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中村鏡とクック25cm望遠鏡

花山の夜を語る2

2018.05.05 01:12

 1枚目の写真は、西村繁次郎氏(株式会社西村製作所初代代表取締役)が花山天文台10インチブラッシャー反射赤道儀で撮影した、こと座環状星雲M57です。撮影されたのは、1933年(昭和8)7月29日で、露出は1時間。まさに、本文の内容と合致します。2枚目の写真も、西村繁次郎氏が、花山天文台で撮影した星野写真(撮影日等は不明)です。西村繁次郎氏は、花山天文台の旧職員でもあったので、n氏は、西村繁次郎氏なのかもしれません。(いずれも伊達英太郎氏天文写真帖第2巻より)

                花山の夜を語る2 KKON生

a:最高何倍に見える?

n:さあ、それはシーイングによって色々でしょう。最高倍率も使用できようし、またダメな日もあります。口径が大きくなるとシーイングの影響を受けることが大きいので。2,3インチの使用者には想像が出来ないよ。

a:そんなものかな。もう一度替わりましょう。

n:先日このテッサーで白鳥のγを撮ったんです。最初2時間の露出の積りでやったんですが。1時間が済んで後1時間になって、長いなーと思った。その時は油断が出来たのでしょう。ふと誤ってガイディングの接眼部に頭を「コツン」と当ててしまったのです。しまったと思ったが取り返しはつかぬ。そのまま露出を継続したら、乾板一杯に二重星が写ることになる。つまり接眼筒に多少歪みが出来てることは勿論なんですから、時計を見て75分だったから中止しましたが意志薄弱だったんです。天体観測は全て魂強くやらねば駄目です。まあそんな事は誰でも知ってることなんですが。失敗をやった時、強く考えさせられるのです。

a:けれど、その乾板は良いのでしょう。

n:悪くはないのです。βが写らなかったのですが、美しい無数の星が写っていました。焼き付けもしました。見るには焼き付けた方が実感が出ます。原板では見にくいですから。けれども焼き付けすると微星は消えて数が減りますから。また、原板も微細で美しいものです。

a:現像液は何々で?

n:現像液は何でも良いでしょう。本館の下が暗室に中村さんの書かれた処方がありますので、それを使っているんですが。

a:夏は現像は難しいでしょう。膜がゆるんで。

n:ここの水はタンクです。一丁ほど西の谷からポンプで汲んでいます。ですから幾分冷たいですよ。ちょっと替わりましょう。

a:いて座あたりも美しいですな。写真に撮りたいですね。

n:それは私も思っているのです。今度撮ります。充分露出をかけて。

a:2インチの屈折を赤道儀に作って、写真は撮れないでしょうか。

n:短時間のものなら撮れるでしょう。だが、マウンティングが移動運搬の物では具合悪いですな。格納小屋を作るか、或いは鏡筒を取り外して機械部を防水布で保護されたら一番簡単でしょうが。

a:時計が悪くてもいいでしょうか。

n:さあ、そこはウォームギアーにもよるんだが。ホイルの大きい程、満足なものが撮れる筈です。

a:素人細工で少々無理なことだなあ。

n:少々所ではないでしょう。あは・・・・。

a:もう1時間に近いでしょう。

n:話をしていると撮影も時間が楽にたってくれる。11時23分、ここでストップです。膜を閉めて、取枠を抜いてください。

a:現像をすぐにやる?

n:ああ、やります。暗室に行きましょう。

a:広い暗室ですね。

n:天文台には5ヶ所も暗室があります。が、本館の下のこの暗室が一番広いんです。まず、カメラの星野の方からします。この乾板は期待しているんですよ。反射焦点の方は試験撮影なんですから。

a:出ましたか。写っていますか。

n:はて妙な。うむ!何にも写らんとは不思議だな。取枠が表と裏と間違うていたかな。確かに⑥に合わした筈だが、⑤だったかな。残念!無念!

a:あは・・・・。1時間棒に振ったかな。

n:まあ、そんなことだな。こちらのを現像やってみよう。

a:写っているかな。

n:出たよ、出たよ、有難い。

a:星雲わかるか。

n:まだ、そこまで行かないよ。定着済んでから調べるんだ。

a:どんなものかなー。

n:これを見てご覧。なんとはっきり環状が写ってることよだ。まあ助かった。1時間無駄でなかったよ。

a:ははあ、写ってるね。環状がはっきりと出ている。眼視ではとてもこんなに見えないね。

n:朝に引き伸ばしをやってみよう。水洗だ。ーもう12時。ブラッシヤを片付けるから手を貸してもらう。

a:あの星雲いくら程の大きさかな。1ミリ半?

n:その位はあるだろ。引き伸ばして5ミリになればそこそこ見られるからね。

a:そんなに大きくなるかな。

n:少し粒子が荒びるだろうけれど。

a:これで明日が楽しみに寝られる。

n:クックで土星を観測しない?

a:ああ、見せて貰おう。是非!

n:まだ誰か観測しておられる様だなー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もう済んでいる様だ。見てご覧。

a:これは何倍かな。

n:700倍だよ。まあよく見とき給えよ。

a:この美麗しい土星の環、クックの700倍の美麗しさは一生眼底に残るよ。美麗しいなあ!最高倍率は?

n:接眼箱には900倍とあるのが最高だね。最低は50倍くらいだよ。もう1時半だ。

a:ああ、もう寝ようか。遅くまで済みませんでしたね。

n:スリットを閉めますよ。この制動器を右にやれば閉まるです。2馬力のモーターでね。

a:ドームも回るんだね。

n:そうさ。やはり右は東に回り、左は西に回るのさ。

a:プレアデスがあんなに高く上ったよ。

n:もう秋の空だよ。今時分。さあ、下りて寝よう。

a:あっ、この室は中村さんの室だね。この室で寝るのか。

n:そうさ。中村さんの名札が今でもあのままさぁ。まだ時折、中村さん宛に手紙も来ることがあるよ。

a:中村さんは惜しい人だね。

n:蚊取り線香をくべた。では、お休み。

a:ああ、おやすみ。また明日ね。

(THE Milky Way 第4号 P.29-38 1933年(昭和8)10月5日発行)