「道はひとつじゃない」People in Iowa #3: Pragnya
"People in Iowa" 第3回目は、インドからアメリカに移住後、ダンススタジオを経営しながら9歳と6歳の息子さんを育てていらっしゃるPragnyaさんです。
Pragnyaさんとは、国際交流団体CultureALLの活動を通じて知り合いました。
一緒に学生向けのワークショップをさせていただいた時、ダンス自体の素晴らしさはもちろん、参加者を引きつけ、みるみる巻き込んでいく姿がとても印象的でした。
外国に移住し、そこでお仕事と子育てをする…想像しただけですごく大変そうですが、Pragnyaさんはいつも穏やかな雰囲気を纏っています。
今回、Pragnyaさんが日々どのようにバランスをとっているのかを中心に、お話をお伺いしました。
人事からダンスアカデミーのオーナーへ
ーこれまでのキャリアについて教えて下さい。
インドでは、MBAを取得後、企業の人事部で採用に携わりました。
2005年に同じくインド人の夫と結婚しました。
結婚当初は夫の仕事の関係でオーストラリアにいたのですが、その後夫はアメリカでの仕事のオファーを受けました。
2006年に夫の勤務期間が延長となったことをきっかけに、前職を退職し、アメリカへの移住を決めました。
私は南インドのカルナータカ州・バンガロール出身なのですが、3歳の頃から、「Bharatanatyam」「Kuchipudi」と呼ばれるダンスを習っており、師範級も取得しました。
インド各地でパフォーマンスをしたり、テレビ番組で子役やダンサーとして活動したこともあります。
どこへ行ってもダンスは続けたいと思っていたところ、移住して数ヶ月後、アイオワのヒンドゥー教の寺院で、パフォーマンスをする機会をいただきました。
そこで踊りを見ていた方々から、ダンスを教えて欲しいと声をかけられたのです。
また、CultureALLの創業者にも声をかけていただきました。
世界中の文化を学生へ伝えるというCultureALLの取り組みにとても共感したので、私もダンスのワークショップをさせてもらうことにしました。
ワークショップでの生徒達の反応を見て、ダンスアカデミーを開く事を決心しました。
同時に、コミュニティカレッジで経営の勉強も始めました。
アカデミーを開いて、今年で10年になります。
インドでの価値観
ーインドの家庭生活に関する価値観について教えてください。
インドでも保守的な家庭はありますが、私の世代からは、「女性は家庭を守るべき」という考え方は減ってきました。
かつて、女性が歌ったり、踊ったり、絵を描いたりと趣味を持つことに否定的な雰囲気もありましたが、今では、多くの人が新しい価値観を受け入れています。
私の夫や義理の両親は、私がダンスをすることに対して協力的なので、私はとてもラッキーでした。
ー旦那さんとは、どのように出会われたのですか。
お見合いです。
私の世代では、7〜8割の人がお見合い結婚をしていました。現在では、半数ほどだと思います。
お見合い結婚では、通常男性が女性の家に挨拶をしに来ます。
私は彼本人と話すことができましたが、中には、男性と両親のみが話をして結婚を決めることもあります。
彼と初めて話した時、彼の心の広さと細かな気遣いのおかげですごく心地よかったことを覚えています。「この人だ!」と感じました。
両親や親戚にも丁寧に対応してくれている姿を見て、彼と結婚しようと思いました。
勉強も仕事も、子育ても
ー一人目のお子さんを産んだ時と、ご自身が学校に通っていた時期は同じ時期ですね。どのように時間をやりくりしていましたか。
夫のサポートに支えられました。
とても理解があり、協力的な夫に感謝しています。
ーこれまでで最も大変だったことは何ですか。
子育てをしながら、ダンスアカデミーへの情熱を保ち続けることです。
発表会の前には、私の両親や夫の両親にアメリカに来て一ヶ月ほど滞在してもらい、家のことを手伝ってもらったこともあります。
3時間にわたるパフォーマンス、35〜40種類に及ぶダンスを全て一人で教える必要があったので、どのように時間を使うか考える必要がありました。
