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気遣い

2018.05.06 13:24


 女性ということもあったのだろうが、それだけではない彼女特有の繊細さがあったように思う。それはたとえば、テレビ番組などの共演者に対する配慮がそうだった。 
 あるとき、テレサがテレビ番組で、ある日本の歌手とステージでデュエットをするということがあった。 
 日頃のテレサは少し高めのヒールの靴を好み、このときも高いヒールの靴を履く予定でいた。ところが本番前のリハーサルで、テレサとその歌手が並んでみると、少しだけテレサの身長のほうが高かったのである。 
 テレサの身長は一六四センチほどで、当時の女性にすれば背の高いほうだった。男女が並んで、男のほうが低いとよくないというわけではないが、女が低いほうがやはりバランスはとれている。歌う曲の内容からしても、テレサが低いほうがイメージにあっていた。 
 テレサもそんなことを思ったのだろう。リハーサルが終わると、テレサは黙って踵(かかと)の低い靴に履き替えた。 
 衣装は床につくかつかないかというほどの、真っ赤なロングドレスだったから、靴は替わっても目立たなかった。そして、本番にはバランスのとれたふたりの男女のデュエットが実現したのである。 
 テレサは、こういうさりげない気遣いをできる人だった。   

『追憶のテレサ・テン』(西田祐司・著)