奈良大和〝吉野の櫻〟・〝櫻と日本人〟
日本人程櫻を愛する人種はいない。〝花〟と言えば〝櫻〟である。世の中に〝天下の櫻〟と称する全国桜名所100選などと言うのがあり、お花見を楽しむ(無知似非事記載の「桜狩り」と言う日本語は無い)。平成30(2018)年は、寒冬が影響しラニーニャ現象やらと奈良大和では例年より5日も早く3/24開花宣言✤で国中(くんなか)では26~4/2日頃で「染井吉野」などの櫻が楽しめそうだ。その後、「ならの八重櫻」✤が開花する。
櫻前線は20日九州・東京から始まり今まさに日本列島春真っ盛り、徐々に北上し北海道札幌に5/1頃上陸し釧路へは13日に達するらしい。染井吉野(沖縄・北海道繁殖無)・枝垂れ桜・山桜・八重桜・大紅枝垂れ・大山桜の花の波は50日かけて列島を縦断する。
櫻と言えば〝吉野(大和のよしの)〟吉野とくれば〝櫻〟が枕詞である✤。平成の世の中で忘れている、ほんまもんヘリテージを記しておく。
往古以来、平安末期の西行法師(佐藤義清さとうのりきよ・1118~1190)『山家集』の和歌2,090首中230種が櫻で占められ櫻を目出た人物と認知されている。「願わくは 花のしたにて春死なん そのきさらぎの 望月の頃」は昔の日本人なら記憶にある詩だ。吉野の櫻は世阿弥の能〝西行櫻〟の記憶と人形浄瑠璃・歌舞伎の名作〝義経千本櫻〟、開祖役行者や金剛蔵王大権現の神木信仰から大切に守られてきた。白山桜を主として200種三万本が谷や尾根を埋め尽くす。江戸期からの植林櫻で下千本・中千本・上千本・奥千本と山の奥に広がりを見せていく、「一目千本」と言われる大パノラマ。戦前より地元、吉野山小学校(統廃で現在吉野小学校)生徒が種拾いや植樹保護の桜守をしてきた事を知る人は少ない。
✤奈良県の〝染井吉野標本木(植物季節観測用標本)〟は、奈良女子大學付属中等教育学校校庭にある。判断するのは西紀寺町にある奈良地方気象台だ。ちなみに平年の開花は3/29・満開は4/5と言う。
✤〝奈良の八重櫻〟は、「いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に にほひぬるかな」(伊勢大輔・勅撰和歌集『詞花集』)と詠まれている。東大寺知足院で明治23年三好學博士によって発見され、奈良市役所・家庭裁判所・県立美術館・知事公舎・奈良春日野国際フォーラム甍周辺・茶山園地で増殖中。
✤往古以来大和心(日本人精神)には、「花は櫻木、人は武士」の言葉があり、武士の潔さは死に際にありと言うのである。櫻もまた散り際が見事であるから美しいとされる。また吉野山の櫻の美しさを詠った白眉に本居宣長の「敷島の大和心を人問わば朝日に匂う山櫻花」は日本人なら誰でも知っていたもので、国の為に強いられ死で散った若者を悼むものとして記憶したいものである。
✤この季節に味わいたいのが、櫻の葉で包んだ漉し餡入りの半殺しの〝櫻餅〟。上方(関西)と下方(関東)では外見上も大きな違いがある事も伝えておこう。
【freelance鵤書林136 いっこう記】