結婚20にして
僕には妻がいる。
いや、詳しくは「妻を所有している」
出会いはお見合いだ。
お見合いと言っても親が勝手に決めたもので、僕がそれと結婚するのは当然だった。お互いの事を何も知らずの結婚。
まぁ僕はどうでもよかったんだけどね。親の好きにさせておけばいいんだ。
妻の第一印象は、「エメラルドグリーンが似合いそう」だった。
それ以外には特にない。
だから結婚式のお色直しにはエメラルド色のドレスを着せた。
似合ってはいたが、このドレスが哀れな妻を包む包装紙に見えて仕方がなかったのを覚えている。
それから僕はなにか妻が似合いそうな物を見つけると買い与えるようになった。
機嫌取りじゃないさ。
ただ、よくわからない相手に嫁いできた彼女を憐れんでの事だろう。
それに、着せ替え人形の様で面白いんだ。
何を持ってきても受け取って身に着ける。
僕は着飾った人形に満足する。
そんな毎日が続くと思っていた。
結婚20年目の事。
突然妻にリビングへ呼び出された。
熟年離婚…そんな言葉が頭をよぎる。
まぁ仕方がない事だ。愛などない結婚生活。
これからは自由を謳歌したいのだろう。
『仕方がない事だ…』
そう呟きリビングに出た。
パァーン!!
妻がクラッカーを鳴らした。
「今日で結婚20年ですよ!」
唖然としている僕を今度は大きなケーキが迎えた。
「ケーキを作りました。前に美味しいと言っていただいたので。」
『…覚えていたのかい?』
「もちろんです。嬉しかったんですもの」
『…いや…結婚記念日を…』
「それは当然!覚えていますわ」
『そうか…いや、呼び出されたから僕はてっきり離婚するのかと…』
「えぇ!何故ですか?私はこんなに愛されて幸せですよ?」
僕が彼女を愛している?
『えぇ!?』
驚いて叫んだ。
だって僕が彼女を愛している?そんな馬鹿な!
「だって貴方、プレゼントを買っている時、何を思っています?」
『…それは、プレゼントを身につけた君…』
「そうでしょう?それは何故だと思います?」
何故?何故なんだ…
「想像したときの、プレゼントを身に着けた私は、どうでした?」
想像の君はいつも…喜んでいた
「貴方はね、喜んだ私の姿が見たかったんですよ!」
『うわぁぁ…』
混乱する僕の前に彼女が来る
不敵な笑みを浮かべ、僕に向かって言い放つ
「教えてあげましょう!貴方はね、私に恋しているのよ!」
鉄槌のような言葉
ガァーンと音を立て、崩れゆく僕の理念
膝から崩れ落ちる
「…証拠にね、実際私がプレゼントを身に着けている時、
貴方とっても優しい顔になるの。…それが私、とっても好きなんです」
『す…!』
彼女が第二の鉄槌を振りかざした途端、彼女が好きと言った途端、
僕の心からあふれ出す得体のしれない感情に溺れそうになる
彼女の顔が見れない
胸が苦しい…!
「あの優しい顔が見れるだけで、私は結婚して幸せだと思えるんです」
「…結婚してくれて、ありがとうございます。」
『ぐぅ…!』
頭がぐらぐらする。
そんな中でも僕は『あのお店のあの口紅、彼女に似合いそうだから今度プレゼンドしよう。そしてその唇にキスを…』と思っているので僕は本当に彼女の事が好きなんだと思う。
齢45歳にして、恋を知る。