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通信

【歩み寄る独裁者:3】:米国への忖度色濃く 完全な非核化実現へ懸念残す

2018.05.09 12:15

朝鮮戦争が休戦してから70年近く南北の間を分断してきた北緯38度線にある軍事境界線で、金正恩委員長と文在寅大統領が手を取り合った。


これまで南北首脳会談は3度行われ、今回は2007年以来11年ぶりの開催。

北朝鮮の最高指導者が、軍事境界線を越え韓国側に足を踏み入れるのは史上初めてのことだそう。


挑発的で暴力性をはらんだ言葉の応酬で有史以来初の核戦争勃発も危惧された昨年4月の緊迫感がまるで嘘のようだ。


戦前の日本と同様に、国際的な孤立を深め世界中から銃口を向けられるなかでいたずらに祖国の破滅へと突き進んでいくことをさすがに思いとどまったか。

しかも、先の大戦時のように北朝鮮に同調する“枢軸国”は表には出てこなかった。


米朝が戦争になれば北朝鮮に中国やロシアが資金援助を施すことはあっても、直接的な参戦はまずもってありえない。

先の大戦で戦争をすることがどれだけ経済を麻痺させ、人民の命を奪うか痛感してきた各国は、戦後自らは直接には手を下さない代理戦争という新たな戦争スタイルに味をしめるようになった。

結局はそれが現在の中東情勢の混乱や内戦の多発を招いているのだが。

今回の会談では朝鮮半島の完全な非核化を軸とした「板門店宣言」が出された。

そこに注目をしながら両首脳の思惑を探っていきたい。


◇日本への敵対心隠さず

 「板門店宣言」の概要

・完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現する共同の目標を確認

・今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、平和体制を構築するため、南北米の3者または南北米中の4者会談の開催を推進

・文在寅大統領が今年秋に平壌を訪問

・当局者が常駐する南北共同連絡事務所を開城(ケソン)に設置

8月15日を契機に離散家族、親戚の対面を進める

・軍事的緊張と衝突の根源となる一切の敵対行為を全面中止

(朝日新聞2018年4月28日付朝刊より)

 

南北両国は、法的には戦争状態にある。

その状態を完全な終戦へと持ち込む方針を確認し合った。

そして気になる点が2つある。

1つ目は朝鮮戦争終結後の4者会談の開催だ。

金正日政権時代の6ヵ国協議は、日本とロシアの首脳も参加していた。それが今回の合意で日露を除いた4ヵ国で進めていくという方向性が示された。



さらに、離散家族や親戚の対面を認める日にちが朝鮮戦争が休戦とはなんの関係もない8月15日であることが非常に気になる。

この日はいうまでもなく、先の大戦で日本が連合国側が要求するポツダム宣言の受諾を発表した日だ。

この戦争の当事国だった南北両国が勝利した日でもある。


わざわざその日を選んだということは、これまでの南北の分断は先の大戦での日本の侵略行為が遠因となったと認識していることが分かる。


実際に、この歴史的会談の裏で北朝鮮は日本に向け「(拉致問題解決の前に)謝罪と賠償が先だ」とコメントしたとの情報もある。



また、先日北朝鮮が核実験およびミサイル発射実験の中止を表明したが発射実験を中止するミサイルをあえて米本土を射程内に収めるICBMに限定した。

要するに、日本本土を射程内に収めるミサイルの発射については否定していないのだ。


これらを総合的に勘案すれば、“日本外し”の構図を明確に打ち出したといえるだろう。



◇完全な非核化に対する認識にズレ


一方の米国は南北融和の動きを歓迎したものの、完全な非核化に向けたプロセスの認識にはズレが生じている。


=朝日新聞2018年4月29日付朝刊


上の表を見れば、北朝鮮側は米国および他のあらゆる国からの軍事的脅威を排除し、体制維持つまり金正恩を最高指導者とする統治のあり方を認めること、さらに各国から科されている経済制裁についても解除はもちろん経済支援を受けることで非核化を段階的に実現していく構えであることが分かる。


他方で米国は、北朝鮮側の具体的な非核化に向けた行動が見えない限りは経済制裁などの圧力を維持する構えだ。


また、核実験施設の破棄については一部のみならずすべての施設の破棄を要求。その上で、IAEA(国際原子力機関)の査察を受け、核兵器自体の完全廃棄を確認する。

そして、完全な非核化を確認できれば今後一切の核開発を認めないことを約束させる。といった内容だ。


米国はより具体的で不可逆的(元の形=核開発を軸とした軍拡路線に戻せないようにする)な解決を求めるという強気の姿勢を崩していない。

理念的な非核化を掲げる北朝鮮とは依然溝があるままだ。


さらに、米国は経済制裁の解除を北朝鮮の具体的な行動を伴う非核化が図られた後とする一方で北朝鮮はその経済制裁が朝鮮半島非核化の妨げになっているとの認識を示した。



◇冷静さ捨てず注視を

朝日新聞は、南北首脳会談翌日の社説で「07年の前回に出た南北共同宣言から大きな進展はなかった」と南北融和への歓迎ムードに釘を刺した。


たしかに、日本はいまだ拉致被害者を人質に取られている上南北融和に向けた動きのなかに居場所を見つけられていない。

そんな日本が冷静さを捨てないのは当然のことだ。


しかし、当の安倍首相の現状認識が甘く日本が北朝鮮問題におけるイニシアチブをとれているとのアピールに終始するあまり、南北首脳会談で拉致問題を取り上げるよう文在寅大統領に要請するという頓珍漢ぶりを発揮したのだ。


拉致問題はあくまでも日朝間の問題であり、残念ながら米韓にあまり関心を抱かれていない。


拉致問題は日朝首脳会談で話し合うべきこと。それまで、日本は無理に首を突っ込まず、第三者的目線で北朝鮮の言動を注視していくべきだ。



◇交渉決裂なら破滅の一途

金正恩は、もはや後戻りできないところまで来てしまった。これだけ国際的な関心を集めた以上、南北融和や朝鮮半島の完全非核化が実現できなかった場合の損害は計り知れない。

今度こそ、世界中のどの国も北朝鮮に手を差し伸べなくなるだろう。

そこまで来てしまったということを金正恩はさすがに自覚しているはずだが・・・・。