夫も仕事の合間をぬって、例えば休憩時間やミーティングがない時など、できる限り子どもたちの世話をしてくれました。
もちろん、近くに住む友人にも、子どもを見てもらったことがあります。
ー旦那さんとはどのように家事を分担していますか。
正直にお話しすると、家事の分担について話し合ったことはありません。
片方が取り組んでいたことが終わらなければ、もう片方がその続きをするようにしています。
カレッジで午後の授業をとっていた時、夕食を作るのが難しい時もありました。
その時には、彼に夕食作りをお願いしていました。
ルーツを伝える
ー子育てで大切にしていることは何ですか。
私たちは家族の時間や、母国の文化に触れる時間をとても大切にしています。
子どもたちはアメリカ生まれのアメリカ市民ですが、私は彼らにインドの文化に触れ続けて欲しいと思っています。
インドに戻った時に、自分たちはよそ者だ(out of space)と感じて欲しくないのです。
彼らはインドの楽器も演奏しますし、インドの歴史物語も読みます。
1年に1度はインドに帰るようにしているのですが、子どもたちにはインド人とコミュニケーションできるように母語kanndadaをを教えています。
成長するにつれ、二つの文化に興味を持ち続けることは難しくなるかもしれませんが、私たちは子どもたちがインドの文化に関心を持ってくれるよう工夫しています。
それが私たちの役割だと感じています。
ーアメリカに住む外国人の中には、子どもたちに彼らの母語や文化を教えない人もいると聞きました。ダンスをきっかけに、子どもたちがインドの文化に興味を持つことは素晴らしいと思います。他には、子どもたちにどのようなことを重視して教えていますか。
人に対して敬意を示すこと。
起こったことを受け入れ、行動を起こすこと。
もし分からないことがあればきちんと議論し、解決していくこと。
この3点を重視しています。
例えば、インドの学校には制服がありますが、アメリカの学校には制服がありません。
時に子どもたちに何を着せるか悩ましいものです。
子どもたちが「この服を買って!」とお願いしてきた時、私たちはそれが本当に必要なのかきちんと話し合い、結論を出すようにしています。
欲しいものを何でも買い与えるのではなく、必ず話し合いをするのです。
一方的に押し付けることはしません。
子どもたちが間違っていることもあれば、私たちが間違っていることもありますから。
話し合いを通じて、子どもたちには私たちと繋がっているという感覚を持って欲しいと思っています。
どんな時でも、何についてでも話し合えると感じて欲しいのです。
大家族のようなダンスアカデミー
ーダンススタジオには何人くらいの生徒さんがいますか。
50人以上の生徒を受け持っています。
ーどうやって生徒数を増やしたのですか。
実は、一度も広告を出したことはありません。
口コミやイベントでの私のパフォーマンスをきっかけに連絡を頂いています。
「ホームページやフェイスブックページを作ってみたら?」と勧められたこともありますが、私はダンススタジオを自分の幸せのためにしているのであって、ビジネスと考えているわけではありません。
生徒を受け入れる時には、その子に学ぶ準備ができているかを見ます。
例えば「1年間何かを習いたいから」という理由で受け入れることはしません。
「ダンスとは何なのか、どう磨いていくのか」を理解するためのレッスンであり、学びに終わりはないということを最初に伝えています。
ー子どもたちの興味をひくために、行っていることはありますか。
生徒を引き付けるためには古代の伝統と現代の文化をブレンドしなければいけないと思います。
例えば、私は伝統的なダンスをする時に最新の音楽をかけることがあります。
また、CultureALLのワークショップでは、アフリカンドラムに合わせて踊ることもあります。
私は、基礎の部分、核となる部分を丁寧に教えることが好きです。
そうすれば、成長した時にどんな音楽にも合わせて踊ることができるからです。
