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Dream

わたしを束ねないで

2016.01.02 00:24

秋に日本に帰ったとき、本屋さんでたまたま見つけた新川和江さんの『わたしを束ねないで』という詩。


新川和江さんという方も、この詩もその日まで知りませんでした。


その日、本屋さんで初めて読んだとき目頭がぐっと熱くなったこと、今も鮮明に覚えています。


戦前の1929年に生まれたひとりの女性の心の叫びは、戦後に生きてる私の心の叫びとピッタリと寄り添い重なりました。


科学技術は進化し、経済は発展し、いろんなものが戦前とは変わってきてると思いますが、それでも、ひとりの女性の心の叫びは、今も色褪せることなく、この時代に響いています。


ううん、今もこの心の叫びが叫ばれていると思います。



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『わたしを束ねないで』  


わたしを束ねないで

あらせいとうの花のように

白い葱のように

束ねないでください わたしは稲穂

秋 大地が胸を焦がす

見渡すかぎりの金色(こんじき)の稲穂


わたしを止めないで

標本箱の昆虫のように

高原からきた絵葉書のように

止めないでください わたしは羽撃(はばた)き

こやみなく空のひろさをかいさぐっている

目には見えないつばさの音


わたしを注(つ)がないで

日常性に薄められた牛乳のように

ぬるい酒のように

注がないでください わたしは海

夜 とほうもなく満ちてくる

苦い潮(うしお) ふちのない水


わたしを名付けないで

娘という名 妻という名

重々しい母という名でしつらえた座に

座りきりにさせないでください わたしは風

りんごの木と

泉のありかを知っている風


わたしを区切らないで

,(コンマ)や .(ピリオド)  いくつかの段落

そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには

こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章

川と同じに

はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩


新川和江