に気を配る必要があるわけである。

 私たちは次のようなことを話し合った。

 教室を密室化しない。子どもたちと担任の先生との関係が教室の内側に閉じてしまうのではなくて、廊下との関係や隣り合った教室、向かい側の多目的室等との関係を積極的に活用してほしいと思った。そのために、従来の学校と比べてもかなり広い廊下とテラスなのである。時には廊下と教室を一体的に使う。広いテラスでとなりの教室の担任とも協働できるような授業形態も可能だと思う。テラスの奥行きは4mもあるのだ。積極的に廊下側にも外側にも開くような授業形態は校長先生の思いでもあった。それでも時には静かな教室もほしい。そこで廊下側の建具を工夫した。ガラス張りの透明な建具と木の建具を用意して、必要に応じて使い分けられるようにした。校長先生の言葉を借りれば、セミオープンシステムである。

 周辺環境に対しても、オープンな学校である。外から広いテラスで子どもたちが活動している様子が見える。子どもたちの活動を見守ってくれるのは周辺地域社会の住人たちなのである。

幅4mの廊下に面して教室が並ぶ。教室の建具は二重になっている


企画・監修:山本理顕(建築家)

1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。17年〜現在、横浜国立大学大学院客員教授。

©Jake Waltersm