インドでは、大きく分けて3種類の舞踊があります。
クラシカルダンス、フォークダンス、そしてボリウッドダンスです。
ボリウッドダンスは映画によって有名になりましたが、クラシカルダンスはあまり知られていませんね。
毎年行っている発表会では、Bharatanatyam、Kuchipudi等のクラシカルダンスだけでなく、インドのフォークダンスも練習して踊っています。
異なるコンセプトを知って欲しいからです。
時には、生徒に課題曲を与え、自由に踊りを作ってくるよう宿題を出すこともあります。
ーダンススタジオを経営していて、印象的だったことは何ですか。
発表会の準備や当日を通じて、みんなが「Esahanejali(Pragnyaさんのダンスアカデミー)」は大家族のようだと言ってくれたことです。
観客の方が私たちのチームワークを見て「良かったよ」と言ってくださることも嬉しいですし、ダンスから料理、装飾に関して協力しあえる雰囲気が好きです。
生徒やそのご家族だけでなく、友人やご近所の方からもたくさんの協力を頂いています。
学びは終わらない
ー周りの方に協力してもらえるのは、Pragnyaさんの人柄によるところも大きいのではないでしょうか。人と関わるとき、どのようなことを心がけていますか。
そうですね、常にフレンドリーでいるようにしています。
もし私の雰囲気が悪ければ、目の前の人は私と話したいとも、私のことを助けたいとも思わないでしょう。
常に心の中に余裕を持って、人が話しかけやすい自分でいるようにしています。
また、常に人のことを理解しようとする自分でありたいと思っています。
ーモットーはありますか。
私は「学びは終わらない」と信じています。
常に学び、前進し、受け入れ、挑戦し続ける必要があります。
単に知識を身につけて自分のものだけにしておくのではなく、それを他の人に伝えていくのです。
ー「学んだことを伝えていく」、まさにPragnyaさんがアメリカでされていることですね。Pragnyaさんには、メンターはいますか?
みんなから学んでいます。
誰か一人のメンターから学んでいるわけではありません。
夫からは”忍耐”を学んでいます(笑)
時には、私の生徒からも様々なことを学んでいます。
それぞれの生徒が違う性格を持ち、それぞれの課題に向き合い、新しい事を学んでいます。
その姿から私も学んでいるのです。
ー良い気分を保つために行っている習慣はありますか。
外を歩くことが好きです。
ヨガをすることもあります。
また、朝にはお祈りをしています。
家の中にはお祈りのためのスペースがあり、ヒンズー教の神様の像があります。
時には落ち込む事もありますが、そんな小さな習慣たちが、”今日もいい1日になる”と感じさせてくれるのです。
ー最後に、メッセージをお願いします。
全ての人が夢を持ち、挑戦し、達成できるように祈ります。
どうバランスをとるか、どう優先順位をつけるか試行錯誤してみてください。
変化を受け入れ、柔軟になってください。
子どもを持ちながらキャリアを築いていくには、葛藤もあると思いますし、時間もかかるかもしれません。
ですが、忍耐強くあってください。
そして、正解は一つではないと知ってください。
達成するために様々な道を試してみてください。
インタビューを終えて
インタビュー中とても印象的だったのは、Pragnyaさんとご主人のYogiさんの仲の良さ。
家事に関しても、お互いを思いやる気持ちから、片方が終わらなかったことを自然とフォローしているのが素晴らしいなと感じました。
また、Pragnyaさんの言葉の中で、「変化を受け入れ、柔軟に」とありました。
Pragnyaさんがアメリカでご活躍されているのは、まさにこの考え方を体現されているからだと思いました。
環境の変化によって、従来のキャリアを一度ストップすることになったとしても、それは新しい可能性を開く鍵にもなり得る。
Pragnyaさんの朗らかな笑顔と力強い言葉から、前に進む勇気をいただいたインタビューでした。
Pragnyaさん、ありがとうございました!
英語バージョンはこちら↓